[時系列まとめ] 起業の民主化・産業化を進めたスタートアップスタジオの世界的な盛り上がり
2000年代後半から徐々に盛り上がってきたスタートアップスタジオ。今回は大きな流れを見ていきます。
スタートアップスタジオの進化の全体像
FKTRY創業者のJulesがMediumで投稿したこのチャートがわかりやすいかもしれません。ちなみにFKTRYはスタートアップスタジオが進化した「Creative Capital Studio」を運営しており、これも興味深い事例なので別に紹介しようと思います。
(上図:The Origin and Evolution of the Startup Studio)
エンジェルやアクセラレーター、ベンチャーキャピタルがより成功確度の高い投資モデルを追求した結果として、資金という意味でのVenture Capitalではなく起業家とそれを支えるチームというHuman Capitalこそ注目すべきだとして台頭してきたのがスタートアップスタジオという概念でありビジネスモデルだというのが私自身の整理です。
1st wave(2007年〜)
初期の代表的なプレイヤーとしてはBetaworksとRocket Internetの2社がいます。
Betaworks
BetaworksはNYを拠点に活躍するスタジオで、インターネットとメディアを領域の中心としています。2020年5月にFacebookが買収したあのGiphy。2013年、BetaworksにいたHacker in Residenceの2人が生み出したプロダクトです。BetaworksはVCファンドも運営していて、アーリーでTumblr、Kickstarter、Medium、Gimlet、このあたりにも出資し支援しています。何となく毛色はわかりますよね。今なおリーディングプレイヤーとして成長を続けるBetaworksです。
Rocket Internet
ベルリンが拠点のRocket Internet。良い意味でも悪い意味でも最も有名かもしれません。アメリカで成功していたインターネット関連のビジネスをそのまま他の国・地域に圧倒的なスピードとエグゼキューションでコピペして制圧するという荒技を披露していました。トニーシェイのZapposを真似たZalandoが有名ですね。個人的にタイムマシン戦略は好きですし、アイデアはやはりどこかで見聞きしたインプットやその掛け合わせだと考えているので、そのモデルに共感する部分もあります。2014年に上場済みで、7月上旬現在で時価総額は約€2.7B(3,000億円超ぐらい)です。
2nd wave(2010年〜)
以前別にご紹介したprehypeやeFoundersがここで登場します。そしてさらに登場するのが、著名なD2Cブランドの立ち上げ&成長に大きく関わったScienceです。
Science
ScienceはMySpace元CEOのMicheal Jonesが立ち上げたLAのスタジオです。ユニリーバが2016年に$1Bで買収した、あのDollar Shave Club(DSC、2012年創業)の最初の投資家であって、Science自体がDSCのCo-Founderに近い存在です。DSCは男性用シェーバーを安価なサブスクリプションで売って当時のGilletteやSchickに対抗しようとし急成長を遂げたD2Cブランド(ググればいろいろ分析記事が出てくると思います)。
スタートアップスタジオ的な解釈だと、外部から持ち込まれたアイデアとその起業家を評価し、共に検証してこれはいけると判断したら、株式の一部を保有し会社化させて共同創業者的立場でプロダクトをグロースさせていく、という関わりです。Michealはピッチを受けた2011年から、2012年会社設立後にはボードメンバーに入り、エグジットまで併走を続けたようです。ピッチを受けた時にすでに「あのビデオ」を見せられたと、当時の様子をMichealが投稿しているので興味ある方はこちらをどうぞ 。あのビデオとはこの有名なバイラルビデオ「Our Blades Are F***ing Great」。私が海外のビジネススクールに通っていた時にケースの一部にもなっていました。D2Cに関わっている人は、ロンチ時のPRどうするかというアイディエーションの過程で観たことある人も多いかもしれませんね。
3rd wave(2013年〜)
そして先に紹介したAtomicや、expaが登場します。
expa
Uber共同創業者のGarrett Campが2014年に立ち上げたスタジオがexpa。Uberが上場した際のForm S-1にも投資家としてexpaの名前があったのでご存知の方もいるかもしれません。Garrett自身がUberでの成功と失敗の経験を、他の起業家にも共有して伴走していきたいと思い、スタートアップスタジオのモデルを導入したとMediumで語っています。
先に紹介したAtomicもPeter ThielやMarc Andreessenの投資を受けて参入してくるなど、いよいよビッグネームも集まり出して、それが4th waveへ繋がり、そして今へと進化してくるというのが大きな流れです。
まとめ:アントレプレナーシップの民主化と産業化を担ってきたのがスタートアップスタジオ
これまでの進化や現在のトレンドを受けてまとめると、スタートアップスタジオはアントレプレナーシップの新たなモデルを世に問うてきたのだと思います。プロダクトをつくり会社をつくるという、一見、再現性が無さそうで難しそうなことがらを、明確に解いて提示し、組織や個人と伴走し、エンパワーしていく。これはアントレプレナーシップの民主化であり、産業化であると、筆者はそう思っています。