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「好きだと思える自分」を選ぶ。

生きていれば、誰だって立ち止まって悩むことがある。
もやもやして、どう解決していいかわからなくなって、身動きが取れなくなることがある。

わたしは、何かを即決できるタイプではない。
こだわりや好みは激しいくせに、決断する時にはもの凄く悩む。
思えば、人生で何かを選び取る時、いつもうじうじ悩んでいた。
悩んで、悩んで、納得できる結論を選び取るまでとにかく悩み続けるタイプなのである。

*高校時代、友人Sのくれた言葉

そんなわたしが、人生で大いに悩んだ時期の一つが大学受験だった。
わたしは地元の県立高校に通っていた。偏差値は中の上程度の学校。
興味があることは色々あるけど、将来の夢ははっきりしていない。でも、大学の専攻を決めることは人生を大きく変えてしまうと思う。
後戻りができなくなることが怖かった。

加えて、わたしは良い子ちゃんな長女なのであった。下には一人弟がいた。
「お姉ちゃん」の性分なのか、何かを決める時には「正しい答え」を探したがった。でも本当は、人生の決断にそんなものは無いのである。
頭でっかちなわたしは、壁にぶち当たっていた。

揺れ動きまくり、悩みを垂れ流すめんどくさいわたしの側で話を聞いてくれていた一人が、友人のSだった。
Sは高校の同級生で、大人っぽい風貌で物静かな印象。シャイだが、意外と言うことは言うし、自分の中で色んな事を考えているタイプの女の子だった。

わたしが放課後の教室で、
「進路の正解がわからない。何を基準に選べば良いんだろう・・・。」
とぼやいた時、Sは穏やかに語りかけた。

「正解とかじゃなくて、自分を好きになれる選択肢を選べば良いんじゃないの」

目から鱗だった。
お腹のあたりで重い打球を受け取ったようだった。
色んな事を計算して、どんな条件が揃えば一番幸せに近づきそうかなんていう机上の空論をこねくり回すより、ずっと説得力があった。
「自分が好きだと思える自分」を選択していく
それは、当たり前のようなのに、わたしは考えたこともなくて、
あまりにストレートに心に刺さった言葉だった。

*「好きだと思える自分」を選んでみた。

わたしは無事志望大学に合格した。
選んだ進路は外国語大学で、ポルトガル語を専攻した。
在学期間中はポルトガル語漬けになり、1年間ブラジルにも留学した。
それまでの自分には縁もゆかりもない言語と国について学ぶために
数年間を捧げるのは、あまりに一般的でなく、突拍子もない選択だろう。
就職に役立つかとか、潰しが効くかといったような事は度外視した選択だった。
経済的に役に立つとは思えなかったが、純粋に、漠然とした自分の興味関心に正直に過ごした。
お金を安全に稼ぐ道を考えるよりも、どこに行き着くかわからなくても
全く知らない国について本気で勉強する自分を好きになれると思った。
それを選ぶには、Sの言葉がなければ勇気が出なかったかもしれない。

その時決断した結果の損得はわからないが、
自由に、面白いと感じることを成し遂げていく自分を、前より好きだと思えた。
好きだと思える自分を積み上げていく事は、自信に繋がった。
高校生までの自分は自信がなくてびくびくしていたのに、
それほど他人の評価が気にならなくなった。
自分自身が前より、もっと、自由になれた。
ポジティブでチャレンジ精神旺盛になる事ができた。

そして、自分が下した決断の先では、数え切れない貴重な出会いがあった。
特に留学先では、それまでの自分では考えられないような価値観を持つ人にも数多く出会えた。凄く面白い経験をたくさん得る事ができた。

*「好きだと思える自分」を選び続ける事

そうして殻を破ったわたしは、前よりもたくましくなって、
前よりも自分のことを好きだと思えるようになって、
就職して社会人になった。
仕事では悩む事もたくさんあるが、周囲の人の助けを借りながら、
少しずつ成長してきた。

でも、当時25歳のわたしは新たな壁にぶつかっていた。
このままずっとこの会社で仕事を続けていきたいのか。
それとも他の道を考えるのか。

就職仕立ての頃は必死でそれどころではなかったが、
仕事に少しずつ慣れてきて、社会人とはどんなものかが見えてくるにつれ、
人生について考える事が増えてきたのだ。
とにかく就職して経済的自立をしたい!という一心だった就活生時代から、
慣れない仕事に毎日必死の新人の時期を経て、
まだペーペーではあるものの、少し冷静に考える余裕が出てきた時期だった。

なぜそんなことを悩むのか。
わたしには、奥底で心残りがひとつあったのだ。
それは、「大学院に行ってみたかった」という事。

でも、文系で大学院に行っても、多くの場合民間企業への就職においてはプラスにならない。むしろ嫌厭されるステータスであると言える。
経済面等を現実的に考えれば、行かない方が得に決まってる。
だって、大学院を卒業した後、一体どんな仕事に就けるっていうのだろう。
そう考えたわたしは、一生懸命諦めるための言い訳を探してきた。

でも、社会人になってから2年半経って、
どうやら諦め切れそうにない事に気が付いた。
社会人になって仕事を始めたら、きっとそっちに夢中になって、
大学院に行きたかった事なんて忘れ去ってしまうのではないかと思っていた。
意外とそうでもなかったのである。

大学院に行く事のリスクと、チャレンジしてみたい自分の気持ち。
天秤にかける事はものすごく難しかった。
けれど、決め手になったのは、あの時貰ったあの言葉だった。
「自分が好きだと思う自分」を選び続ける事。

わたしは、色んな面で損をするかもしれないけれど、
それでも「今の自分が一番好きだと思える自分」を追いかけていたいから、
仕事を辞めて大学院に進学する道を選ぼうとしている。26歳にもなって無謀なのかもしれないんだけど。
そして更にその先に何があるのかもまだ分からないから、
卒業する時にきっとまた悩むと思う。
その時はまた、「自分が好きだと思える自分」を選んでいきたい。

あの時Sがくれた言葉は、
旅の進路に迷った時に北極星を探すように、
わたしの大切な指標となっている。きっとこの先の旅路でも。


(写真:2014年2月、ブラジル・サンパウロ市上空にて飛行機より撮影)

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百々子
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