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新川和江「わたしを束ねないで」

先日茨木のり子さんの詩の話に少し触れ、色々な詩を読んでみたくなった昨今。
とても素敵な詩に出会ったので載せたくなった。

装丁も素敵な本なのでぜひずっと手元に置きたい。
宝物のように輝く言葉。

「わたしを束ねないで」
新川和江

わたしを束ねないで
あらせいとうの花のように
白い葱のように
束ねないでください わたしは稲穂
秋 大地が胸を焦がす
見渡す限りの金色の稲穂

わたしを止めないで
標本箱の昆虫のように
高原からきた絵葉書のように
止めないでください わたしは羽撃き
こやみなく空のひろさをかいさぐっている
目には見えないつばさの音

わたしを注がないで
日常性に薄められた牛乳のように
ぬるい酒のように
注がないでください わたしは海
夜 とほうもなく満ちてくる
苦い潮(うしお) ふちのない水

わたしを名付けないで
娘という名 妻という名
重々しい母という名でしつらえた座に
坐りきりにさせないでください わたしは風
りんごの木と
泉のありかを知っている風

わたしを区切らないで
,(コンマ)や.(ピリオド) いくつかの段落
そしておしまいに「さようなら」があったりする手紙のようには
こまめにけりをつけないでください わたしは終わりのない文章
川と同じに
はてしなく流れていく 拡がっていく 一行の詩

新川和江「わたしを束ねないで」童話屋, 1997年. 12-15頁. 

本当は世界はとても広いのだ。
わたしたちは自由だ。

心からの感謝すら捧げたくなった。


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