
No.46 1993年と2022年 サッカーワールドカップ 「ドーハの悲劇と歓喜」 この気持ちは私の出版事情にも
2022年サッカーワールドカップ・カタール大会決勝ではアルゼンチンが36年振り3度目の優勝を果たしました。フランスと歴史に残る大激闘になり延長でも3-3で決着がつかずPKの末アルゼンチンが勝利しました。
日本はグループリーグで優勝経験があるドイツとスペインに後半逆転して勝ちました。ベスト8を目指しての試合ではクロアチアに延長でも決着がつかずPKでの敗戦でしたが、こんな日本の強さを私は初めて実感しました。「ドーハの歓喜」でした。第2戦でコスタリカに一瞬のスキで敗戦した時には、また「ドーハの悲劇」が起こるのではと考えてしまいました。その後クロアチアはブラジルに勝ち、ベスト4の試合では優勝したアルゼンチンに負けましたが、3位決定戦ではモロッコに勝利しました。こんな強いクロアチアに互角の戦いで敗れた日本は本当に素晴らしい力を発揮したと思いました。
2022年のワールドカップは中東のカタールで行われました。首都はドーハです。ドーハはおそらく現在40歳ぐらい以上のサッカーファンの人にとっては「ドーハの悲劇」という言葉で記憶に残っていることでしょう。
1993年10月28日、翌年1994年ワールドカップ・アメリカ大会の出場国を決定するアジア地区最終予選の最終試合イラク戦で、2-1でリードしていながら残りロスタイム(現在アディショナルタイムの名称に変更)数秒で同点ゴールを入れられてしまいました。その結果韓国に勝ち点で並ばれ得失点差で敗れ、予選グループ3位となり日本がワールドカップに初めて出場する夢が一瞬で消えたことを当時のメディアが「ドーハの悲劇」と名付けたのです。
私はこの試合をテレビで観戦していました。「後数秒でワールドカップに行けたのに」というやるせない気持ちを今でも覚えています。エッセーNo.3「1993年11月10日 長嶋茂雄監督が推薦『スポーツ記者を追いかけろ』の出版」に書いたようにプロ野球、大相撲、Jリーグを取材しました。特にJリーグは日本で初めてのプロサッカーリーグで1993年5月15日開幕戦直後の6月5日の試合を取材しました。Jリーグができたことによりワールドカップの切符が手に入るかと思った瞬間それは夢に消えたのでした。
実はこの時子どもたちに向けた「ワールドカップ」関連の出版の話があったのです。協力して頂ける新聞社も決まっていたのでした。サッカーは世界中で盛んに行われているスポーツです。日本がワールドカップに出場すれば関心が高まるので国際理解教育の1つの学習材として教育に大きな役割を果たすと考えていたのです。その夢も消えてしまいました。私にとっても「ドーハの悲劇」でした。多くの子どもたちに手に取ってもらえればという夢は消えましたが、授業や別の出版物の一部の中で展開することができました。
「ドーハの悲劇」から4年後の1997年11月16日マレーシアのジョホールバルで行われたアジア第3代表決定戦でイランを破り、その試合は「ジョホールバルの歓喜」とメディアで呼ばれました。1998年ワールドカップ・フランス大会に日本は初めて出場することができました。この時の授業の様子は朝日新聞デジタルで、1998年4月から1999年3月まで連載した「NIEアラカルト」の一部で紹介しました。4年生の授業でした。
NIEアラカルト
https://www.manabinomirailab.com/nie-5
① ワールドカップ・フランス大会(1)直前のドイツ超特急事故
② ワールドカップ・フランス大会(2)W杯国模様
③ ワールドカップ・フランス大会(3)クロアチア・ボバン選手
④ ワールドカップ・フランス大会(4)フランス日記
⑤ 田中基之記者にインタビュー
が内容です。ここではワールドカップを取材し終了後学院に来ていただいた朝日新聞田中基之記者にインタビューした様子をご紹介致します。
総合的な学習「ワールドカップから世界が見えるよ」で、子どもたちが読んだ記事によく登場した、朝日新聞社運動部記者、田中基之さんに初等科に来ていただき、4年生の子どもたちとコミュニケーションをとっていただきました。子どもたちは、こんな質問を田中さんにして、こんな答えがかえってきました。その一部を紹介します。
「W杯取材で、一番うれしかったことは何ですか?」
「監督や選手に直接話ができ、取材できることです」
「田中さんが泊まるところはどうしたのですか?」
「ホテルを自分で申し込みました」
「日本代表の選手で、一番好きな選手は誰ですか?」
「すごいと思うのは中田選手で、好きなのは中山選手です」
「何試合取材したのですか?」
「全部で64試合ありましたが、35試合取材しました」
「W杯取材で、一番心に残った国と選手は?」
「人口が400万人で、紛争があって大変だったクロアチアとボバン選手です」
「日本の女子高校生はボバン選手が出られないことを喜ぶ日本のテレビや新聞を批判していることを記事にし、そんな女子高生がいることをボバン選手に伝えたいと書いていましたが、伝えましたか?」
「日本対クロアチアの試合後、大勢取材する人がいて、残念ながら伝えることができませんでした」
「外国の選手を取材する時、言葉はどうするのですか?」
「英語を話す選手には英語でします。クロアチアの選手の取材はクロアチア語の通訳を頼みます」
「入場のチケットがないと問題になっていたのに、取材の席はどうしてとれたのですか?」
「このプレスカードがあれば、どの試合でも取材できます。決勝の試合でも、2000の記者席がありました」
「一番心に残った試合は?」
「準決勝のブラジル対オランダの試合です」
「記事を書く時の秘けつは?」
「自分が読んでうまいなと思う記事をノートに貼って、そこから学びます」
「取材で行った一番遠いところはどこですか?」
「アフリカのチュニジアです」
そのほか、「取材で危ない目にあいましたか?」「私は絵本作家になりたいのですが、文章を書く練習はどうしたらいいですか?」「インタビューする前はどきどきしますか?」「三浦選手が代表からはずれたことをどう思いますか?」「日本のサッカーは世界からどう見られていますか?」などなど。たくさんの質問に答えて下さいました。
ある子どもが、「記者として、私たちにしてほしいことがありますか?」という質問をしました。田中さんが「読者として、その記事をどのように感じたか伝えてほしい」と答えて下さいました。
一方通行ではなく、メディアにおける双方向の可能性をNIEはもっと探っていくべきだと強く感じました。

今回日本がベスト8に初めて残れるかの試合をしたのがクロアチアでした。この授業の時に子どもたちが一番関心を持っていた選手がクロアチアのボバン選手でした。偶然のことですが、1998年と2022年のワールドカップでのクロアチアとのつながりがありました。
その後、私は2008年から『朝日ジュニア学習年鑑』(朝日新聞出版)の「統計をてがかりに自由研究」のコーナーを執筆しています。毎回14のテーマを入れていますので分量が限られていますが、ワールドカップが開催される年には必ずその項目を入れています。今まで次のような文面を入れていました。
2010年
テーマ「ワールドカップ参加国はどんな国」
2010年に南アフリカ共和国で、サッカーのワールドカップが開催されます。出場する
32カ国はどのような国なのか調べてみましょう。また、ニュースにも注目しましょう。
2014年
テーマ「ワールドカップ出場国はどんな国」
サッカーのワールドカップが2014年6月12日~7月13日にブラジルで開催され
ます。32カ国が参加します。出場国はどのような国なのか調べてみましょう。イングラン
ドはイギリスとして調べてみましょう。
2018年
テーマ「ワールドカップロシア大会で世界を見よう」
2018年6月14日からロシアでサッカーのワールドカップが開催されます。1次リ
ーグの組み合わせ抽選会で、日本はコロンビア、セネガル、ポーランドと対戦が決まりまし
た。対戦国や関心を持った出場国はどのような国なのか調べてみましょう。「ワールドカッ
プ参加国事典」をつくってみましょう。
2022年
テーマ「サッカーワールドカップから世界に目を向けよう」
2022年11月21日からサッカーのワールドカップが開催されます。開催国は中東のカ
タールです。32か国が出場します。カタールとはどのような国なのか、他の31か国がどの
ような国なのか、活躍した選手はどんな人なのかなど世界に目を向けてみましょう。


2022年のカタールでのワールドカップ開催中に、電子書籍出版社から次の2つの書籍を電子書籍にできないかの依頼がありました。『スポーツ記者を追いかけろ』『特派員からのメッセージ』(リブリオ出版、いずれも1993年出版)です。2つの書籍とも現在は絶版ですが、記者がどのように記事を作成するのかメディアの本質的なところを探ることに意義があることと画像が豊富に活用されていることに注目されたのではと考えています。Amazonから販売される予定です。
『スポーツ記者を追いかけろ』ではJリーグが取材対象の1つでした。カタールでのクロアチアに敗戦後、ワールドカップ4回目の出場で今大会全試合に出場した長友佑都選手がテレビの取材で次のように語っていました。「日本サッカーは成長しているなと僕は確実に感じています。これは、僕自身もJリーグでプレイしてJリーグに育ててもらいましたし、FC東京というチームに育ててもらって、今回ほとんどの選手がJリーグで育って海外で活躍している。これから日本サッカーの発展のためにもJリーグをもっと盛り上げていかないといけないなと思うので、皆さんのお住いの地域に素晴らしいチームがあると思うので、ぜひサッカー選手みんなこの勝利のためワンプレイのために日々努力しているのでどうか応援して欲しいと思います。」Jリーグ開幕の年に取材できたこと本当に誇りに思います。
『特派員からのメッセージ』はこのエッセーで今後紹介する予定です。出版は2023年ですので、世界一の座を争う野球の世界ワールド・ベースボール・クラシックが開催される年でもあります(新型コロナウイルスで2年延期されての開催)。
1993年の「ドーハの悲劇」は私にとって「ワールドカップ」出版の夢が消えたこと、2022年の「ドーハの歓喜」は私にとって「電子書籍」出版という新たな夢に近づいたことになるのでしょうか。2023年は電子書籍になる2つの本が出版されてちょうど30年目を迎えます。やはり私のラッキーナンバーは3になるようです。


参考
朝日新聞デジタル「2022サッカーワールドカップ」
https://www.asahi.com/worldcup/