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たまには雨の日に散歩するのも悪くない

この日の天気予報は曇りのはずだった。
雨マークなんてついていなかったのに。

冷蔵庫がすっからかんなので買い出に行こうとしたら、大粒の雨が降っている。

認めたくはないけれども、私はきっと雨女なのだと思う。
昔から外に出た瞬間に雨が降り出すことが多々ある。

さっきまで降っていなかったはずなのに、急に雨が降り出したり、小降りだったはずなのにタライをひっくり返したような大雨になったり…。

ずっと『違う。』と言い張り続けていたが、最近それが頻繁に起きるようになって雨女だと認めざるを得なくなってきた。

さて、どうしたものか。

雨予報ではなかったしすぐに通り過ぎるかもしれない。
とりあえずコーヒーを入れて時間を潰しながら待ってみるか。

そんなことを思いながら家の中へと引き返し、コーヒーを一杯入れることにした。


一時間ほど経っただろうか。


先ほどよりは小降りになっているけど、まだ止みそうにはない。

このまま時間だけ過ぎていくのも、なんだかもったいないような気がする。

自転車の方が断然楽だけれども、たまには雨の中、傘をさして散歩しがてら買い物に行くのもいいかもしれない。

年季の入ったお気に入りの赤い傘をさし、私は街に出た。



外に出ると、雫をまとった美しい桜の花たちが迎えてくれた。


連日の雨続きでだいぶ花が落ちてしまっていたが、それでも美しかった。

桜を見ると「あぁ、日本に生まれてよかった。」と思わされる。



この日は湯豆腐を食べようと計画していたので、近くのお豆腐屋さんに立ち寄った。

そこで手作りのお豆腐を一丁いただく。

お豆腐だけにするつもりだったのに、アルミバットの上に綺麗に陳列された自家製のおから入りのドーナツが目に入る。
それがあまりにも眩しくて、ついでに購入することにした。

あんな美味しそうに並べられたら食べたくなっちゃうよ。商売上手がすぎる。


お豆腐屋さんを出るころには雨も上がっていた。


せっかくだし、桜でも見ながら先ほど購入したドーナツを食べようと思い立ち、近くの公園に寄り道をした。

雨上がりで濡れたブランコの雫を払いながら腰を掛ける。

ふと近くのベンチを見ると、サラリーマンのおじさんが一人でお弁当を食べていた。

その光景を横目で見つつ、私もドーナツを頬張る。



軽そうな見た目に相反して、むぎゅっとした濃密な生地。優しい豆腐の甘さが口に広がる。


お豆腐屋さんのスイーツってハズレがない気がする。

地元のお豆腐屋さんのプリンカップに入ったチーズケーキも美味しかったなぁ。

母とよく取り合いをしていたことを思い出す。

あのお豆腐屋さんは、まだあるのかな。今度地元に帰ったら行ってみよう。


そんなことを考えていると、私とおじさんの間に一匹の猫がやってきた。


つかの間の二人と一匹の休息時間。

私たち、どんな思いを抱えてここにたどり着いてきたんだろうね。

一日の間のほんの少しの時間だけど、ゆっくりしていこう。



ピューッと吹いた風に桜の花びらたちが踊り、空へと舞って行った。

その美しい光景を目で追う二人と一匹。

雨の中、外に出てきてよかったと思わされる瞬間だった。


公園にたたずむかたつむりのシーソー


工事中の公園。かわいいアヒルが道を塞いでいた。

家に帰り、夕飯の支度をした。

予定通り今日の献立は湯豆腐だ。

作り置きしていた卵と鶏のつみれに、野菜をたっぷりと。

買ってきたお豆腐も忘れずに。


お豆腐はやさしい甘味がして、スーパーでいつも購入しているものとは大違い。

柚子胡椒で食べたら、それだけで御馳走だった。


お供は鯖缶を入れて炊いた炊き込みご飯。千切りにして入れた生姜がいい仕事をしてくれた。

今日の思い出を夫に話しながら食べる。

とても贅沢な幸せ時間。

また雨が降ったら、街をゆっくりと歩いてみようと思わされた、とある春の日。




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