#139 黒い影の正体

数年前から気になっていることがあった。

私の住む家の向かいには、そこそこ広いお庭を持つ一軒家が建っている。今の時期は、その家の方向にある窓を開けると、よく熟した柿のなる木や、これから橙色が深まりそうなみかんの木が見える、なかなか立派な庭だ。

その庭に直結する形ですぐ隣に深い笹林があり、時折夜中にガサガサと何か大きめの生き物が動いているらしい音が聞こえていた。
鳥か野良猫か、あるいはタヌキかイタチか。
そういうのがいてもおかしくはないが、私はついぞその正体を見ることは無かった。
さっきまでは。

今日は朝早くにトイレに起きた後に二度寝をし、昼前に起きたら昼食を食べて駅前のカフェに出掛けた。今月末締め切りの公募に向けて書いていた作品を仕上げようと思ったのだ。
初めて行くチェーンのカフェだったが、居心地としては今ひとつ。飲み物の値段はそこそこで、店内BGMは子供の歌うクリスマスソングが延々と流れており、1〜2時間いただけで頭がおかしくなりそうだった。

それでもいつもと違う環境で作業した甲斐もあって、無事に作品は完成。あとは細かく校正すれば良いという段階にまで仕上げて、私は次にスーパーへと向かった。

今週の作り置きと今夜のおかずを買い、家に帰ると例の向かいの家の笹林の前に、何やら黒い丸っこい影が見えた。

一瞬、休んでいるカラスかと思ったがそれにしてはフォルムが丸っこい。

少し近づいてみると、黒い影がこちらへ振り返った。黄色い目が2つ光っており、頭には小さな三角形の耳が見える。黒猫だ。

黒猫はこちらをじぃっと見返してくる。
そうか、あの笹林をガサガサ言わせていたのはこの黒猫だったのだろう。黒猫はまんじりともせず座ったまま、こちらの様子を伺っていた。

長らく疑問だった正体を知って少しスッキリした気持ちで帰宅し、今こうして報告をしている。思いがけないタイミングで、正体というのは分かるものだなぁ。

今度、あの黒猫がウチまで遊びに来たらいいのになぁと少し思っている。チュールくらいなら差し上げますよ。

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