#218 私を造る本
「この本、あなたの原点って感じだね」
友人にそう言われたことがある。
それは、実家に残っていたおもちゃや絵本を、友人の子供に譲るために来てもらったときのことだった。子供の頃に、夢中になって遊んだシルバニアファミリーやディズニーの小さな家、小学校に上がってから、書写の授業で使った沢山の絵本。それらを見せていく中で、私は特にお気に入りだった『ミッケ!6 ゴーストハウス』の絵本でそう言われた。
言われてみれば確かにそうだ。
私は数あるミッケのシリーズで、このこわい夜をいの一番に欲しがり、買ってもらった。古いドールハウスや小さなおもちゃ、文房具などを組み合わせて作られた、緻密な写真とリズミカルな言葉たち。今見返しても、私の心のちょうどいいところをくすぐってくれる。
そういう、自分の人格形成に少なからず影響を与えたであろう本がきっとあらゆる人にあるはずだ。そして、それを大人になった今改めたら、きっと忘れていたものにまた出会える気がする。なので、思い出せる限りのそれらを少しここで改めたいと思う。
『I SPY 6ミッケ!ゴーストハウス』
西洋風の洋館を舞台にした、さがしもの絵本。スタンダードなお化け屋敷的空間は、不気味な雰囲気で満ちているが、最後の演出でそれらの正体が解き明かされるという仕掛けは、いつ見ても美しい。
子供の頃から、ジャンプスケアを使うようなホラーは嫌いなのに、不気味な世界観が好きなのは、この本がきっかけかも。この本が無ければ、ティム・バートンもヤン・シュヴァンクマイエルも好きにならなかったかもしれない。
『ちびねこの ちょび』
こいでたん、こいでやすこの作品。
調べてみたら、今はあまり取り扱いされていないマイナーな絵本らしい。町外れのおばあさんの家に貰われた子猫のちょびが、屋根裏に居座るネズミたちと戦う……という物語。
柔らかいタッチの絵柄で描かれたちょびも、ネズミたちも愛嬌があって可愛らしく、読み返すと何とも言えない温かい気持ちになれる。小さな動物たちが好きなのはこれの影響か。
『押し絵と旅する男』
江戸川乱歩の短編小説。
どういうわけか、私はこの話がたまらなく大好きで、初めて読んだ時にソファの上で「はぁーっ!」とため息をついたことさえ、覚えているくらいなのだ。とある旅先で出会った、押し絵と旅をしている不思議な男から聞かされたその経緯についての物語なのだが、おそらく私は旅行しながらそんな出会いが起こることをずっとどこかで期待しているのかもなと思った。
『ふしぎなえ』
安藤光雄の作品。
いわゆる、トロンプロイユと呼ばれる錯視画がひたすら描かれている絵本。後に私はエッシャーを始めとしたシュールレアリズム系のアートをとても好きになるのだが、絶対これの影響だと思う。子供の頃住んでいた街の、小さな耳鼻科だか歯医者だかに置かれていた絵本で行くたびにこれを読むことだけが楽しみだった。
まだまだ沢山心当たりがあるのだが、正確なタイトルが分からないものもあるので一旦この辺で。
あなたも、自分を作り上げた絵本や本について、たまには思いを馳せてみてもいいかもしれませんよ。