2024年ベストアルバム25選
もう2024年も終わっちゃったよ!!
マジでぼんやりしてる間に終わった気がします。こうして時間感覚が引き延ばされていき、最終的に
というワケで今年も年間ベストについて発表していきます。例によって25と中途半端なのは途中で力尽きたからです。
25,Lilac Stranger/Dreaming In Lilac
プエルトリコのプログレッシブ・ポストハードコア・マスロックバンドによる3rdアルバム。
甘くも涼やかな女声ボーカルのスワンコア、というその非常に愛され力の高いサウンドにおいて、特筆すべきはその軽やかさではないでしょうか。
一曲のなかもかなり幅広く表情が変わるので、ジャジーな雰囲気を出したかと思えばしっかりシャウトとテクニカルなリフを押し出しているパートもあったりするんですが、ソフトなパートはもちろん、ハードなサウンドを鳴らしていてもどこか清涼感があって、非常に人懐っこいんですよね。
もちろんその空気感を産み出す上でkawaiiボーカルの力は絶大なんですが、ことテクニカルでハードな部分ではスワンコアっぽさよりもThe Fall of Troyに近い手触りが強く出てくる、というような、ソングライティング面での絶妙なウェイトコントロール力(ぢから)がキモだと思いますし、それが面白さに繋がってるんだろうなと。
知ったときには直前に来日公演が終わってたんですよね…ワシの人生はそんなんばっかりや。
24,えのぐ/真っ白は色褪せない
所属事務所の廃業という分厚い壁を合同会社の設立によって乗り越えた3人組VRアイドルグループの3rdアルバム。
シングルコレクション的な作りの今作は、王道のアニソン・アイドルライクな曲はもちろん、メンバープロデュース楽曲がそれぞれアイドル・電波系、K-POP・R&B系、J-POP系、とメンバーごとの色がハッキリと出たものとなっており、「この3人で」という意志が見えるだけでなく、アルバムとしてのカラフルさを際立たせるのにもかなり効果的でよかったですね。また、ラストを締めくくる 14)僕色インフィニティ の歌詞やPVに涙したえのぐみの皆様も多かったのではないでしょうか。
元々TIFでも上位に食い込むだけあって実力は折り紙付き、この先のさらなる飛躍が楽しみです。
これPVに元メンバーのカットも印象的に使われてるんですよね。そんなんされたら情緒が死ぬって。
23,Ingurgitating Oblivion/Ontology of Nought
ドイツのアヴァンギャルド・メタルバンドによる4thアルバム。
メインの音像たるストップ・アンド・ゴーを繰り返すディソナンス系のデスメタルサウンドは非常に暴虐性が高く、また展開も、暗黒の世界観はそのままに、ジャズやプログレ、クラシカルな和声合唱など、ジャンルを横断するレベルで大きく展開を繰り返します。
そんな難解な今作が、ただ難解なだけではない魅力を放つ大きな要因の一つは恐らくドラム。どのパートでも激烈に手数が多く、ことブラストビートが繰り広げられるシーンなどとなると、音数自体が異常な飽和状態を見せ、その暴風雨の前にただなすすべなくひれ伏す快感をもたらしてくれます。気持ち悪さが気持ちいい一枚。
ドラムがパワハラ上司みたいな圧出しとる。
22,Tigran Hamasyan/The Bird Of A Thousand Voices
アルメニア出身のジャズピアニスト、12枚目のリーダーアルバム。
アルメニアのトラッド・ミュージックをバックボーンに背負った、非常に細かい変則拍子のテーマをベースにしたピアノサウンド、という核の部分は今作も不変ですが、今回は結構シンセ成分が多く、全体的によりヘヴィな手触りとなっています。
なにやらアルバムのコンセプトを中心に、音楽のみにとどまらず、MVやゲームなんかも巻き込んだトランスメディア・プロジェクトというものを構想しているようで、そういったところもサウンドに影響しているんでしょうか。そして同じくその結果なのか、ガッツリジャズ成分みたいなものはやや薄く、そのおかげで私も今作は「民族プログレメタル」みたいな角度でかなりすんなりと楽しめました。(90分と非常に収録時間は長いアルバムですが)
また、作中の白眉はなんといっても1)The Kingdom。ド頭からすさまじいハイテンションで10/8拍子のリフが駆け巡るサマは圧巻で、これで一気に心を掴まれることでしょう。
鬼才の更なる挑戦と躍進を堪能できる一枚かと。
先述のゲームとのメディアミックスですが、ブラウザで出来るので一度やってみてもいいかも。リンク貼っておきますね。
21,YIN YIN/Mount Matsu
オランダのサイケ・ディスコバンドによる3rdアルバム。
1stの頃から日本で人気が出るのも時間の問題だと思っていましたが、今年のフジロックでようやくバレましたね。配信でゆるゆると観ていましたがいいライブでした。
前作で大きくフィーチャーされていたスペーシーな雰囲気は抑えめで、R&Bやソウルっぽさがより強く出ているかな、という印象。また、タイトルである「Mount Matsu」(架空の山らしいです)や、各楽曲のタイトルからも分かるように、割と日本寄りのテーマが多く、筝曲からも影響を受けているようです。サウンド的にもそのモチーフを再構築したんだな、というところはチラホラ。もちろん持ち味である東南アジアがかったサイケ・ファンクサウンドは洗練されつつますます伸びやかに躍動しています。
のっぴきならない事情により待ち焦がれていた来日に行けなかったのが本当に悔やまれます…また来てくれ……
ぜんぜんわからない。俺たちは雰囲気でクイズ番組をやっている。
20,Dvne/Voidkind
スコットランドのポスト・メタルバンドによる3rdアルバム。
マスタリングにCult of LunaのMagnus Lindbergが携わっており、やはりその影響も垣間見えるポスト・メタル/プログレッシブ・スラッジ的なトーンが中心ですが、色調としてはCoLよりもテンションが高く、アグレッシブなものとなっています。
パワフルさとドラマティックさを兼ね備えた緻密なリフワークが中心に据えらえており、それだけでも十分なソリッドさと説得力が備わっているため、TOOLライクなベースソロや幕間の小品、クリーンボーカルとグロウルでの押し引きとなどで表現される静と動のコントラストもさらに映えているなと。
今年初めて知ったんですが、非常にいい出会いになりました。
ジャケ、最初は「ネコチャンみたいなのがいてかわいいね♡」とか思ってたんですが、だんだんねこですに見えてきて、今はもう無いはずの右目があるように見えかかっています。
19,DEZERT/The Heart Tree
日本のヴィジュアル系ロックバンドによるメジャー1stアルバム。
子宮を触ってみたり変態変態と叫んでいた頃からロックバンドとしてのポップセンスは強固に光っていましたが、時を経てさらにそのセンスは洗練されていき、ついにメジャーシーンに到達するに至りました。
その分かつての魅力の一つであったアングラ感といったものが薄れている、と捉え、それを惜しむ声も十分理解できるんですが、今作についても決していわゆる「メジャーっぽい曲」だけが行儀よく収まっているわけではなく、例えば 7)~9) までの並びなんかはしっかり攻めた楽曲が続いていると思いますし、なによりこの長いヴィジュアル系冷遇の時代に、「メジャーシーンで受ける音」と「ヴィジュアル系バンドとしての、ひいては自分たちの音楽」とのギリギリのラインを攻めようとしていることに頼もしさを感じています。
改めて聴いたらこれ余裕でV系文脈の暴れ曲やん。やっぱちゃんと攻めてるって。
18,OU/蘇醒 II: Frailty
中国のプログレッシブ・メタルバンドによる2ndアルバム。「オー」と読むようです。
始動直後からInside Outに見初められるなど、界隈では早くからその才能は話題になってましたね。
サウンドの引力の中心にあるのは、浮遊感が強く、実験的なラインも多いながら、圧倒的なスキルでそれを歌いこなすボーカルでしょう。このボーカルがいることで、バックがAnimals As Leadersを想起させるような複雑なChugリフを多用するProgサウンドにも関わらず、しっかりと歌モノとして成立しています。
前作も非常にユニークで私もお気に入りな作品ではあるものの、やりたいことが前に出すぎているがゆえの若干の取っ散らかりを見せていた感がありましたが、今作ではDevin Townsendがプロデュースとミックスを担当したことも功を奏したのか、グッとそのあたりの整理が上手くなってビルドアップされましたね。今後も要注目のバンドでしょう。
ボーカル映えに全予算をBETしてる感のあるPV、愛せる。
17,EXPERIMENTEXPERIENCE/HE4VEN-LURKS
日本のコンポーザー、Y4WN氏のソロプロジェクト、本人曰く最初で最後のアルバム。
Polyphiaをはじめとしたモダンでテクニカルなギターがリード、バッキング問わずフィーチャーされつつも、どこかオルタナライクな香りもするバックトラックに、霞みがかったボーカルが乗る、というありそうで無かったスタイルで、
本筋であるその組み合わせ自体はもちろん、そこに絡まるエレクトロサウンド、音の選び方・混ぜ方にいたるまで全てが非常に今っぽいというか、最先端の音楽だな、と結構衝撃的を受けました。
先日新曲も出されていましたし、最初で最後なんて言わずこれからも活動して欲しいですね。
この映画を引用してるPVとかはやっぱLOWPOPLTD.のオマージュ的なことなんでしょうか。
16,yosugala/ヨモスガラ2
日本のアイドルグループの2ndアルバム。
1stを聴いたときからずっと感じていましたが本当にこのグループはカテェですね。ビジュアルとかも含めあらゆる完成度がめちゃくちゃ高いな、と思っています。ビジュアルについては私の好みなだけな気もしますが、そんなもん言い出したら全部そうなので…
今作についても音楽的な方向性は大きくブレず、ラウドでエモくてライブ映えする、アイドルロックの王道ラインを闊歩するような楽曲が全曲キラーチューンの顔して堂々と並んでいます。
前作からの比較で言えば、楽曲自体がグッと引き締まった感がありますね。サウンドプロダクションも含めて垢抜けたというか、メジャー感が増したというか。メンバーも制作陣もこのグループの色がより定まって見えてきてるのかな、という印象を受けました。
隙や粗まで計算されてるんじゃないか、と勘繰るぐらい隙が無い。強い。
15,ピーナッツくん/BloodBagBrainBomb
日本のラッパーによる4thアルバム。
VTuber業界のなかでも(恐らくHIPHOP業界のなかでも)かなり特異な立ち位置にいるピーナッツくん、先日の刀ピークリスマスのテーマソング2024も気持ち悪くて最高でしたね。
音楽的な側面でも有名どころのVの中ではトップクラスに面白いことやってるんじゃないかなぁと思っています。
HIPHOP界隈については全く明るくないので、あんまり音楽的な部分でどうこうの話は出来んのですが、Hyperpop曲で抑えるところを抑えながらガッツリDrillだったりPhonkだったりの曲があったりと、前作よりドープな方向にも進化してるなと感じました。
あと 6)ぼくたちにEarthはない なんかはそのあたり顕著ですが、ピーナッツくん自身の人生や経験と動画の内容がニアリーイコールであるので、リリックを聴きながら「あぁあのときのこと歌ってるんだな」と追体験出来るのもまた独特な部分だなと。
ラップミュージックの硬軟どちらの楽しさも味わえる一枚なんじゃないでしょうか。
参加時点で賛否両論、本番も当然ドアウェーからのスタートで、しかも歌ってるのが当時リリース前の新曲であるにもかかわらず、秒単位で味方が増えていき最終的に大合唱が巻き起こる。というミュージシャンの夢みたいなライブ動画。
14,Opeth/The Last Will And Testament
スウェーデンのプログレッシブ・デスメタルバンドによる14thアルバム。
ごめんなさい、ぶっちゃけプログレ路線化以降しばらく離れてました。個人的に「70'sプログレへの憧憬が強く出てる最近のアルバム」みたいなモノ自体そんなに刺さらないものが多くて、ただでさえHeritageがそんな印象だったうえ「コレを作ったのがOpeth」というのもあってついつい疎遠に…
そんなこんなで長く新譜を追ってはいなかったのですが、今年に入ってTLで「Opethまたプログレデス始めたらしいぞ…」という、閉店した名店の移転復活みたいな風の噂がチョコチョコ目に入るようになり、聴いてみたらまぁビックリ。プログレデスやってるやないの。
とはいえ、じゃあBlackwater ParkやGhost Reveriesみたいなことをまたやってるのか、言うととそういうわけではなく、サウンド自体はあくまでプログレ路線の延長線上にあるんですよね。
ただグロウルが入る部分はそれ相応のヘヴィなギタートーンやフレーズになっていますし、そこが浮かないように全体の歪み自体も若干メタリック寄りになっており、この塩梅が絶妙に私好みなものでした。
しかしまぁ、こうなると途端に「あのプログレ路線はこの領域に到達するために必要な時間だったんだ!!」と思ってしまうんだから人間ってのは現金なもんですわ。
13,Kyros/Mannequin
イギリスのプログレッシブ・ロックバンドによる6thアルバム。
いわゆるネオ・プログレ系のバンドですが、その中でも特にエレポップ、シンセウェイブ的なサウンドをかなり大々的に導入しているのが大きな特徴でしょうか。
全体を俯瞰で観ると、やはり10年代以降のネオプログレのテイストが強いタイトなサウンド。ギターもかなり低音のリフを弾いていたり、複雑な展開もあったりするんですが、トータルバランスで支配的なシンセ・ポップ要素がそれらを重くなくアッサリ食べさせてくれます。7)Ghosts of Youなんかはほとんど普通のビッグなシンセポップですね。
個人的なハイライトは 1)Taste the Day~2)Showtime の流れ。Frost*のHyperventilateをはじめて聴いたときに近いワクワクを感じました。
軽やかでカラフル、プログレはまだまだ楽しいと気付かせてくれる一枚。
この曲の序盤とかもうFrankie Goes To Hollywoodまでありますよね。
12,Ὁπλίτης/Παραμαινομένη
中国のワンマン・プログレッシブ・ブラックメタルプロジェクトによる5thアルバム。「Hoplites(ギリシャ語で重装歩兵の意)」と読みます。
元よりブラックメタルを下地に敷きつつもカオティック・ハードコア的な変則性・突進性を持った楽曲が多かったですが、今作はいよいよその様相が強くなっていますね。
この混沌を強調しているのはやはりサックスの存在でしょう。要所要所で顔を出しては、ときにフリーキーに、ときにメロディアスに、縦横無尽に暗闇を駆け巡ります。
とはいえ今作をサックスが入ってる珍しいだけの作品で終わらせていないのは、やはり矢継ぎ早に放たれるリフの強靭さと地肩の強さ。不協和音的なソロも多く、その変則性はいよいよもってカオティック・ハードコア、マスコアに接近している感があります。
全曲6~10分と、過去作と比べてかなり長尺ではあるもの、冗長さは全くなし。過去最高のアルバムではないでしょうか。
2023年は1年で3枚出してたので今年は大人しめですね。
11,RAISE A SUILEN/SAVAGE
日本のロックバンドによる2ndアルバム。
前作も相当よかったですが、4年の時を経てリリースされた今作はそこから更にブラッシュアップされています。
前作のHELL! or HELL?なんかに見られたアニソン的なケレン味、というかチュチュ様のアジテーションの威力がグンと強くなっており、その結果、HR/HMライクなギターや、元よりブチアゲには定評のあるエレガ印のシンセサウンドについても暴走できる範囲が広がって、いよいよ手が付けられなくなってきたなと。
専業バンドではなく、作品やその売り方的な意味でも、メンバーのスケジュール的な意味でも色々制約があろうことは容易に想像がつくんですが、とはいえFaLiLVから曲提供してもらってたりしてるんだし、正直で激しめジャンルの音楽フェスやモッシュ大解禁ライブハウス対バンツアーとかやりゃいいと思うんですけどね。そういうところであれば多少アウェーでも余裕でウケるでしょ。これも私がバンドサウンドやカルチャーに親しんでいるだけなのかもしれませんが。
この曲のリフ好きなんですよね。ただハーモニクスリフが好きなだけ説はある。でもこんなん絶対モッシュしながら聴いた方が楽しいし、あと紡木吏佐の役割がほとんどSlipknotのアレのソレ。
10,Dos Monos/Dos Atomos
日本のヒップホップトリオ、改めロックバンドによる4thアルバム。
ロックバンド化宣言後にリリースされたアルバムなだけあって、トラックについてもそれを感じさせるものも多く、そしてそう思わせる源泉たるはやはり2000年前後のJ-ミクスチャーを想起させるノイジーなギターサウンドなのでしょう。
となると、ではやっていることはただのミクスチャーの焼き直しなのか、というとフローはもちろんトラックについても紛れもなく未来を向いた勝負がけの意欲的なサウンドでありそれは否、ならばヒップホップによるロックへの侵略行為なのか、というと、ここまでロックバンド的なカタルシスを感じさせる展開がある中で敬意がないとは考えられないのでそれも否。
彼らがカマしてきたのは、ロックに今出来る最大限の翼を授けた上で、そこに進行形ヒップホップの血を発展的に混ぜ込むことによる、上下関係のないがっぷり四つのミクスチャーロックの復権運動であり、そしてそのどちらにも"日本"の匂いを漂わせたスタイルは、世界に誇れる日本の最新形ミクスチャーロックなのではないか、と強く感じた作品でした。
バンド路線続けてほしいナァ…
9,TV2/1450kHz at Broken Grove
ニュージーランド(自称)のVaporwaveアーティストによる11枚目(?)のアルバム。(説明しよう!Vaporwaveは自称の出身地が適当な場合が多々ある上に、多産だったり別レーベルで作品出してたりすることも頻繁にあるので正確なことはなんもよう分からんのだ!!)
さて、Vaporwaveのなかでも、特にSignalwave・broken transmissionって元ネタがCMやBGMといった素材まんまの味をローファイにのみしてこそ、みたいなジャンルなので、なかなか「なんか分からんけど気に入った」以外の感想を出すのが難しいんですが、このアルバムについては、そういったベーシックなSignalwaveのサンプル(BGM系が多いです)に、フィールドレコーディングっぽい環境音や虫の音がレイヤードされてるのが面白いポイントですね。
でまたこのフィールドレコーディング音というのがかなり効いていて、深夜に窓を開けてラジオを聴いているときに近い心地よさがあり、Vaporwave系だと今年一番聴いたアルバムでした。
まどろみながら聴くのにあまりにも最適。
8,Melt Banana/3+5
日本のノイズロックバンドによる8thアルバム。
当然、当然存じ上げておりました。おったんですが、特に理由もなくなーんか出会う機会がなかったんですよね。それでふと新譜が久々に出たっていうのを目にしたので聴いてみるとビックリしましたね。こんなカッコいいバンドだったの!?と。
嵐のようなハイスピードの中、歪みまくりのギターとハイトーン・ハイテンションのボーカル、飛び回るノイズが、こちらの都合を全く無視して、還元ナシ、濃縮しっぱなしの快楽物質を直で流し込んでくるもんだから、こっちも耳がチカチカして、めちゃくちゃ楽しいーーーー!!!!となっちゃいますね。ここまでノイジーで過激なのにどこか聴きやすさやキャッチーさがある、甘くて飲みやすいのに度数の高いアルコールみたいな一枚。9曲24分と、ワー!!となってる間に通り過ぎていくのも痛快でした。
ずっとうるせぇの最高すぎ。
7,Sleepytime Gorilla Museum/of the Last Human Being
アメリカのエクスペリメンタル・ロックバンドによる17年ぶりの4thアルバム。
俺たちのSGMが帰ってきた!!ジリジリとメタリックなギターに妖しいヴァイオリン、大仰さを演出する金管や木管、不安さを掻き立てる数多のパーカッションや自作の楽器、過剰なまでにシアトリカルな男女混成のボーカルワークなど、多岐にわたるマテリアルを用いて、奇奇怪怪で先が読めない、「見世物小屋」という表現がしっくりくるような独特の世界観は当時のまま。
解散直前の時期に録音された音源が多いということで、厳密な意味での"最新作"ではないのかも知れませんが、そんなことは関係ありません。このキモくてグロくて不条理で、だからこそ蠱惑的な魅力のあるフリーク・ショウサウンドが再びこの世に顕現してくれただけで、当時鍵穴から覗くようにこのバンドを聴いていた私は至上の喜びを感じるのです。
この「見ちゃいけない感」だよなぁ。完全新譜も気長に待ちますよ。ええ。
6,Mirar/Mare
フランスのメタルバンドによる1st EP。
t h a l l
以上です。ありがとうございました。
いやマジでこのバンドに関しては割とこれで説明が完了していると言っていいんですよね。
村長Vildhjarta、副村長Humanity's Last Breathという二大巨頭オによって長く保たれてきた「ジャンルとしてのThall」という因習村に、ゴリゴリのファンボが「俺たちこれしかやりたくないんスよ!」と曇りしかなき眼で入村希望してきた。みたいなそれはそれで怖い構図でシーンに現れたこのバンド、実際にメタル的な要素でこの2バンド以外からの影響が極めて薄い。という異形さを湛えており、非常にダークで重く、不協和音のコラージュのようなリフが終始展開されていきます。
そこにクラシックであったりエレクトロであったりといった独自要素も非常に効果的に組み込まれてはいるのですが、それらもあくまで暗黒の祭壇に捧げる供物の一要素でしかないのではないか。と思わせるような純粋培養さを感じさせる凄みがありました。
こんなもん出されたらこちらもJens Kidmanになる(白目の意)しかあるめぇ。
5,nea selini/Une pluie incessante
フランス在住の日本人による独りブラックメタルプロジェクトの3rdアルバム。衝撃度で言えば今年一番かもしれない。やーーばい。
サウンドのベースとしてはアトモスフェリック・メロディックなブラックゲイズ。まずこの基礎部分が抜群にカッコいい。2ビートでドカドカブチ上げてくれる曲はもちろん、ミドルテンポでも欲しいところでグッと盛り上げてくれます。
また、一番の特徴は、終始漂い、とくに後半に向けて強くなっていくそのV系っぽい空気感でしょう。LUNA SEAとメロデスとブラックゲイズを原液のまま混ぜたらマジで混ぜれてしまった、みたいな 5)Glass Doll は今作のハイライトですし、 7)La chaîne de la haine なんかはブラックメタル化したdir en greyとも表現できるようなV濃度の高い楽曲となっています。しかしいよいよdirをはじめとしたV系の血がメタル周りでその姿を見せはじめましたね。それが明日の叙景しかり、kokeshiしかり、このnea seliniしかり、ブラックメタルの要素を含んだところに出てくるのが面白いというか。
とにかく総じて非常にクオリティが高く、文句なしにカッコいい。この作品に12月滑り込みで出会えたのは非常に幸運でした。
本当にハチャメチャにいい。さっきも書きましたが、メロデス/ポスブラ化したLUNA SEAっすよこれは。
4,Z.O.A/Night's Wanton Spider
日本のロックバンド、24年ぶりにして最終作となる5thアルバム。
Z.O.Aは再始動後結局5,6回ぐらい観れたのかな。回を追うごとに凄みが増していき、今年のライブなんかはもうとんでもないことになっていました。
そんな彼らが解散を決め、そこに向けてマイルストーンを打ち立てるために製作されたのがこのアルバム。
路線としてもこれまでの総決算のようなもので、ポストロックのような時間をたっぷり使った緊張と緩和や、トライバルな響きの楽曲は仮想の人の時期に近い手触りがありますし、Burmma~Confusion In Normalityの時期に見せた、彼らを象徴するような複雑で尖りまくった攻撃性も繰り出すなど、「これが私たちのやってきた音楽で、今が最高です」と言わんばかりの充実ぶりを見せつけるだけ見せつけてきます。
ライブ時にも「解散が楽しみ」と言っていましたし、終わりを決めて、そこに頂点を持ってくるために全力を尽くす。というスタンスで走り切ったのでしょう。
「存分の力」はついにここに極まりました。
しっかりした音源が無かったのでTwitter(現:X)のポストを。
3,The Otals/Destroy My Memory
日本のシューゲイズ・ドリームポップバンドによる4th EP。
甘い。とにかく激烈にメロディが甘い。オルタナ然とした楽曲が多かったイメージの前作から、今回はもう少しポップに振ったのかな。という印象なんですが、それが作用してなのか、シグネチャーである轟音ドリーミーな男女ツインボーカルはもちろんそのまま、世界の滅亡をテーマにしてるにも関わらず、いやだからなのか、ともかく元よりの武器であったグッドメロディセンスがスイート方面に超新星爆発してます。もう全曲全パートのレベルでメロディが愛らしく美しい。そしておれはこういうのにすこぶる弱い。
そのうえ最後の最後で疾走オルタナ大キラーチューンまで持ってくるんだからこんなもん反則ですよ。おれは本当にこういうのに弱い。
もう涙が出るほど全てのメロディがいい。そして全曲このクラスの楽曲で成り立っている。どうなってるんだこれは。
2,Disembodied Tyrant・Synestia/The Poetic Edda
アメリカのシンフォニック・プログレッシブ・デスコアプロジェクトDisembodied Tyrantと、フィンランドのシンフォニック・デスコアユニットSynestiaによる共作EP。
Lorna Shoreの登場によって一気にその地平が再拡張された感のあるシンフォニック・デスコアの領土。今年もImmortal DisfigurementやWorm Shepherdなどが好作を発表し、より一層の盛況ぶりを見せていますが、まぁ言うて今年はコレでしょう、モノがちゃいますわ。
そもそも論として相当デカ盛り状態にあるシンフォデスコアからまだ一段踏み込んで、より過剰に速く、よりブレイクダウンを重厚に、よりメロディアスに、とさらに内容量を増やした上に、ヴィヴァルディの冬を事実上カバーしたり(ここまでやると事実上と言わざるを得ない)とやりたい放題なマシマシマシぶりを見せつけ、たった4曲ながら聴いた人間を片っ端から分からせていきました。
マジでこれ一発モンの企画で終わるのは相当もったいなくないですかね…
ガチでエグいぞ。(エバース町田)
1,Luck Wont Save You/Through the Mountains of Melancholia
アメリカのプログレッシブ・メタルバンドによる3rdアルバム。
とんでもないアルバムです。数多のバンドが憧れ、登頂を目指すBetween the Buried and Meという霊峰、その中でもよりによってColorsという狂気の登攀ルートに挑み、あまつさえその頂上に肉薄する作品がついに出てきましたよ。
プログレッシブ・メタル、デスコアを足掛かりにしつつ目まぐるしく展開していくサウンドは、しかしそれぞれのパートは単一で見たときにも生き生きと輝いており、しかも前のパートからガラリと一変するようなときにも強引なメドレー感はなく統率が取れており、聴き手を全く飽きさせません。
Colorsとの違い、という観点で言えば、よりピアノやシンセの要素が強い点と、メロデス的な展開やソロが多め、というのが大きな特徴でしょうか。ここは恐らく前作までを含め、彼らの脊髄にメロデスの神経が太く流れていることに起因しているのかと。
他のアーティストのアルバムとの比較といういささか失礼な形をとっての紹介になっちゃってはいますが、シンプルにハイパーごった煮プログレメタルとして明確に異常値のクオリティにある大名盤です。全員聴きましょう。
このルートってちゃんとある程度の再現性が存在したんだ。という驚きですよね。
ということでベストアルバム25選でした。本当は30枚にしたかったんですが、一言コメントの部分で力尽きました。次点5枚としては、
・Jon Anderson/True
・Múr/Múr
・Svdestada/Candela
・Thy Catafalque/XII: A gyönyörű álmok ezután jönnek
・小山田壮平/時をかけるメロディー
(50音順)
あたりになりますかね。
トリビュート・バンドをバックに従えたJon Andersonは「強くてニューゲームのYes」といった趣で、正直本隊より充実してるまでありましたし、アイスランドの俊英Múrの1stはGojira的メタリックなグルーヴに宇宙的神秘を混ぜ込む佳作でした。スペインのネオクラストバンドSvdestadaはその激情を遺憾なく放出し、ハンガリーの異能Thy Catafalqueはブラックメタルの過激さにハンガリアン・フォークを上手く落としこみ、今年andymoriとしてtiktokでバズる、というまさかの再注目を浴びた小山田壮平は、そのような刹那的なバイラルヒットを無暗に追いかけない、肩の力が抜けた柔らかさが素晴らしい作品でした。
それ以外でオッとなった作品で言うと、これはまぁアホの羅列になりますが、
・Austrian Death Machine/Quad Brutal
・Azure/Fym
・Blood Incantation/Absolute Elsewhere
・Bloody Tyrant/HAISEN MONOGATARI
・Chapel Of Disease/Echoes of Light
・Dolphin Hyperspace/What my Porpoise?
・Dvne/Voidkind
・Eigenstate Zero/The Malthusian
・envy/Eunoia
・Fellowship/The Skies Above Eternity
・Fleshgod Apokalypse/Opera
・forgotten employee 忘れられた従業員/The Backroom Tapes: Kmart (買い物を続けてください!)
・Friko/Where we've been, Where we go from here
・Frost*/Life In The Wires
・Geordie Greep/The New Sound
・Godspeed You! Black Emperor/“NO TITLE AS OF 13 FEBRUARY 2024 28,340 DEAD”
・Holysword/Era of the Dragonwar(EP)
・IHSAHN/IHSAHN
・IMPELLITTERI/War Machine
・Judas Priest/Invincibe Shield
・littlegirlhiace/MISS THE GIRL
・NETH PRIERE CAIN/潜ム闇、迫リ来ル狂気
・Night Verses/Every Sound Has A Color In The Valley Of Night Part.2
・Octoploid/Beyond The Aeons
・Project Smok/The Outcast
・Panzerfaust/The Suns of Perdition IV: To Shadow Zion
・Plastic Tree/Plastic Tree
・RIDDLE/1 SCORE, 2 THE NEW DOOR, 4 THE FUTURE
・Saidan/Visual Kill: The Blossoming of Psychotic Depravity
・SEMENTS/文読む月日
・silverglass/CELL COLLAPSE
・SLIFT/ILION
・Ulcerate/Cutting the Throat of God
・Wintersun/Time II
・ZAZEN BOYS/らんど
・Zemeth/MIREN
・そこに鳴る/開眼証明
・ふまれ/安全の確率
・ヨエコ/ニューヨエコⅡ~ラプソディ~
・色々な十字架/1年生や2年生の挨拶
・清春/ETERNAL
・渡會将士/MorroW SoundS
(50音順)
なんかがグッときました。
また、少し本筋からは外れたパーソナルな部分で振り返りをすると、2023年ぐらいから「人間は年を追うごとに新しい音楽を聴かなくなる」みたいな言説だか研究結果に抗うために、意識的に新譜を聴くようにしはじめてて、2024年の頭に「とにかく少しでも引っかかりのある新譜は聴いてそれを記録にも取ろう」と決めたんですよね。結果、アルバムで470枚、EPで105枚の都合575枚、世間的には大したことないものの、個人的には過去一番新譜を聴いた年になりました。
この動機付けでそれなりにアンテナを広く張ることが出来たので、今まで聴いてこなかったバンドや音楽に出会えたのは非常によかったですね。例えばSimon SafhalterのEnd of an Era (Hyper)なんかはインスタの広告で出てきてちょっと気になったので聴いてみたことで気に入った曲ですし。
ただその一方、今もこうして枚数をちゃんと書いちゃってるあたりに分かりやすく出ていますが、やはり薄っすら数字に支配されていたところもあったわけで、随時の記録としてポストをするのはアリだけど、数を書くのはどこまでどうなんだろう、とちょっと考えたりしています。でも前後が分からなくなったりするからナンバリングにもメリットはあるんだよなぁ…
今年は世界にとっても自分にとってもロクな年になってほしいですね。毎年その思いが強くなっていきます。それでは2025年もよろしくお願いします。