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豪雪地帯の暮らし その4(最終回)

通学路の歩道

小学校への通学路は、学校から数百メートルぐらい狭い歩道がありました。
冬になり雪が積もると、歩道は除雪されません。
家があるところは、その家の人が雪かきをしてくれますが、片側がブロック塀だったりすると、雪かきはされないので、人が踏み固めていくだけになります。
そうすると、歩道がどんどん高くなっていき、気が付くと下を車が走っている状態になります。
そう、車の屋根より高い位置まで歩道が高くなるのです。1.5mぐらいだと思います。
なので、ふざけていると車道に落ちて一巻の終わりです。
今考えると怖くて仕方ありませんが、あの頃は一年生も含めてみんな普通に通学していました。
今でもそうなのでしょうか。

太陽は出ないし雪がやまない

これは日本海側の地域は大体似たようなもんだと思いますが、とにかく冬の間は太陽を見る事がありません。
2週間近く太陽が出ない事も当たり前にあります。
たまに晴れて太陽が見えても長続きはせず、朝晴れていても午後から降り始めたり、夕方だけ晴れたりといった感じです。
むしろ半端に晴れると雪が溶けてしまい、足元が悪くなるので晴れの日は嫌いでした。

そして青森に住んで一番驚いたのが、とにかく雪が降りやまない事です。
例えば、最近では線状降水帯とか言って、雨雲が次々に沸いて大雨の被害が出たりしますが、たかが数日間の雨ですよね。どんなに長くても一週間続くかどうかというところです。
それが雪とはいえ2週間でも3週間でも降り続くのです。
当時は不思議で不思議で仕方ありませんでした。

青森市で雪が多いメカニズムは、まだ完全には解明されていないそうですが、ざっくりとした仕組みはこんな感じです。

モンゴルやロシアといった大陸の奥地は冬になると恐ろしく気温が下がります。
そこでキンキンに冷やされて乾燥しまくった空気の塊が日本に向けてやってきます。
よくテレビで、上空3,000mには-30℃の寒気が、なんて言っているアレです。
その冷えて乾燥した空気の塊が日本海を越えるとどうなるでしょうか。
日本海は非常に暖かい海で(人が入ると死んじゃいますが)真冬でも10℃を超えるぐらいです。
-30℃の空気と10℃の水、その差は40℃!
外が0℃の露天風呂で40℃のお湯に入っているのを想像すると判りやすいかもしれません。
どんどん日本海から湯気が立ち上り、乾ききった空気はたっぷりと湿り気を帯びて青森にやって来るのです。
そこには脊梁山脈である奥羽山脈が立ちはだかり、端っこにある八甲田山にぶつかった空気は山を登りながら雪を降らせるのです。
寒い空気は無尽蔵に大陸からやってきますので、大陸の空気が温まらない限りは、雪が降り続けるのです。

運転中に視界がゼロになる

乾いた雪が多く降る風の強い地域では、地吹雪という恐ろしい現象が発生します。
強風の日に砂ぼこりが舞うように、地面に積もったサラサラの雪が風で飛ばされ、吹雪のように横殴りに飛んできて、視界が0になる現象です。ブリザードのちっちゃいやつですね。
それはそれで怖いのですが、青森では単に雪の量が多すぎて前が見えなくなる事があります。

ある夜、友人の運転で郊外を走っていた時、大量の雪が降ってきました。
周りは真っ暗な一本道ですが、割と交通量は多いところです。
最初こそワイパーを早くしたりしていましたが、ライトが雪に反射して前が全く見えなくなりました。
前というか、前後左右の感覚も無くなります。ホワイトアウトです。
余りにも雪が密に降っているので、車の前に白いシーツを広げたような感じになるのです。
もちろん道路は雪で真っ白のため、センターラインなどは見えません。
左のガードレールを頼るしかないのですが、それも見えません。
たまに通り過ぎる瞬間、ガードレールについている反射板がキラッと見える事もありますが、通り過ぎる時の一瞬なので役に立ちません。
かといって、道路に停止していたらトラックに追突される恐れがあります。
ハザードを点けても、後ろの車には見えないでしょう。

そこで助手席の僕が降りて車の左前に立って、左手でガードレールを触りながら、右手をヘッドライトの前に出して走りました。友人は僕の手を見て運転するのです。
時速は10kmぐらいだと思いますが、そうやって5分ぐらい進んだところで雪がまばらになり、なんとか徐行運転をすることができるようになりました。

一人だったら立ち往生するか、事故を起こしていたと思います。
車の先導をしたのはあの時ぐらいです。

クリスマスやお正月にうっすら積もる雪は雰囲気が出ていいですが、ここまで降られちゃうと・・・山にだけ降ればいいのになと思います。

最近は温暖化で雪の量もだいぶ減ったり、小型の除雪機を購入する家も増えて、以前よりは過ごし易くなったようですが、毎日こんな感じの生活を3か月ぐらいは続けないといけないのが、豪雪地帯の暮らしなのです。

こんな目に遭って、雪はこりごりのはずなのですが、雪の予報が出るとワクワクしてしまいます。たくさん積もるのは嫌ですが、チラチラ雪が舞うのを見るのは好きです。
参ったなぁなんて言いながらも、外が気になってしまいます。
意外とそういう人は多い気がします。人間は雪が好きなのかもしれません。

おしまい

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