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どんな人にも居場所がある地域づくりを目指して〜イエナプラン的場作り〜

千葉県浦安市の入船北で3年間地域の子ども会会長を務める中で田村李瑠(りる)さんは今の公立校に通うことが辛いと感じる子ども達のことを考え、イエナプラン教育を軸とした学校づくりを進めている。また、地域での異世代交流の活性化を目的とした「畑ふかふかプロジェクト」のリーダーも務め、人と地域がつながる場を提供している。どんな人にも居場所がある地域づくりを目的として活動されている李瑠さんにそれぞれの活動について伺った。


自分らしさを育める学校をつくりたい

日本では不登校が後を絶たず増えている現状に李瑠さんは心を痛めている。そこには日本特有の生きづらさがあると考えている。代表的なものが一方的に与えられる校則だ。ルールに黙って従う生徒が良い生徒とされ、「こうしなきゃいけない」「こんな人にならなければいけない」という価値観を押し付けられているのではないだろうか。社会に目を向けても「良い子ども」「良い大人」「良い母親」「良い先生」という模範にあふれ、自分らしく生きることがむずかしくなる。そうした価値観の押し付けを少しでも減らすためには「対話」が必要だと話す。そんな中、今日本ではイエナプラン教育が注目を集めている。

イエナプラン教育とはオルタナティブ教育の一種でコンセプトは「共に生きること」を練習する学校としている。3学年ごとの異年齢クラスで常に多様性の中で学び合い、対話を中心にすえた活動を多く取り入れる特徴がある。自分の意見が大切にされ、相手の意見を尊重することを体験し、練習を重ねていく。一人ひとりを個性ある存在として認めてもらえる場であると同時に、「対話」の時間を多く取り入れることによって価値観の違いを自分ごととして捉え成長していくことができる場でもある。

李瑠さんはそんなイエナプラン教育を軸とした新しい学校をつくろうとしている。


英語がわからなくても、ただただ楽しかったイギリスの小さな公立小学校

李瑠さんは父親の仕事の関係で小学1年生〜4年生までをイギリスで暮らすことになった。平日はイギリスの現地校、土曜日は日本人学校に通うことになった。当時、英語のコミュニケーションもままならない李瑠さんだったが、現地校で外国人という壁を感じることなく楽しい学校生活が送れたという。

「前を向いた一斉授業はほとんどありませんでした。授業中に強制的に座らされることがなく常にうごきまわって授業を受けていましたね。授業が面白いから、勉強って楽しいな学校って楽しいなと感じていましたよ。」

授業はもちろん英語で行われているが、英語ができない李瑠さんを誰も面倒な児童だと捉えなかった。むしろ英語ができないことに注目させない環境づくりになっており、劣等生というレッテルをはられることもない。読書の時間にはクラスの端っこのソファに座りテープを聴きながら読書をするけど、それ以外はなんら変わらない仲間として日々を過ごしたという。

「イエナプランに近い教育だったと思います。私を英語ができない面倒な子として扱うの必要のない子どもに合わせた配慮がしやすい環境づくりになっていたのだと思います。違いが目立たない多様性を受け入れやすい環境でした。」

みんな平等の支援は過不足が生じることがある。ある子どもにとってその支援だけでは足らず、ある子どもにとっては多すぎて成長するチャンスを逃してしまうかもしれない。一人ひとりに合わせた適切な支援が子どもたちの自己肯定感を下げないことにつながる。同じ学年で統一され、同じ能力を求められる環境では、クラスの友達よりできないことに「できなくて当たり前だ」という感覚を持つことは難しい。多様性のなかで生きるからこそ、自分の個性を受け入れそれに合った適切な支援を受け入れやすい。


自分の個性を大切にできる場所で学んでほしい

6年生のときは父親の仕事でアメリカに一年間住み、中学1年生の時に帰国し日本の中学校に通うことになった。「黙ってルールに従う生徒」という「良い生徒」の価値観を押し付けられることで、自分ははみだした存在だと感じるようになったという。またクラスの友達の目も気になり始めた。「人と違うところがあるのは恥ずかしいこと」という価値観に囚われ、自分の個性を隠したくなった。

「人との違いをどれだけ隠すかに神経をつかっていました。私は体育が苦手だったのですが、日本の「体操服」を着ることで自分の身体にもコンプレックスを抱くようになり、余計に体育が嫌いになりました。逆に得意すぎることも目立たせないようにしていて、そんなことを考えることが煩わしいと思っていましたね。」

大人になって東京で暮らしていたが、結婚し、産後うつになり地元の浦安市へ帰ることになった。お子さんが幼稚園にあがるころ、日本では学校を選べないことや不登校、死にたいと考えてしまう子ども達が増えている現実から学校を変えようと活動をはじめた。李瑠さんのお母さんがイエナプラン教育をベースにしたフリースクール「小さなイエナスクール」の手伝いをする中でイエナプラン教育を軸に浦安市の教育を変えていこうと決めたという。

浦安市の教育委員会の人々と話し合いを重ねる中で気がついたことがあった。

「今、学校へ通っている子たちは良くも悪くも日本の学校教育に馴染んでしまっていて、そのなかで楽しく生活している子もいるなと思ったんです。その子たちから今の教育を奪ってしまうことはなかなか暴力的ですよね。だったら、新しい学校をつくって選んでもらえるようにしたいと思ったんです。」

オランダでは地域に多様な教育観をもった学校が存在し、教育を選ぶ自由が保障されている。それぞれの家庭の宗教や教育観にあった学校を選ぶことができ、合わなければ転校することもある。イエナプラン教育は多様性が浸透してきた日本でも理解しやすく、受け入れやすい。新しい学校は自分の個性を大切にされたいと願う子どもたちの選択のひとつとして考えてもらいたいという。


孤立する人を減らす地域での教育

現在、李瑠さんは地域の人たちと新しい学校づくりに向けて動き始めている。李瑠さんの周りには自分の子どものためにフリースクールをつくったり、不登校カウンセラーになったりするお母さんたちがいる。不登校の子どもたちが地域で孤立しないように活動されているのを目の当たりにすると、地域に教育の選択や不登校の子どもたちの受け皿となる学びの場の必要性を痛感している。また、地域には障がいをもった子どもたちもたくさんいるが、浦安市には特別支援学校がなく、となりの市川市まで片道1時間かけて通学している現状がある。

「将来的に地域で孤立する人を減らすという意味では、浦安市に特別支援学校がないことも問題のひとつだと思いました。障がいをもっている子は地域の人たちの理解が必要です。将来まわりの人たちと協力しながら生きていくためには地域で育ち、地域とつながりをもつことが大事になります。嬉しいことに浦安市の内田市長も特別支援学校新設を公約に掲げているので、支援学校を必要としているお母さんたちとつながって、【教育の選択の必要性】に共感してくれる人を増やしていきたいです。長い時間はかかると思いますが、そこから新しい学校づくりを進めていきたいです。」

ヨーロッパでは、特別支援学校、公立校、オルタナティブスクールがひとつの大きな建物に共存する学校がある。小さい頃から隔たりをなくし多様性にふれて成長する学びの場の実現に向けてまずは賛同者を増やすところから始めている。


異世代交流「畑ふかふかプロジェクト」

李瑠さんは地域子ども会会長を3年間務めているなかで、地域の子どもたち、高齢者、親世代、若者、支援が必要な人もそうでない人ももっと出会えるにはどうすればいいかを考え続けている。浦安市では小学校の廃校跡地を「まちづくり活動プラザ」として開放しており、さまざまな活動が行われている。脳トレエクササイズ、一杯50円のコーヒーサロンなどがある。そのなかで李瑠さんが「畑ふかふかプロジェクト」をスタートさせた理由はなんだったのか。

小学校だったまちづくり活動プラザは学校時代の畑跡地がある。都会のなかで貴重な土いじりができる場所だと李瑠さんは考えたが、畑の状態は非常に悪く、土は固まり、栄養も不足しとても活用できる状態ではなかった。そこで地域に開放された畑にしようと始まったのがこの「畑ふかふかプロジェクト」だ。李瑠さんの地域は団地が多く、家に庭のない子も大勢いる。土をいじる経験が少なく、穴を掘るという経験もない。この活動を通して子どもたちには土との出会いを提供し、高齢者には土との再会の機会にしてほしいと考えている。そして、この活動は交流を前提にしないため参加のハードルを下げ、それがつながりをつくるきっかけになるとも考えている。

「畑を耕すことが中心なので、話すことが中心じゃないんですよ。一緒に作業をしているなかで、つい自然と話をしてしまう、個人個人がつながれるきっかけになる場所だと思っています。そして畑を耕す活動は参加の仕方も自由です。今日は気分がいいからガッツリ草抜きをしようと思ってもいいですし、逆にのんびり、となりの人とゆっくり話すだけでも許されることは参加のハードルを下げますよね。年齢をこえた交流もできると思っていますし、畑を耕す活動を通して地域の中に居場所をつくり、孤立する人が減ればいいなと思っています。」

「もちろん自分の意思でひとりになることを選択している人はもちろん自由に過ごしたらいいと思います。でも孤立は意図せずにひとりになってしまう状態で孤独と孤立は似ているようで全然違うんじゃないかと思うんです。孤立してしまう人を地域の中で減らすためには参加のハードルが低い活動も大切ですし、あいさつと少しの声かけでもいいんだと思うんです。自分の存在をたまに気にかけてくれる人がいるとちょっと安心しませんか?心配や監視ではなく存在を尊重してくれる人がいるといいんじゃないかなと思います。」

李瑠さんがイエナプラン教育で最も感銘を受けたものが「教室はリビングルームのようにホッと安心できる場所」であるという考え方だ。異年齢で構成されたクラスは多様性の宝庫だ。その多様性や価値観の違いを対話を重ねていくことで肯定される空間をつくっていく。地域でも価値観の違いを肯定するには対話を重ねることが重要で、そのためには地域のひとたちがつながるきっかけが必要だ。

「地域の人たちがなんとなくゆるく繋がって、地域に住んでいる人のことを知れたらいいなと思っています。コミュニケーションも取れるし、取らなくてもいいような、ゆるいつながりでいいと思うんです。いろんな人がいるんだなとわかったうえで暮らしていけたらもっと生きやすいし、意見を言いやすいですよね。学校でも地域でもお互いを理解し、意見を表明しやすい場所を色んなところで作っていきたいと思っています。」

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