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銀河鉄道の夜

「ではみなさんはそういうふうに川だと言われたり、乳の流れたあとだと言われたりしていたこのぼんやりとした白いものがほんとうは何かご承知ですか」
宮沢賢治の書いた銀河鉄道の夜の冒頭、主人公たちに学校の先生が問いかけます。

銀河鉄道の夜は、天の川をたどる列車の旅、実際の星空を本当になぞるように物語は進んでいきます。もちろん、幻想世界ではありますから、列車の中で主人公が見ていくような世界が星空に本当に広がっているわけではありませんが、たどる星座は天の川の高い所、はくちょう座からわし座、さそり座、ケンタウルス座(インデアン座、クジャク座なども出てきます)を通り、最後には南十字星、(みなみじゅうじ座)へと空を眺めるだけでも一緒に旅をするような気分になるでしょう。

残念ながら、日本の大部分の地域では旅の終着点、みなみじゅうじ座までは見ることができませんが、ケンタウルス座の一部くらいまでは見えているので、ずうっと天の川をなぞると壮大な旅の気分を味わえます。

銀河鉄道の夜/ミツマチヨシコ

天の川は、2000億もの星が集まった、宇宙に数ある銀河の一つで、私たちの暮らす世界でもあります。
その中心には巨大ブラックホールがあることが今年の5月、写真撮影に成功したというニュースによりはっきり証明されました。
宮沢賢治が銀河鉄道の夜を書いた時代、アインシュタインがブラックホールの存在を予言し、理論上では「ある」と言われているものの、そんな天体があるだろうか、と誰もが首をひねっていたころです。そもそも、天の川の外にも宇宙が続いているのかすら、よくわかっていなかった時代です。

100年経った今、銀河は宇宙にあまた存在し、天の川もその一つであり、さらには当時、存在も知られていなかったブラックホールすら、見られるようになっている、というのは宮沢賢治が生きていたら、どんなに喜んだでしょうか。そして、どんな物語を紡いでくれただろうと思います。

「銀河鉄道の夜」の研究の中には、舞台となる夜がちょうど今頃、8月の半ばだとみているものもあり、確かに舞台となる星空が見やすいのが今頃の20時以降の空です。
晴れたらぜひ、空を見上げ、夏の大三角やさそり座を見つけて思いをはせてみて下さい。(星の探し方は「エイハブの六分儀」をご参照ください。)

ミツマチヨシコ
2002年から活動中の切り絵作家。水彩、漫画、動画なども作る。
作風はノスタルジック。ファンタジーとバンプオブチキンをこよなく愛している。
内なる宇宙をこの世界に持ち出し、未知なる外宇宙に思いをはせる日々。

2022年 8月号より

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