国内初の民間気象予報衛星!ALE新プロジェクト「AETHER」 -前編[葛野 諒]
人工流れ星などの 「Sky Canvas」事業で知られる株式会社ALEが先月発表した民間気象衛星で「自然災害」に挑む産学連携プロジェクト「AETHER(アイテール)」について株式会社ALEチーフサイエンティスト 舩越 亮 様にSpace Seedlings葛野がお話を伺ってきました。
【取材時の様子】左上:SS葛野 中央:ALE舩越さん
3つの事業を通してALEが描く世界
葛野(Space Seedlings 以下S.S.):今回はALEの新たな事業AETHER(アイテール)についてお伺いしたいと思います!これまでTHE VOYAGEではCEOの岡島さんの出身地である「鳥取×宇宙」をテーマにした記事なども出しており、勝手ながらご縁を感じております(笑)。
S.S.葛野:これまでALEといえば人工流れ星の会社といったイメージが強いと思われますが、今回発表されたAETHERは大気データ取得と、人工流れ星とは異なる事業になりますよね。ALEでは今どのようなことを掲げて事業をされているのでしょうか?
ALE舩越さん:はい。ALEでは現在、人工流れ星による宇宙エンタメ事業「Sky Canvas」を含めて3つの事業を進めております。2つ目が宇宙ゴミ対策事業で、最後が大気データ事業です。先月発表したAETHERはこの大気データ事業の内の一つになりますこれら3つの事業は一見バラバラなように思えるかもしれないですが、実は全てが弊社理念の一つである「科学と人類の発展に貢献する」ことを軸として繋がっています。
CEOの岡島は科学を発展させることで人類はよりドラスティックに変化できるのではないかといった想いで会社を設立しました。人工流れ星によって科学に興味を持ってもらう一方で、大気データを取得して科学の発展に貢献し、宇宙環境の保全についてもきちんと考えていく。3つの事業はこのように一つの理念が一つの軸として繋がっております。
S.S.葛野:なるほど!全ては一つの大きな目標に繋がっているのですね。
「自然災害」に挑むプロジェクト「AETHER(アイテール)」
S.S.葛野:それでは早速AETHERについてお伺いしたいと思います!まずはAETHERを始められたきっかけや背景についてお伺いしてもよろしいでしょうか?
ALE舩越さん:はい、元々ALEの人工流れ星はエンタメだけでなく、中間圏の大気組成を調べるのにも有効でないかと考えられてきました。AETHERは将来的に中間圏や様々な領域の大気データを取るための第一段階の取り組みとなります。僕の入社当時は、大気データ活用の方向性について検討している段階でした。そんな折、一昨年台風19号が関東に直撃しました。居住地の近くにあった荒川が決壊寸前までいってものすごく怖い思いをしたんですね。昨今、地球温暖化や気候変動により異常気象が増大し、我々の生活環境も変わってきています。これを例えば経済損失という切り口で見ると、過去40年の前半と後半で自然災害による経済損失を比べると、後半は2倍ほど損失額が多いんですよね。このような事実から今後SDGsの達成や気候変動への対応には防災・減災が重要になるのではと思うようになり、本プロジェクト発足に至りました。
S.S.葛野:今年に入ってからも地球温暖化が一気に加速したとニュースで報じられていましたね。ちなみにこの「AETHER(アイテール)」という名前にはどんな意味が込められているのですか?
ALE舩越さん:AETHERという名前はギリシャ神話の神様の名前が由来になります。
天界で、神様たちが呼吸する澄んだ空気を神格化したものがこのAETHERと言われており、本プロジェクトにもぴったりな名前だと思っています。名前が決まる経緯を話すと、当初はいくつかの候補からCEOの岡島に決めてもらう予定でした。しかし彼女の方から社員全体で決めたいという意向があり、最終的には社員全員投票の多数決でこの名前が採用となりました。個人的にはプロジェクトやメンバーの方向性を合わせる上で名前をつける行為ってすごく大事だと考えていたので、最終的にすごくいい名前になったんじゃないかなと思っています。
S.S.葛野:AETHERという名前には社員皆さんの想いが込められているのですね! AETHERでは具体的にどのようなことが行われるのでしょうか?
ALE舩越さん:端的に言うと国内初の民間気象衛星の実現を目指しています。先ほど話した防災・減災問題に対するアプローチとして、我々は高精度な気象予報が有効だと考えています。
気象予報って集めたデータを基に気象庁がスパコンで計算をして、天気予報という形で配信されていますが、これ実は国内の民間ではやられていないんです。そういう状況にも関わらず、国の機関である気象庁のリソースがどんどん減らされていると聞きます。今後気象庁の果たす役割はもっと大きくなるであろうにも関わらず、置かれている立場はどんどん厳しくなってきているのではないかと思います。
一方、世界では気象予報の民間移管が注目されています。NOAAという北米の気象機関ではCWDB(Commercial Weather Data Pilot)という、民間が取得した気象データを公共の気象予報に使えるか評価するプロジェクトが2016年から始まっています。CWDBでは民間データの有用性が既に証明されてきていて、もう民間から気象データを購入する段階まで進んでいます。自然災害多発国である日本でもこのような動きができたらという思いで、我々は動いています。
S.S.葛野:AETHERではこれまで国が担ってきた気象情報の観測から予測の民間代替を目指しいるのですね。AETHERはこれまで国が行ってきた気象事業とどのような点で異なってくるのでしょうか?
ALE舩越さん:まずコスト面が一番変わります。大型衛星を1機打ち上げて運営するとなると数千億円台の費用がかかってしまいます。これをずっと続けていくのはかなり難しいですよね。今後の気候変動を考えるとこういったコスト面が問題になって対応しきれない状況が想定されます。一方、民間参入には低コスト化が重要になるので、そこが決定的な違いになると思います。
S.S.葛野:なるほど。AETHERでは国内初の民間気象予報衛星を開発されるということですが、これまでの政府系大型気象衛星「ひまわり」などと比べるとどのような点が異なるのでしょうか?
ALE舩越さん:「ひまわり」は高性能な静止衛星で、日本近海をずっと見ていられる一方で水蒸気センサーは搭載されておらず、他の低軌道の周回衛星のセンサーに頼っています。現状だと地球観測をするときに衛星台数の制限から6-7時間に1回の頻度でしか水のデータが取れないんですね。これから台風とか豪雨とか線状降水帯といった気候変動の予測精度を上げていこうと思うとより高い頻度が求められます。
それに対する我々の解決策として、1台の性能自体は大型衛星には劣るけれども、必要十分な観測ができる低コストセンサーを超小型衛星に載せ、10-20機のコンステレーションを構築します。これにより世界中の水蒸気データを1-2時間に1回という高い頻度で観測することができます。これが大きな違いになります。
S.S.葛野:1-2時間に1回!従来と比べると随分高頻度ですね。水蒸気のデータ取得のために「マイクロ波サウンダー」の開発を行うと発表されていましたが、マイクロ波サウンダーとはいったいなんですか?簡単に教えていただけますと幸いです!
ALE舩越さん:マイクロ波サウンダーとは電磁波の一種であるマイクロ波を受信するためのセンサーになります。地球や大気は温度を持つため熱放射という現象で電磁波を放射しています。その地球や大気自身が放射する電磁波を観測することで地球や大気の状態を知ることができます。我々が見たい水や酸素が放出する電磁波はマイクロ波領域なので、このマイクロ波を見ようっていうのが、マイクロ波サウンダーの役割になってきます。
S.S.葛野:なるほど!分かりやすいご説明ありがとうございます。
本取材を通してALEが軸とする理念や、新たに取り組まれるAETHERの意義や詳細について知ることができました。これまでは「ALEといえば人工流れ星」といったイメージを持っていましたが、今やALEはそれに留まらず、「科学と人類の発展への貢献」というより大きなビジョンのもと気候変動という地球規模の課題解決に取り組まれていることが何より印象的でした。
次回はAETHERの参画機関から見えてくる「産学連携」の意味と、チーフサイエンティスト舩越さんのAETHERに対する想いに迫ります!
AETHER(アイテール)発表 記者会見 - YouTube
ATMOSPHERIC DATA - ALE Co., Ltd. (star-ale.com)
舩越 亮(ふなこし りょう)
株式会社ALEチーフサイエンティスト。東京都出身。 東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修了。修了後は日本学術振興会特別研究員PDを経て、日本電子株式会社に入社。その間、日米欧で反物質を用いた物理学の基礎研究や、半導体製造装置(電子ビーム描画装置) の技術開発に従事。2019年、ALEに入社。ALEでは大気データ取得の新規事業企画に参加。科学的知見をベースに、技術検討、開発計画立案、協力研究機関との産学連携体制構築、などを担当。
宇宙・科学以外のcuriosity: サッカー、旅行
葛野 諒(くずの りょう)
東北大学大学院 工学研究科 航空宇宙工学専攻 博士前期課程1年
【専門・研究・興味】宇宙エレベーター/宇宙テザーなど宇宙空間における柔軟構造物の研究
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【活動】
SELECT(宇宙エレベータークライマー製作)
Tohoku Space Community
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