デッドプールはMCUを救うのか(ネタバレ有)
まずタイトルの問いに答えると「YES」です。
それを思わせてくれるほど、今回の「デッドプール&ウルヴァリン」は最高に“映画”していたと言えます。
前2作と作中のノリは変わらずに近年の悪しきディズニーの流れに持っていかれる事なく、スクリーンにヒュー・ジャックマンのウルヴァリンを戻しただけで賞賛物なのに関わらず、その味を最大限に活かして、観客はストーリーの面でも大盛り上がり。もちろん悪い所も無かったわけでは無いですが、それを踏まえても最高の映像作品でした。
良かった点① キャラがいい
まず過去2作品も含めてこのシリーズは非常にキャラ立ちが凄い上手いシリーズです。
作中で「不人気」と言われたケーブルでさえ、並の最近のドラマシリーズや映画よりもわかりやすく過去の背景があって、言動に対してスッと感情が入るように理解できます。
そして過去が描写されないキャラ。例えばドーピンダーやウィーゼル、ブラインド・アルにコロッサスも作中の演技だけで、その人がどんな性格でどういう意図があって発言しているのかがわかりやすく、しっかりと作品とマッチしていて、最近のMCUにありがちな場面やキャラを無視した強引なギャグと違って、ナチュラルにジョークがお出しされるため、劇場でもクスッと笑える本当に良い塩梅になってます。
そして主人公のウェイド・ウィルソン。まず彼は日本のポスターとかCMに書かれてるような“クソ無責任ヒーロー”のようなふざけた存在ではなく、しっかりとした深みのあるヒーローです。
ただいたずらに不死身の能力を使って無茶苦茶するだけではなく、暗い過去やトラウマ、そして現在進行形の悩みを常に抱える非常に共感できるキャラクターを持っています。
幼少期・傭兵時代の出来事が常にトラウマとして残り続け、ヴァネッサという理解者が現れたと思ったら余命宣告をされる。そして癌から助かる希望が見えたと思ったら、醜い見た目のミュータントとなり、恋人の前には出れなくなる。そしてその苦悩を乗り越えたと思ったら恋人は自分の行動が周り回って殺されてしまう。そしてまたまたそれを回避したとしても今度は恋人と別れ話を持ち出されてモチベーションが無くなってしまう。
彼の持つ剽軽なおちゃらけたキャラクターに隠されていますが、デッドプールは映画の冒頭では常に苦しんでいます。しかも“大いなる力”のような物ではなく、現実世界でも起こりうるリアリティのある苦しみです。そんな共感性の高い苦しみを持つキャラクターだからこそ、敵をR指定の表現で薙ぎ倒す姿は爽快で、皆彼を応援します。
そして今作はその最高のキャラクターの相棒としてローガンが加わります。作中の彼は自分の行動によって仲間が皆殺され、その後にやるせなさから無関係の人間含めて大勢殺し、その結果X-MENを悪者にしてしまいました。それがローガンのトラウマやアル中の原因となります。ただ作中でデッドプールや後述のローラと話した事により、踏ん切りが付き、「チャールズが誇れる男になりたい」というモチベーションから行動し、それは非常に映画的にも効果的で印象的でした。
中盤にデッドプールとホンダのオデッセイの中で戦闘する際には、自分の世界(過去)が救われるのが“根拠のある願望”でしかないと知っただけで激昂していたにも関わらず、終盤ではデッドプールが嘘をついていたと告白したり、TVAから自分の過去は変わらないと告げられても、怒るような事はせず、受け入れて前に進もうとします。
ここからもわかるように彼もまた作中で成長し、トラウマを乗り越えたキャラクターなのです。
良かった点② 最高の悪役
名作映画には名悪役が必須です。「リトル・マーメイド」のアースラ、アベンジャーズ IW/EG」のサノスに「眠れる森の美女」のマレフィセント。彼らは主人公達と負けじ劣らじの重要性をもち、作品の根幹を担っていると言っても過言ではありません。
その点で今回、俳優のエマ・コリンはメインボスである“カサンドラ・ノバ”を完璧に演じきりました。
強さの面でもズバ抜けており、それでいて人間臭い。なのに心の底が読めないようなある意味上位者的なキャラクターであり、相手の心の中に入って優しく語りかけながら懐柔を試みたりする姿は他のキャラクターとは一線を画す存在である事が容易にわかります。
またエマ・コリンの演技も卓越しており、弱冠28歳ながらもキャラの持つポテンシャルを最大限演じていて、観客を引き込む素晴らしい演技でした。
そしてMr.パラドックス。彼は初めこそTVAで陰謀を働く狡猾なキャラかと思えば、カサンドラが神聖時間軸に襲来して以降は完全に小物キャラになり、カサンドラの底知れなさを引き立てる役割になっていました。彼も序盤の自分の計画をペラペラ話すオールドスタイルのヴィランのような行動を除けば、作品の中で結構面白く動いていたと思います。
良かった点③ 最高のカメオ
前回のnoteでも現れてた通り、自分はカメオに対して正直そんなに好きではありません。話題作りの為のストーリー軽視のカメオには表面上のインパクトだけで何の重みもないです。
ですが今回は違います。中盤で出てくるエレクトラやブレイド、ガンビットにローラは本当に本当に最高の登場でめちゃイケでした。(特にブレイドとローラ)
正直最初スクリーンに出た際は興奮したものの、またちょい役で、最悪Xフォースみたいに面白死するんじゃないかと危惧しましたが、それとは裏腹に彼らはスクリーンでは良い意味で大暴れしていました。(ジョニーは別).
ブレイドの決め台詞やローラのサングラスなど、過去作を知っていたらブチ上がる事間違いなしの演出も多々あり、ガンビットのトランプを生かしたアクションも超イケイケで映画制作が頓挫した過去をしっかりと清算できたように感じます。それにオタクなら喜ぶちょいキャラも多数いて良い塩梅にテンションが上がりました。
リーダー格で登場したエレクトラが1番影が薄くて、俳優に関わるデアデビルネタを振られた時くらいしか記憶がないのが残念ですが、近年の他マーベル作品と比べて滅茶苦茶良い扱いで、しっかりと好印象に残るカメオでした。
また冒頭のハッピーも作品には1度しか登場しませんでしたが、世界観がMCUに繋がっているという描写としてはとっても良かったと思います。
良かった点④ 刻みの良いギャグ
デッドプールを代表するのはやはり“ギャグ”。1作目でも2作目でもそれはしっかり展開されており、デッドプール人気の火付け役の一因を担いました。ですが制作会社がMCUになって不安に思った人は多々いると思います。
MCUは「ソー・ラグナロク」以降無駄にギャグを放り込むことが増えます。面白くないギャグをシリアスな場面に差し込むことで謎に笑いを誘うけれども、面白くないから全く笑えない。なのにシリアスな展開は微妙に崩して雰囲気をぶち壊す。この流れをエンドゲーム以降露骨に増やした結果、ソーやシフなどのアスガルドの神々はチンケなアホキャラに成り下がり、モードックは死に様を意味のわからない空気で終わらせられ、サンドマンはソファについた砂を“砂になった“手”で払い除けようとするという意味のわからないおバカが増えまくりました。
その集大成が「シーハルク」。本作はコメディに目覚めたMCUが“法廷コメディ”をするというものですが実態は法廷要素はほんの少しだけ。コメディも全く面白くなく、今の呪術廻戦的な皮肉めいた面白さが目立っていました。その中でも個人的に1番嫌いなのは、最終話のDisney+のホーム画面をシーハルクが動くシーンです。自分はアレの何が面白くてウケを狙った結果なのかわかりません。というかそれをする事に納得できるキャラがシーハルクにはありませんでした。作中ちょいちょい“第四の壁”を超えていたシーハルクでしたが、彼女は本当におもしろくない。だからそんな荒用事をしても「あらあら何をしてるの」といあ感想しか出てきませんでした。もしデッドプールが同じことをしていたら、もしかしたら笑えたかもしれないですが、残念ながら魅力の全くないヴィラン同然のシーハルクが行った行為は見え見えのウケ狙いのしょうもないアイデアでした。
そんな負の遺産があるMCUが作る今作のデッドプールでしたが、個人的には満足でした。元々の下地の違いもあったでしょうが、ギャグも良いバランスにモラルがなくて、前作までの雰囲気を完璧とは言わずともしっかり受け継いでいて、上映中は何度も笑いました。
悪かった点① お粗末なムービー
今回個人的に1番気に入らないのは“ムービーとしての迫力の無さ”です。なんだか画面は明るすぎて陰陽が少なく、戦闘シーンも前作までと比べると迫力に欠ける印象でした。
序盤の“虚無”で2人が戦うシーンも本来は映画史に残る最高のファイトシーンになるはずが、周りが明るく白すぎて、なんだか気分が乗りません。まるでPS5のゲームです。それよりも酷いのは終盤のvsデッドプール集団。あそこでウルヴァリンとデッドプールがスライドしていく画面で戦うのですが、あそこは本当に盛り上がらない。おっさんのパンチみたいな速度で爪を刺すウルヴァリンとか本当見てて「何してんの☹️」みたいな気持ちになります。デッドプールも不死身にかまけたチンタラした戦闘でスピード感がなく、悪い意味で“リアリティ”がありました。
前作の保護施設でのケーブルとの共闘シーンや、「GOTG3」の宇宙船内での戦闘なんて、音楽も相まって超イケイケで何度も見返したくなるほど良い戦闘シーンですが、今回の道路でのシーンは気分も乗らない中々に失敗感が漂うシーンでした。
そして同じ場面での、ウルヴァリンとデッドプールがバスから飛び出した後のウルヴァリンの動きはまるでゲームの放置中のキャラみたいな動きで、ここも凄く気になりました。「ブラックウィドウ」や「ソー・ラブアンドサンダー」でも問題になっていたCGI問題は以前継続してるんだなと悲しくなる出来で、前作のコロッサスvsジャガーノートの大迫力CGIバトルが恋しかったです。
悪かった点② 雑なストーリー
今作の話の展開は正直手放しに褒められたものではありません。最初にデッドプールが中年の危機になったキッカケは殆ど描写されず、TVAに拉致られて任務を与えられる経緯も謎で、パラドックスが自分の計画をペラペラ大義のように話す様は本当に間抜けでした。
虚無に行ってからも何故カサンドラが元の世界に戻る鍵なのかは言及されず、取ってつけたように出てきたスリングリングがそのアイテムという何とも言えない展開でした。(カサンドラが取り出す流れはまだスムーズなので良かったですが…)
あとデッドプール集団が何故カサンドラ側にいて、敵対しているのか、そしてそんなに血の気盛んなデッドプール集団はどうしてピーターを見ただけでワイワイして戦闘を放棄するのか。
色々と疑問点の残る話の展開で、見ている時は良いけど時間が経てば次々にしこりが残るストーリーでした。
あと既存キャラがほぼ出てこないのは何故なのか。
前2作でデッドプールの原動力となっていたヴァネッサは生きてるのに、頭の中でしか出てこずそれも1回。
前作までで人気の高まっていたドーピンダーや、コロッサス達X-MENは最初と最後にしか登場せず戦闘シーンなんて勿論0。前回意味深に現代に残ったケーブルは2回しか名前が出ずに行方不明。ドミノに関しては本当に影も形もなく、一切言及されずに死んだはずのシャッタースターと喋れない髭ジジイが逆に出てくる始末。
既存キャラで1番扱いが良いのがピーターで次点がブラインド・アル。他は最初と最後しか出てこない終始庇護対象でしかなく、彼らのキャラや魅力というのは一切使わないという大胆な脚本は本当にアホな選択です。
最後に
それでも自分は近年のMCUでも今作は傑作だと思います。ストーリーが雑だの映像が陳腐だの言っていますが、それを埋めてお釣りがある物が今作にはありました。それは“思い出”です。
シリーズ物が完結に向かう時、そのシリーズを追っていた観客は思い出によって、シリーズが終わる時に感動し、思い入れのある作品やキャラに対して別れの悲しみや今までを振り返って出てきた懐古の念を抱きます。これはもちろんネガティブなだけの感情ではなく、そのシリーズに対してどこまで感情を移入して思い入れがあって接してきたのがよくわかる場面です。
そしてそれは観客だけではなく、製作陣次第でもあります。思い入れて追う価値のある作品を作れるか、その作品の最後を汚さずに綺麗に終われるかは製作者の腕の見せ所であり、1番の見せ場となります。だからこそ見てきたファン達はEGでトニーが死亡するシーンやGOTG3でチームが別れる時に涙しました。
今回MCUは他会社の思い出の清算をしました。元はというと大人の事情で無くなることになってしまった20世紀FOXの作り出したユニバースに対してのケジメとも取れます。
MCUでアイアンマンが作られるかなり前からMarvel作品の実写化に着手してきたFOXは、SONYのスパイダーマンシリーズと並んでブームの下地を作ったと思います。その作品達の中でも印象的な場面やキャラに展開はどれも素晴らしいものでファンも大勢いました。
ですが今回MCUに買収されてしまった以上、そこのファンは不完全燃焼に陥ります。「あの後ローラはどつなるの?」「ガンビットの単独作品はもうないの?」
今作はそのFOXユニバースのファンの心残りに対して終止符を打ちました。それがファンにとって手放しに良いことか悪いことかは置いといて、このような行為が出来たのは「デッドプール」というキャラクターと映画が持つ特別な力によるものです。
そしてこれからはそのスペシャルな力を持つデッドプールがウルヴァリンという最高のキャラクターを連れてMCUに本格的に参戦します。今現在多くの問題を抱えて下火になりつつあるMCUですが、今作を踏まえてここから再興する可能性は十二分にあり、その未来に対して我々ファンは期待しても良いと思います。
【引用】
https://abcnews.go.com/amp/GMA/Culture/new-deadpool-wolverine-trailer-shows-epic-team-action-watch/story?id=109493290
https://theriver.jp/dp-wv-timeline/