「幸せの証明書が欲しい」佐藤鈴奈
昔から「ナナ」って名前が好きでした。
ナナ、なな、NANA。
なんか親しみやすくて、可愛くて、つい呼びたくなる。
そういえば、NANAっていう漫画ありましたよね。全く違う生き方をしている二人の「NANA」が出会う話。
8月の斗起夫ワークインプログレスで、戯曲を書くときに登場人物にどうやって名前をつけるかという話をしたんですけど、ナナちゃんはどうつけたんでしょう。なんとなく「ナナちゃん」だなって思ったんですかね。
https://note.com/pepepeclub/n/n1fa176ff54aa
組織の中で生きることはむいてないけれど、社会から離れる勇気もないし、社会のなかで認められている、いわゆる「幸せ」というものを、心のどこかで追い求めている。
目の前にある小さな幸せが大事ということはもちろんわかっていて、一緒に笑ってくれる人がどんなに尊い存在かというのも、わかってはいるのだけれど、社会で規定されている「幸せ」の形がどうしても頭をよぎってしまう。
いちばん大切なことは、目に見えない。でも、やっぱり目に見える形で証明できるものが欲しい。自分は幸せだという証明書が欲しい。
幸せに関する考え方は、2031年にはアップデートされているのだろうか。それとも当たり前のように、女性は母の役割を求められているのだろうか。
どうして性別とか、国とか、〇〇世代とか、いろんなカテゴリーで区切ってしまうのだろう。カテゴライズしないと自分はどういう存在なのか、わからなくなってしまうのだろうか。そういえば、魚や鳥にとっての幸せって何だろう。人間として生きていく幸せって何なのだろう。
そうこう考えているうちに、自分にとっての幸せがわからなくなって、迷子になってしまう。
だから、幸せの証明書がほしい。
きっと東京の街中でナナちゃんとすれ違っても、ナナちゃんだとは気づかない。
たとえナナちゃんがこの世からいなくなっても、街中ですれ違った田中さんや山田さんは、そのことに気づかない。
それが東京の居心地の良さでもあるし、さみしさでもある。
斗起夫は、自分の中にある「ナナちゃん」像を見ている。
これは、わたしも。
この間、家の前で男女が口論していた。
男は酒に酔っていて、大声で暴言を吐き、女の首をつかんでいた。
男 「俺にも抱っこさせろ」
女 「あんたは乱暴するから絶対に嫌」
男 「じゃあ俺はどうすればいいんだよ」
そんな口論の中、赤ちゃんは泣かずにじっとしていた。
もしかしたら、この子が斗起夫かもしれない。
この間、電車に老いた男が乗ってきた。
きっと何日も風呂に入っていないであろう体臭とぼさぼさの頭。お酒の入ったレジ袋。
車両に乗ってくる人々は、老いた男を見る。そして、目をそらす。
もしかしたら、この老いた男が斗起夫かもしれない。
さっき、駅ですれ違ったショートヘアの女の人。
もしかしたら、あの人がナナちゃんかもしれない。
佐藤鈴奈(ペペペの会)
1997年生まれ。千葉県出身。ぺぺぺの会の人。松井周の標本室2期生。
主な出演作には、ペペペの会の作品の他、馬場会『改☆インドの水曜日』、AAPA 土浦公演 『内側、重なり interior, overlapping』、キコ/qui-co 『鉄とリボン』、団塚唯我監督『此処に住むの素敵』などがある。(れいなに相談すると大抵のことはなんとかなる。人間的な黒さ、醜さの裏付けもあって、ただ潔いだけじゃないところに共感できる。編集:石塚より)
Twitter @orange31455224
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