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私の映画鑑賞録2021(ネタバレ感想文)

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2021年新作映画のマイベストは『トムボーイ』。いや、日本公開が今年だっただけで本当は2011年の映画だけど。
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2021年4月の記事一覧

映画『水を抱く女』奇異な印象と神秘性(ネタバレ感想文 )

私だけかもしれませんが、ドイツ映画ってちょっと不思議な感覚があるんです。うまく説明出来ないんですけど、何かこう、人物の感情が分かりにくいというか、感情の流れが不自然に感じられるというか。『ブリキの太鼓』(79年)、『ベルリン・天使の詩』(87年)、『バグダッド・カフェ』(87年)なんかでも似たような感覚があったんですが、この映画もそうでした。 そう考えると往年のドイツ映画的な映画だったのかもしれませんが、その「不透明な感情」が逆に「主人公の特異さ」にハマった気がします。 も

映画『BLUE/ブルー』リングの呪い(ネタバレ感想文 )

「リングの呪いに取り憑かれた男達」と書くとまるでホラーですが、「ボクシングに魅了された」では少し弱い。 「ボクシングに取り憑かれた」あるいは「ボクシングの呪いにかかった」というのが適切な気がします。 私の中で吉田恵輔監督は、いい意味で期待を裏切る信頼のブランドです。 2018年の私のナンバー1邦画は『愛しのアイリーン』ですし、同年は『犬猿』も高評価していますが、今回もいい意味で期待を裏切られました(そもそも監督が30年もボクシングやってたことが驚きですがね)。 ボクシング映

映画『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』 ぼんやりコメディ(ネタバレ感想文 )

キングオブコメディ今野とかカラテカ矢部とか、相方がやらかしちゃった芸人に仕事があってよかった。今野、そこに愛があってよかったな。 もしかするとこの監督は心優しい人なのかもしれません。 確かにこの映画、心優しい映画とも言えます。 「人が手にするのが銃ではなく楽器だったら世界はもっと平和なのに」というテーマとも受け取れます。 ある意味きまじめなメッセージ。きまじめメッセージのぼんやりコメディ。 ただ私は、つまらなかったわけじゃないんですが、トリッキーな演出が邪魔に感じたんです

映画『アンタッチャブル』アンタッチャブル(ネタバレ感想文 )

午前十時の映画祭で再鑑賞。スクリーンで観るのは公開当時以来、三十数年ぶり。 映画って、いつ観るかって重要だと思うんです。自分の年齢と製作年(どのくらい昔か)の2軸に於いて。 この映画、私の中で「若い頃に公開すぐ観た時は面白かったけど、今観るとくだらねえな」の代表作。 公開当時は「デ・パルマらしくない」「大して面白くない」「でも嫌いじゃない」という感想だったのですが、今回改めて観て「意外にデ・パルマらしい」「嫌いじゃない」「でもビックリするくらい本当に面白くない」に感想が変

映画『ノマドランド』世界は世界である(ネタバレ感想文 )

映画はブレることなく、フランシス・マクドーマンド演じるファーンという女性の視点が貫かれる。つまりこれは、彼女の見聞録なのです。彼女は、自分が見聞きした風景や他者の人生という「世界」をありのまま受け入れ、変化していく。これはそういう映画です。ある意味、典型的かつ正しいロードムービーとも言えます。 さらに言えば、正しいドキュメンタリーとも言えます。 多くの場面が手持ちカメラで撮影され、出演者のほとんどに実際のノマドを起用した手法もさることながら、善悪を区別せずにフラットな視点