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私の映画鑑賞録2024(ネタバレ感想文)

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ただの私の映画鑑賞備忘録です。2024年バージョン。基本、ネタバレ。駄文。
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映画『クルージング』 ゲイ・パチーノがウロウロしている映画(ネタバレ感想文)

1980年の映画ですが、私は全然知らない映画でした。 なんかウィリアム・フリードキンでアル・パチーノなんだってよ!程度で観に行ったんですけどね。 当時のゲイ・カルチャーを描写した貴重な映画というフレコミも目にしますが、今時の眼で見るとどうだろう? 結構、偏見も入ってる気もしますがね。 やっぱりどこかで「異質」の扱いだと思うんです。 ネタバレになるのであまり詳しく書けませんが、犯行動機がファザコンというか父に認められたいというか、むしろ父への畏怖、あるいは憎悪、なんなら父親

映画『太陽の少年』 ビー・バップ・スタンド・バイ・ミー(ネタバレ感想文)

この監督の作品は『鬼が来た!』(2000年)が好きだったんです。 香川照之はいい役者だったな。 その時に、この『太陽の少年』を見逃したことを後悔して、ぜひ観たいと願って四半世紀、この度4Kレストア完全版にてやっと初鑑賞。感謝感謝。 年上の女性に淡い恋心を抱く少年の気持ちは痛いほどよくわかりますし、よく描けていると思います。 あの、髪に水(お湯)をかけるシーンは良かったな。 鈴木清順『陽炎座』(1981年)なら「骨に沁みます」と言う場面だ(<わかりにくい話を…) しかし、

映画『ドキュメンタリー オブ ベイビーわるきゅーれ 』 ヘラヘラ観てて申し訳ない(ネタバレ感想文)

映画製作現場を描いたこの手のドキュメンタリー映画っていつ頃からあるんでしょうね? DVD特典のメイキング映像なんかで慣れちゃってますけど、それとドキュメンタリー映画は似て非なるものだと思います。 ドキュメンタリーって「真実」みたいなイメージで受け止められますけど、製作者の意図が介在するものであって、必ずしも客観的ではないんですね。 ちょっと話がズレますけど、本作もそうですし、大概のメイキングを見ても「申し訳ない」って思っちゃうんですよね。 映画製作現場のものすごい苦労が伝

映画『Cloud クラウド』 黒沢組は常に廃工場を探してるんだろうな(ネタバレ感想文)

困ったな。 正直に言いましょう。私は面白くなかったんです。 ま、ナンダカンダ言いながら黒沢清の長編映画はほぼ全て観てるんで、初めてのことではないですけど。特に最近は口に合わないことが多い。 何だろう?怖くないんです。何が原因なんだろう?現場が楽しかったのかな?なんとなく和気あいあいの雰囲気が伝わってくる。harp_tone 琴音ちゃんなんか伊右衛門のCMの方が不気味じゃない? いろんな解釈が可能かと思いますが、私は「人としての何かを失っていく物語」だと思います。 いやまあ

映画『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ 』 池松壮亮のド本気(ネタバレ感想文)

今年になって遅ればせながら出会った『ベイビーわるきゅーれ』。 ドラマ『ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!』も観るほどハマってるので評価が甘いです。 面白かった。「やった!」って感じ。 ずいぶん「殺った!」という意味も込みで。 いま、日本で最高峰のアクションを魅せてくれる映画だと思います。 ま、レジェンド昔話をすると、釈由美子主演の『修羅雪姫』(01年)っていう素晴らしいアクション映画があったんですけどね。アクション監督はドニー・イェンだよ。あの頃から佐藤信介監督は信頼のブラ

映画『憐れみの3章』 脳がバグった人たちのエグいコメディ(ネタバレ感想文)

原題は『Kinds of Kindness』。 「優しさの種類」とでも訳すんでしょうかね? まあ、邦題通り3章から成るお話ですがね。 3つの異なる物語を、同じ役者たちが、異なる役を演じるという変な作り。 エンディングテロップが始まってすぐに離席した客は、大オチを見逃すという仕掛け。 いま一番面白い監督のヨルゴス・ランティモス。 だいたいこの監督の映画は、面白いんだか面白くないんだか、よく分からなくて面白い。 本作もそうです。傑作とか佳作とかいろんな作品がありますが、これは一

映画『侍タイムスリッパー』 泣いた。感動巨編。マジで。(ネタバレ感想文)

映画の感想文に「泣いた」「号泣した」とかたまに書くんですが、たいがい再鑑賞で「好きすぎて」泣くパターン。『ゴッドファーザー』(1972年)とか『犬神家の一族』(76年)とか。 初見でこんなに泣いたのは何以来だろう? 『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』(2001年)以来じゃないかな? あ、調べてみたら『日々ロック』(14年)と『音楽』(19年)で泣いてる。泣けて泣けてしかたなかったらしい。なんでそんな映画で泣いたんだ? でも、共通する所があるように思う

映画『スオミの話をしよう』 どんなスオミが見たかったろう?(ネタバレ感想文)

愉快に楽しく観ました。ケラケラ笑っちゃった。 ネタバレになるから詳しく書けませんが、冒頭から黒澤明『天国と地獄』(1963年)のパロディーなんですよ。そりゃ当然鞄を投げるよね。 電話がかかってきた時に三船敏郎はシャワー浴びてるんだけど、坂東彌十郎はカプセルの中で寝てやんの www。 他にも、関係者全員を一室に集めて名探偵が謎解きをするのも、アガサ・クリスティー的なパロディーを意図しているのでしょう。 実際、三谷幸喜は、野村萬斎をエルキュール・ポアロ(役名は勝呂武尊)にした

映画『サンダカン八番娼館 望郷』 想像以上にドラマティック(ネタバレ感想文)

「女の生きざま映画」です。 あまり熊井啓とご縁が無くて、今まで観たのは『黒部の太陽』(1968年)と『千利休 本覺坊遺文』(89年)しかありません。 特に利休さんものは、同年の勅使河原宏の『利休』が大好きなもんだから、私はあまりピンと来てない。 私は熊井啓を「日本の暗部を描き続けた作家」だと思っているので、どっちも熊井啓の本質ではないんじゃない?そんなことない? そんなわけで熊井啓には社会派のイメージがあるんです。社会派というか「告発系」。 そういった意味では、山崎朋子の

映画『ナミビアの砂漠』 分からないけど分かる気がする(ネタバレ感想文)

純子だから観ました。 我が家では河合優美のことを「純子」と呼んでいます。 「女の生きざま映画」でした。 27歳の若き才能・山中瑶子監督。 商業映画として、どこまで自分の思い通りに撮れているんだろうか? 正直言うと、私はこの作品の魅力が分かりませんでした。 いや、少し語弊のある言い方だな。 「どうしてこういう撮り方をしたのか」という意図というかセンスみたいなものが、若い女性の感覚と私がズレているというのが正しいかもしれません。 ただ、監督の頭の中は少し分かるような気がしま

映画『エフィ・ブリースト』 人生は手に負えない(ネタバレ感想文)

我が家のファスビンダー祭り、というかハンナ・シグラ祭りも、本作でしばしお休み。 本作もまた、他のハンナ・シグラ出演作同様「女の生きざま映画」ですが、正直、面白いんだか面白くないんだか、「手に負えない」映画です。 最初に情報を少し。 テオドール・フォンターネという人が書いた原作小説は、19世紀末のドイツ文学を代表する作品の一つで、「社会の抑圧」と「個人の自由」の葛藤を描いた物語として知られているそうです。 ファスビンダーが映画化したのは1974年ですが、日本では今回が初公開だ

映画『ラストマイル』 獣になれない弱者の私たち(ネタバレ感想文)

面白かったです。 いや、「面白かった」「感動した」というよりも、「よく練られているなあ」と「感心した」というのが正直なところかもしれません。 いくつか論点があるんですが、ちょっと話が盛りだくさんだったので「安藤玉恵のエピソードいるか?」と最初は思ったんですけど、実はこのエピソードは必要だ、という2つの観点から書き始めます。 まず、監督の塚原あゆ子(<関係ないけど酒豪だそうですよ)。 彼女、デビット・フィンチャー好きなんですよね。 凝ったオープニングなんて、もろフィンチャー

映画『リリー・マルレーン』 企画物に忍ばせた毒針(ネタバレ感想文)

「ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー傑作選2024」にて4Kデジタルリマスター版で初鑑賞。 私が通ってこなかったライナー・ヴェルナー・ファスビンダー。 1982年に37歳で早世して、その後あまり取り上げられませんでしたからね。この映画はファスビンダーが死ぬ2年前の35歳で撮った作品。 フランソワ・オゾンが手掛けたリメイク『苦い涙』(2022年)きっかけで、昨年何本か上映され、今回はその続編的な特集上映。 もっとも、我が家ではファスビンダーというよりも、その女神ハンナ・

映画『Chime』 恐怖の随筆。恐怖枕草子。いとこわし(ネタバレ感想文)

45分の中編。R15+。 黒沢清好きの私はそこそこ高評価ですが、オススメはしません。 (`•︵•´) キッパリ!! ナンダカンダ言いながら黒沢清作品をほとんど観ているんですが、究極の黒沢清作品だと思います。 私は、黒沢清は「恐怖に対して真摯」だと思っています。 「恐怖中心主義」と言ってもいい。 ストーリーよりも「恐怖」重視。 謎解きよりも「恐怖」。理由や説明よりも「恐怖」。 観客の納得よりも「恐怖」。 全ては「恐怖」のために。 本作は、それが如実に現れた作品なのです。