ピープルフライドストーリー (17)番外エッセイ編
【作者コメント: 思いこみって怖いですね。小説の会話の言葉を「」で囲んだりしますが、基本「って行の1コマ目に入れるというのをやっと気づきました。2コマ目に入れるものと思い込んでいた。ところがよ~く見たらアラ不思議どんな本でも1コマ目からじゃないですか。一度脳が思いこむと、何十年も目で見ているのに正確に見ていないという事実にショック。『脳は人をだます』みたいな本もありますが、まあ、天変地異って程じゃないですが、いろいろあって今回はエッセイ……です。】
第17回
(エッセイ)
墓
by 三毛乱
北大路公子『お墓、どうしてます?』の紹介が新聞にあった。いつか本の中身を見たい。ところで墓というと、ある短編小説(たぶん)を思い出す。あるいはブラックジョーク集本の中の一つのエピソードだったかもしれない。
米国(たぶん)の末期の老人が、棺の中に電話機を設置して「死後何日目の何時に電話を掛ける」と家族に言って死ぬ。その時間に約束どおり土中から電話が掛かってくる。話はそこで終りである。家族の者が受話器を取って何かを話したかは憶えていない。
今だと携帯電話から掛かってくるという話になるけど、これだと味が落ちる気がする。。やはり電話線が棺にひかれた後を想像すると面白く味がある(電話会社の人が棺まで電話線をひく工事作業を想像するだけでも面白い)。それと日本の火葬にした後の遺灰を土中に埋めるのと違って、遺体を焼かずに埋める国の方がこの話には合っていて趣が増すと思う。(米国でも遺灰にして埋めるケースが増えてるみたいですが。)
日本式の墓からの電話だと、まあそれでもホラーにはなるけど、土葬の墓からの電話の方が実在感を感じられて、こちらの状況設定の方が好きだが皆さんはいかがだろうか?
さてW・ヴェンダース監督が小津安二郎監督のお墓を訪れ、無という字が彫られていて、ナッシング(何もない)という意味だと教えられて感動した、という記事をかつて見た。その時そんなに感動するかなあ……と思った。墓に大きな無の字一つだけがデーンとあったら見事な感じはするけどなあ……。と、いつか実物のお墓を見て確かめたいと思っている事柄なのである。そもそも外国の人、西洋人だし、宗教感がだいぶ違うんだろうから、ヴェンダース監督と会話しないとどのように感動したのか判らないのかもしれないが…。
ところで映画『仁義の墓場』のクライマックス辺りで、墓場にて赤い風船🎈が印象的な名場面があるのだが、あれは墓場がグレイだという印象が強くあるから赤色がより際立っているのだが、個人的には実際のお墓にもっといろんな色があってもいいのではと思っている。刺青のある肉体は好きではないが、全面刺青彫りした色鮮やかな墓……みたいな一見奇天烈なものがあってもいいかもしれない。ギターの形をしたお墓やその他の形を週間誌のグラビアで紹介していた事があるが、もっといろんな形もあっていいと思う。つまりアートとして機能している個性的なのがいっぱいあってもいいんじゃないかと。
味も、舐めると甘かったり、ビターだったり、激辛だったりの墓が……いや、やっぱりお墓には味覚を載っけなくていいね。墓を舐める変態が増えるだけだからね。
さて大きさも……昔池袋のサンシャイン60ビルを見て、これぐらいの大きさの墓を建ててみたいと思った20代もあったなあ……と、妄想ぎみなのは昔から変わらないなぁと、いろいろ思い出して来たが、巨大な墓はまあ今はSF小説とかバーチャルな世界でしか実現できなくなっていると思うけどもね。(「2001年宇宙の旅」の黒いモノリスも、生命体というより墓のイメージがある……。)ともかくいろんな墓があっていい。
でもゲタ箱みたいなお墓があるじゃないですか。(フタ=トビラがあるから銭湯のゲタ箱や銀行の貸金庫に形状が近いのに、学校のゲタ箱(フタがあってもなくても)をすぐに連想してしまう…。)あの前に立ってお坊さんがお経を唱えてる映像を見た事があるが、あれは嫌だな。あれなら遺灰を海に流してハイ オシマイっていう感じで済ませたい気がする。
あくまで個人的な美学としてですが、あのゲタ箱のお墓はいりません。
まあ理想の墓というのはあります。個人墓にしてサイズも色も平凡でいいけど、実は丁度良い大きさの字で『ちょっと でかけております』と表記した墓です。戒名なんか要らないけど、いろいろ考えまして、氏名死亡年月日以外にこの言葉が記されていると、なかなかオシャレで粋な墓だと思いますけどどうでしょうか。日本式の遺灰のみの墓だからこれ「粋でしょう」と、ちょっと自慢したいくらいなのだが、遺体を埋める地域の墓だとちょっと急にナマナマしくなる。「ちょっと でかけて ま~す」と、ゾンビのようにふ~らふ~らしている感じになると思うので違う言葉を考えないといけない。う~ん、お墓の表面に数字入りのタッチパネルを設けて『9ケタの暗証番号を90秒以内で当てて下さい。当たったら起き上がって90ドル差し上げます。』みたいなのはどうでしょう。…ユーモアはあるけど粋じゃないね…。う~ん『かりそめの姿でここに眠る。もし私に会いたいのならば、私が本当の姿になっている時に…』なんていうのはどうか。う~ん、まだまだの出来ですかね。(米国のパンティ泥棒とかパンティコレクターの奴の墓には『パンティを見せてくれ。気に入ったらすぐに立ち上がるから』みたいな言葉を付記してほしい。それぐらい死後にもささやかな欲望(?)を抱いている墓があってもいいんじゃないか。殺すとか恨むとかの言葉使用はダメだが。…ああ、それにしても、また今回もパンティという言葉を使ってしまった。…もう、パンティという言葉から卒業したいっ──!)
というわけで、皆さんもいろいろ理想のお墓を考えてみてはどうでしょうか。結構楽しいと思いますよ。
まあ理想のお墓を現実に得られる公算は個人的にはほぼないんですが。(たが、宝くじで大金が手に入ればすぐ解決する問題なのかもしれない。でも宝くじで当たったのは今までで一万円が最高額だった。…やはり理想の墓は個人的には手に触れる事などない幻なのであります…。)結局、家族墓というか先祖の入ってる墓の中に入るっていうオチになるのかもしれない。
ところでドラマなどでお葬式関連場面で流れるお経は、大体般若心経が使用されてる気がします。般若心経は今ではほとんど忘れたが、短いので20代に覚えた事があります。ある時寝ころんだまま天井を見つめて般若心経を大きな声で唱えてた事がありました。「まかはんにゃはーらーみーたーしんーぎょう~かんじーざいぼさつ~…」と何回かやっているうちに顎が痛くなりました。ヤバイッと思いすぐ起き上がりました。上半身をちゃんと立てて声を出さないといけません、ああいうのは。皆さん、真似しないようにお願いしたい。まあどんな痛みがあっても責任は負えませんから。寝ころんだまま歌っても似合う歌はあるんでしょうが、般若心経はやめておきましょう。
───
えーと、豆知識めいたものも提供できたし、あとは祈るのみです、これを見た皆さんの一日がはかばかしい成果の一日でありますようにと。はかばかしい、はかばかしい、はかばかしい。
とりあえずは大丈夫、試しに寝ころんではかばかしいを三回大声で唱えても顎は痛くはならなかったのでありました。
終