森見登美彦:熱帯 読書感想文
物語のマトリョーシカ、夜行と同じトリック、京都みのある東京、おなじみの怪都京都。
2018年の発売当時にすぐ買ったのに、分厚さに怯んで寝かせてしまった「熱帯」をついに読んでしまった。
森見先生とその作品が好きな理由は色々ある。森見先生について言うと自分と同い年だということ。そいで、常になんか締め切りやなんやで悶えていらっしゃる感じがかいま見えるところ。自分も終わらない仕事を抱えて万年ヒーヒーフーフー言ってて、なんなら一瞬マネジメントで病んで会社ドロップしたこともあるから、なんかこう、他人には思えず、同じ大学の顔見知りじゃないけど、知ってる同期、くらいの気持ちでつい、つい無条件に応援してしまう。それこそ、新刊が出たら書評も読まずにハードカバー買ってしまうくらいには。
なので、熱帯の序章は過去最高に好きな始まり方だった。新作がはかどらずもだもだするご本人登場のシーンはめっちゃニヤニヤしながら読んだ。何を隠そう、GWに溜まる仕事に残り3日になっても手を出すきにならず、現実逃避でつい手にとって読み始めてしまった、というのが読み始めの動機だったもので。なんとなく自分と同じ境遇を本の中に見つけた安心感があった。
が、2章に入る頃には今手にとってしまったことを後悔し始めた。これはやばい。降りられない列車に乗った感あるぞ、と。
森見先生のメイン著作は乱暴に分けて2タイプあると(勝手に)思っている。夜は短しとか、有頂天に代表される「不思議ファンタジー×面白系」ときつねや宵山、夜行に代表される「不思議ファンタジー×不気味怪奇系」そいで後者は結構メリーバッドエンドだと思う。どっちも大好きだけど、後者はとにかく一度読みだしたら最後まで一気に読み終えないと自分も物語の暗闇から帰ってこれなさそうで、半ば怖くて、出口の光を求めて突っ走ってしまう。最後までとにかく不安でほっとできない。熱帯は手にとった時タイトルからして、どちらかわかりかねていたのだけど、読んでみたら完全に後者だった。油断した。夜行だ。これは夜行と同じくらいヘビーじゃないか。しかも分量2倍くらいあるぞ。
森見先生の怪奇系の怖さは身近さがウリだと思っていて、いつも近所にある風景の延長線上に不思議が漂っていること、そこに足を突っ込んだら同じようで別の平行世界へ行ってしまって戻れない感があること。なんだか自分も、もしかしたら明日通勤中にいつもの角を曲がった先は、同じように見えて違う世界かもしれない。前の世界から私は消えてしまっているかもしれない。読んだ後はそんな不安にかられてしまう。
今回も「熱帯」の成り立ちと仕掛け?の仕掛けはわかったけれど、門をくぐった皆の行方は謎のまま、世界の大きな謎は解けぬまま「そんな入口がこの世のそこここにありまして」という爆弾だけ落として幕を閉じるのであった。怖い。
ミヒャエルエンデの「鏡の中の鏡」なんかがお好きな人は、絶対森見先生の「熱帯」「夜行」あたりはお好きなはずです。後、綾辻先生の「深泥丘奇談」などがお好きな人も好きなはず。
あと、今回は珍しく東京から物語がスタートします。(最後は結局京都なんだけど)有楽町、神保町のリアルなビル名、店名、駅名が出てくるので、京都にゆかりがある人だけでなく、その辺り界隈にゆかりがある人はよりリアルに楽しめると思います。(東京でも聖地巡りができますね!)ただ、東京の描写をしているのに、どこか京都みが漂っており、これがまさに森見節のなせる不思議だなぁ、と思いました。
どうか、私は「熱帯」には出会いませんように。