#第1歩 パン屋さん (文)
パン屋さんに来ていた。焼き上がるパンを眺めていた。
パン屋さんでパンを買うことはとても難しい。店内に行列ができるパン屋さんほどその難易度は上がる。こんなにもたくさんのパンが私を見つめているのに、持っているお金的にも、私のお腹的にも、買うことのできるパンはせいぜい3個ほどだろう。ドアを開けていちばんに目に入ってきたくるみパン。これは店内のパンの中で、私が今食べたいパンランキング第3位までに入ることができるだろうか。店内を1周するように続く列。これからどんなパンに出会うか分からないのだから。ごめんねくるみパン。ドアを入ってすぐのパンは、報われないことが多い。
半分と少し進んだ列の中で、私のトレーに乗っていたパンは1つだけ。直感って、たぶん大事なんだろうな。くるみパンを越えるパンを、残りの列の中で見つけられるのか。ふと前に立つ彼のトレーを覗いてみると3つ乗っている。いいのだろうか。まだ先にもっとおいしいパンがあるかもしれないのに。
私は焼き上がるパンを眺めていた。パン屋さんはとても忙しい。いたるところでパンに呼ばれている。人間にまみれて忙しいよりは断然いいかもしれない。なんといってもお腹がすいてしまう素敵なにおいにまみれることができる。なんて幸せな職業、なのか。なのか?
今この瞬間だけを見ているからだ。毎日毎日、1日の中でも朝から晩まで、私はパンをずっとずっと焼き続けることができるのか。ずっとずっとパンを焼いて、今日も明日もパンを焼いて、焼き上がったパンを取り出して、幸せな気分で蜂蜜をぬることができるのか。
レジの直前で4つめのパンに手を伸ばす彼を見て、くるみパン、買えば良かった、そう思った。
パン屋さんになれるのは、パンを焼くこと、がスキな人。あと、パンを焼き続けることが苦痛にならないくらい、パンのそばにいるだけで、パンのにおいにまみれるだけで幸せになれるくらい、パンがスキな人。私はせいぜい、パンを食べるのが、スキな人。おいしくパンを、いただきます。
13歳のハローワークって知ってますか。それの「いい大人のハローワーク」って作ろうと思って。もちろん、完全に主観です。
まだまだ続く列の先にあるパンの可能性にとりつかれてくるみパンを選ぶことができない私は進路を決めきれないのも当然と言えば当然かもしれなくって、「いい大人のハローワーク」、始めます。