競争の結果生まれた個性のことを人は戦略と呼ぶ
後輩の作曲家から相談を受けた。
「いつも似たような曲ばかりになってしまう」
とのこと。
正直、確かにそうだなと思っていた。
そこで、まず
「いつも似たような曲ばかりになってしまうということは、個性が確立されているとも言えます。
その個性が好きですか、それともそうじゃないですか?
好きならそれを伸ばしていきましょう、そうじゃないなら直しましょう。でもいずれにせよ、その個性をくわしく分析してみることは大切です。」
と聞いてみた。
すると
「好きとか嫌いとかじゃないんです。個性はなるべくなくしたい。作曲家としてターゲットに合わせたい」
とのこと。
でも、僕はちょっと違うなと思ったので、こう回答した。
「ターゲットに合わせるために、ライバルとの競争に勝つために、ひとりひとりが必死で考えたオリジナルのアイデアのことを個性と呼ぶんだと思う。」
そのとき例え話で使ったのは、トリケラトプスだ。
トリケラトプスはツノがあって、頭のまわりにフリルがある。とても特徴があって、個性的な恐竜といえるだろう。この個性的な恐竜は、同時代(白亜紀)の最強の恐竜、ティラノサウルスからなんとか身を守って生き延びるために、他の動物もそうだが、種としての必死の進化を遂げてきた。
トリケラトプス類が、生きるために必死に考えた・・・わけではないが「生み出した」オリジナルのアイデアが「ツノをつけて頭にフリルをつければ攻撃されても防御できる」という個性になったわけだ。
これが他の骨格や生態をもつ恐竜だったら、その生まれ持った特徴に応じて「速く走れるから、それを進化させてティラノサウルスより速く走れるようになった」とか「水に強いから、水の中でもえら呼吸できるようになってティラノサウルスから逃げられた」みたいに、まったく違うかたちの「競争の勝ち方」を身につけてきたわけだ。
まとめると、
・元々もっている「特徴」を活かして、競争に勝つために進化させたのが「個性」
・「特徴」を活かす必要があるから、他にはまねできないのが「個性」
・「競争に勝つための、他にはまねできないもの」をもっているとなれば、必ず勝てる。
ここまで書いて思い出したのが、楠木建氏の著書「ストーリーとしての競争戦略」だ。
正確な引用ではないが、この本の中で「戦略というのは自分が持っている所与の資源のなかで目的を達成するためにどうするかのストーリーだから、ほかの人の戦略と同じになるとか、そっくり真似するというのは矛盾している。すべての戦略はオーダーメイドであるべきだし、そうならざるをえない」という趣旨のことが論じられていて、とても感銘を受けた。
たんなる「特徴」や「クセ」を野放しにすることではなく、厳しい競争のなかで、生き残るため、勝つために必死に考えることで、「特徴」や「クセ」がオリジナルのアイデアやスタイルとしての「個性」にレベルアップするのだろう。そうなると、「戦略」という言葉もかぎりなく「個性」という言葉を似たことをいっているんだなという風に頭の中が整理されてきた。競争の結果生まれた個性のことを人は戦略と呼ぶのだ。