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2021年度振り返り〜将棋棋士 豊島将之先生を応援して変わったこと〜

将棋棋士の豊島将之先生に興味を持ち、初めてその姿を拝見してからは、さらに熱烈に応援せずにはいられなくなった年。
私の2021年度はそんな風に豊島将之先生の頑張りにただ心を揺さぶられ続けたことへの鮮烈な印象しか残っていないほど、応援一色で季節が過ぎていった。

6月に関西将棋フェスティバルのオンラインイベントで、揮毫色紙の抽選販売に当選した。棋士先生の色紙を手に入れたのはこれが初めてだった。どんな言葉を書いてくださっているのか。事前にはわからなかったので、胸の高鳴りを抑えながら慎重に箱を開けた。

黒地の色紙に細部まで心配りのある筆運びをされたことが窺える丁寧な文字で「一心不乱」と揮毫してある。文字からも心に乱れがなく、手にした人のことを思って心を込めて取り組んでくださったことが目に浮かぶような美しい色紙だった。

「一心不乱」に何かに打ち込んだことなんて、私の人生の中でかつてあったのだろうか。自分のことを思い返してみても、あれがそうだったとはなかなか思いつかない。

私は幼少期からどちらかといえば要領のいいほうだった。勘が良くて、それなりにするのは得意なのだ。例えば英文法などは理解もせずに文章ごと丸暗記してテストを乗り切る。そして忘れる。
そんなだから平均点は出せるけれども突出して優れているところがなかった。

私が豊島将之先生に心を掴まれたのは、脇目も振らず真摯に将棋に打ち込む姿勢と、その努力が身に纏わせたであろうオーラだ。こんな風に言うと決まってそれはファンならではの色眼鏡だ、良く言い過ぎだと笑う人もいるだろう。否定するつもりはない。

しかし、その人たちにはぜひ、一度でも豊島先生に実際にお会いしてからもう一度同じ質問を問いかけたい。私にとって初めて実際に拝見したセルリアンタワー能楽堂での豊島先生は、表現し尽くせないほどの衝撃でしかなかった。

人間は、こんなにも深く一つのことを考えられるのか。それにひきかえ私は何と安直に物事を決めてきたのか。己の思慮の浅はかさを恥じたくなるほど、豊島先生はその物言わず思考する姿だけで私を圧倒してきた。

伏し目がちに盤面を凝視し、ふと中空を見上げ、時折指でリズムを刻むように読みを深めていく。豊島先生の思考と一緒に、私の心もどんどん深い深いところに吸い込まれていった。それは瞑想が気持ちがいいのと似ているのかもしれない。陶酔してしまうような不思議な感覚なのだ。

豊島先生と同じくらい深い思考にはたどり着かないまでも、すぐ傍で観戦しているだけでその静かに一点に集中する思考に自分の雑念までもが洗われていく。対局場を後にして、いつもの喧騒に戻った時、我に返って気づく。ああ、私はなんと素敵な時間を過ごしたのかと。

この不思議な体験は、不平不満が多かった私を変えてくれた。足元にも及ばないことはわかっていても、少しでも豊島先生を見習って、浅慮で一喜一憂するのではなく、深く呼吸して考えてみようと。そうすると、ざわざわと波立った心が落ち着き、整ってよい選択や対応ができるようになってきた。

豊島先生は2021年度を29勝29敗の指し分けで終えられた。飛ぶ鳥を落とす勢いで頂点まで上がってこられた藤井聡太先生と、タイトルホルダーとして対峙することになった。
華奢な見た目からは想像もつかない、ほとばしるような強い信念で真っ向勝負を受けて立つ豊島先生の潔い姿は切ないまでに美しく、長い十九番勝負の間で何度も胸を締め付けるられるほどに感動した。

叡王戦では藤井聡太先生とフルセットの死闘を繰り広げるなど、記憶に残る名局が全58局の中には散りばめられている。一般棋戦ではJT杯で2連覇、NHK杯で初優勝し、トップ棋士に相応しい変わらぬ強さを証明してみせた。

豊島先生が放つ勝負手に乗り移った気迫は、私の弱い心にも何度も火を着け、励まされた。ダメな自分が顔を覗かせた時、諦めない豊島先生のことを思い出せるようにと、色紙は部屋の一番目につく所に飾ってある。

豊島先生の2007年のプロデビュー以来15年のなかで、勝率5割は最も低い数字だが、最も過酷な対局相手が居並んだ中での指し分けは、むしろ驚愕すべき結果だと思う。先生の日々の鍛錬と弛まぬ努力が、決して負け越しにはさせないという結果に繋がったのだろう。

豊島将之先生という存在を偶然知ったことと、それによって私の生活も大きく良いほうに動き出したことは、今思えば神様からのギフトだったのだと思う。日々を少しばかり楽をしようと、そこそこの頑張りで過ごしてきた私に、真剣に取り組むこと、考え続けることの素晴らしさを教えてくださった豊島先生には感謝しかない。

2022年度が間もなく始まる。タイトル挑戦や棋戦優勝に向けて棋士先生方がしのぎを削るなか、きっと新年度も豊島先生は強く静かに熱い将棋をお見せくださるのだろう。引き続き熱く注目し、力の限り豊島先生の勝利を願い、声援を送り続ける一年にしたい。

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