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第47期棋王戦五番勝負第2局(金沢対局)大盤解説会レポ

2022年2月19日(土)第47期棋王戦第2局は石川県金沢市・北國新聞会館で対局が行われた。棋王戦は毎年第2局が石川県など北陸で開催される棋戦なので、北陸在住者の私にとっては最も身近な棋戦である。今期も挑戦者決定まで胸を躍らせながら本戦の行方を見守った。

挑戦者トーナメントベスト4に残ったのは佐藤康光九段、郷田真隆九段、豊島将之九段、永瀬拓矢王座。ベテラン対若手の構図となったが永瀬王座が安定した強さを発揮して挑戦権を獲得した。

昨年は開催見送りとなった大盤解説会のチケットは完売。会場の20階ホールには横10人×15列程度の椅子が並べられ約150名程度の収容だ。13時開場の30分前には到着したが、すでに熱心なファンの皆様が座席を確保しておられ、最前列から5列目くらいまでは埋まっていた。最前列から大盤があるステージまでの距離が1.5mくらいと大変近い。照明も明るくてみやすくきれいな会場だった。

参加者全員にはペットボトルのお茶か缶コーヒーと、石川県輪島市に祖院のある總持寺の開創700年記念のお箸が配布された。伝統工芸として知られる輪島塗の箸で頂くときっとご利益がありそうだ。地元色溢れる素敵なおもてなしがとても嬉しかった。輪島市は金沢市街からは少し距離があるがいつかは訪れてみたい。

(大本山總持寺祖院)

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https://noto-soin.jp

また直筆色紙や印刷の扇子など将棋グッズの販売コーナーもあり、両対局者以外の先生方や女流先生方もたくさん揃っていた。私は以前から欲しかった豊島将之先生の名人位記念扇子「清福」を手に入れた。将棋ファンにはお財布と相談しながらだがあれもこれも欲しくなるものばかりだった。

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13時30分、定刻通りに大盤解説会が始まった。村山慈明七段と里見咲紀女流初段が登場された。お二人とも初めて拝見したのだが、村山先生は小顔でハンサム、咲紀先生はファッション誌から抜け出したようにすらりとされてとても素敵だ。

親しみを込めて村山先生のことをじめこ先生とお呼びするファンもたくさんおられるが、お二人ともとってもお綺麗なことだけは間違いなかった。

昼食休憩明けの局面からの解説で、村山先生がどんどん候補手を挙げて説明してくださる。双方互角のジリジリとした長い序盤戦でまだまだ手も広い。途中、地元金沢市出身の田中沙紀女流二級もゲストで参加され、会場からも候補手の声が上がるなどして観客の熱気と解説陣との一体感が感じられる進行だった。

【田中沙紀先生Twitterより】今日は棋王戦が、地元の金沢の北國新聞会館にて行われています。
大盤解説会も行われています。
ご好意で私も少し出演させて頂きました。
貴重な体験が出来て感動しています。
ありがとうございました。https://twitter.com/19941118saki/status/1494938379989172224?s=21

村山先生は渡辺棋王とは長い付き合いということもあり、また「序盤は村山に聞け」のキャッチフレーズで知られる先生でもあるため、この手は渡辺棋王のこれまでにはなかった新しい感覚だ、これは永瀬王座らしい指し手だとそれぞれ特徴を捉えて説明してくださる。

また長考に入った時には村山先生が面白いエピソードを披露してくださったのでいくつかご紹介したい。

①じめこ先生は渡辺先生の勝利の女神

村山先生は渡辺先生と同い年の1984年生まれで、この年生まれの将棋棋士はこのおふたりだけだそうである。村山先生は渡辺先生のタイトル戦の解説をこれまでに10局くらい担当されているが、そのうち敗戦はたった1局。つまり解説が村山先生の場合の勝率が9割とまさに勝利の女神(⁈)である。

最近だと豊島名人に挑戦し決着局となった第78期名人戦第6局や、挑戦者の斎藤慎太郎八段に防衛を果たした第79期名人戦第5局など。ただし、この唯一の敗戦というのが6年前の挑戦者佐藤天彦先生との第41期棋王戦第2局で、偶然にもこの同じ金沢の会場だったそうだ。今日はどっちの目が出るのかと仰っておられたが、不思議な巡り合わせを感じるエピソードだった。

②VS相手同士は口癖も似る

永瀬王座といえば藤井五冠と長くVSを続けておられることで知られている。村山先生が藤井五冠と対局した際の感想戦で、藤井五冠が「〇〇で、〇〇と指したらあとは祈ってました」と言っていたのが印象に残っていて、後日、永瀬王座と研究会をした際、永瀬王座が「祈っていた」という言葉をよく使っておられるな、と気づかれたそうだ。話しかたも似てくるんですかね、というお話は興味深くて、会場からは笑い声が上がった。

17時を回り、攻防の要となる8筋の飛車の扱いで少しずつ形勢に差がつき始めた。5筋に双方の銀が4枚連なる見たこともない局面は難解だ。ここから渡辺棋王が緩みなく攻めて勝利をおさめたが、永瀬王座も最後まで真骨頂ともいえる粘り強さをみせた。タイトルホルダー同士の至高の対決は本当に素晴らしかった。

18時29分の終局後、対局者の先生方と立会人を務める屋敷九段がお疲れのところ大盤解説会場にご挨拶に来てくださった。コロナ対策で難しいのではないかと思っていたので、嬉しいサプライズだった。

渡辺棋王はマイクが要らないのではないかと思うほど明瞭な発声で、村山先生の検討筋などを訊ねながら感想戦を進めてくださった。形勢が逆転した手のAIの推奨筋の検討では、初手を教えて、と仰るなどユーモアたっぷりで、会場からの回答の声に応えて進行したりと、さすがの冬将軍の貫禄十分だった。

永瀬王座は少し疲労の色はみえるものの、中盤までは優位に進めていたこともあり、次局への意気込みを話してくださった。永瀬王座の愛らしい仕草としてすっかり有名になった「首コテン」は考慮される時の癖だと思っていたが、感想戦の最中も何度も左右に首をコテン、コテンと傾げておられ、大変失礼ながら本当に愛らしかった。

両対局者先生が先に退室され、屋敷先生が総括のご挨拶をされた。立会人は中立なのでどちらを応援という事は無いが、渡辺棋王の2連勝となり永瀬王座は厳しい状況となったが、ハイレベルなお2人の対局を1局でも多く観戦できるように、第3局の新潟対局もぜひ応援して頂きたいと仰られた。まさにその通りだと心からうなづいた。

大盤解説会の開始から約6時間、喋り通しで真剣に時には笑いを交えながら楽しく解説してくださった村山先生と咲紀先生も最後の挨拶をして退室された。長丁場をこんなに楽しく過ごせたのは間違いなくお二人のお陰だ。精一杯の拍手でお送りした。近くに座っておられたかたも、解説がわかりやすかった、また参加したいと仰っているのが聞こえてきた。

大盤解説会が終了し、会場の外に出た時には19時を回っていた。金沢市内はまん延防止期間中により殆どの飲食店が20時までの営業で、19時30分がラストオーダーだった。飲食店は何軒回ってもどこも営業終了しており、これは夕飯にありつけないかもしれないと途方に暮れていたが、近江町市場近くのテナントに21時まで営業しているところが数件あるのを見つけ、駆け込みで何とか間に合った。

冬の金沢といえばお目当てはやはり豊富な海鮮料理。カニやブリなど7種の海鮮が綺麗に盛り付けられた海鮮丼を頂いた。

近江町いちば館2F「市の蔵」

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海鮮丼(¥1760税込)

これまで将棋のタイトル戦観戦では、観戦に集中するあまり食欲が無くなり、やむなくコンビニで簡単に済ませたりすることもあったが、やはりこんな風に地元の美味しい食材に舌鼓を打てるのはとても嬉しいことだと改めて実感した。

次の機会はいつになるかわからないが、楽しく将棋を観戦し、美味しい料理を頂きながら過ごせる時間は私にとって何よりの癒しであることは間違いない。またこの時間を楽しめるように、明日から頑張って働こうというモチベーションは満タンに補充された。

将棋のイベントは本当に楽しい。もちろん全部に参加というわけにはいかないが、自宅観戦にはない会場の空気感や一体感が楽しめることや、テレビで観るより遥かに素敵な先生方にお目にかかれることも魅力だ。

こんな風にたくさんのかたの力で成り立っているタイトル戦を楽しませて頂けることに感謝して、次の棋王戦第3局も素晴らしい対局となるように心から願い、声援を送ろう思っている。

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