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2冊読み終えて、読書の秋

秋にしては暑い日が続いていましたが、やっと涼しくなってきました。
つい先日まで扇風機を使っていたものの、このままいけば今週からは使わずにしまっても良さそう?

秋始まったタイミングで読み終わった2冊の本の感想です。


・ペンギンの憂鬱/アンドレイ・クルコフ

ウクライナの小説家アンドレイ・クルコフが書かれた『ペンギンの憂鬱』
登場人物は、文筆業をしている男、廃業した動物園から買ったペンギン、ある知り合いから預けられた小さな女の子、友人の姪、の3人+1羽。

この4人が擬似家族みたいな形で暮らすのですが、どこか漫画スパイファミリーにも似てもいました。
似ていたものは、その家族の形もありますが、国の情勢が不安定であり、いつ何かしら事件が起きてもおかしくない、そんな空気からも。

ウクライナがソ連から独立した直後になる1990年代の物語。
男の仕事もまだ生きている人の死亡記事を書く、という謎の仕事をしています。
それがなんの為なのかは分かりませんが、高めの収入を得ていたり、いっとき身を隠す必要があったりしたので、何か裏のある仕事なんだろうと匂わせます。
当時、ソ連としてはウクライナ独立に対して、プラスに捉えてなかったので、ソ連側に属する人の死亡記事を書いて、独立派に優位な状況を作る、とかそんなことなのか?と考えつつ読んでました。

そんな男の周りだけ見れば、どうしても暗めの話しになりそうですが、ペンギンと少女ソーニャが加わることで、中和され朗らかになります。
本の表紙に描かれているのが、ソーニャとペンギンです。ちなみにペンギンの名前はミーシャ。

なにかとペンギンのことを気にするソーニャ、何も言葉を発せずに2人で見つめ合ったり、車の後部座席で肩を寄せ合っていたり、大人たちが何かと忙しなくしている時でも、2人は常にマイペース。
その曖昧なバランスが、本書の非常でいいところです。

同著が書かれたノンフィクションで『侵略日記』があり、こちらも読んでみたい。
ロシアとウクライナの戦争が2022年に始まったことは、もちろん知っている事実ですが、詳しい状況などはWebで調べる以上のことはなかなか見えてこないですよね。
ウクライナの内側にいる著者が書かれた本となると、きっと自分が見えているものとは全く違った現実があるでしょう。


・本心/平野啓一郎


2040年が舞台で亡くなった母をバーチャルの世界で蘇らせる、というあらすじを知り「SFかな?面白そう」と手に取りましたが、とても文学的で自分なりに考える機会が多い小説でした。

本書は主人公の朔也の一人称視点で綴られていきます。
母子家庭で育った朔也は、急に亡くなった母に対して受け入れられず、バーチャルに蘇らせる選択をします。
母は無くなる前「もう十分だから…」と自由死(安楽死)をしたいと言っていましたが、朔也は受け入れられず反対。そんな中、母は自由死ではなく、事故で亡くなってしまうのですが、母の本心は?という点を中心に、朔也は葛藤しつつ悩みつつ、ページは進んでいきます。

一人称小説なので、他の人の本心は何も語られないのですが、そこがこの小説のタイトルにも繋がり、読んでいて考え巡るところでした。
例えば、母は本当に死にたかったのか?、実はそうではなかったのか?。死にたいとしても、その理由は何なのか?、十分との言葉は何が根っこなのか?、それらを昨夜と同じく考える。
自身が考えながらも、小説を読み進めると昨夜の考えを読めるところが面白さでした。
タイトルの『本心』がフックになるのか、本心とは?が常に並行して頭にあるのです。

朔也と母以外にも重要な登場人物がいて、それが三好とイフィ。
三好は年の離れた母の友人で、母が亡くなったことをきっかけに朔也と知り合います。家庭環境に問題が合った過去を持ち、あまり良い職にもつけず、やむを得ず貧しい生活をしています。
イフィはWeb上の有名人。バーチャル世界のアバターを作っている人で、そのアバターが大人気で富と名声を得たのですが、実際は19歳の下半身麻痺であり、車椅子生活をしている男性でした。

朔也を通して、ある大事なことをイフィが三好に伝えるシーンがあるのですが、そのシーンを読んでいて、イフィの本心を他人である朔也を通して三好に伝えるのはどうなんだろう?と疑問に感じました。
現実でもそういうことはありますが、このシーンの場合、直接話すのは朔也でありつつも、その声に朔也の意思はなく、その状態が本心とは真逆なのです。
私は男性ですが、何故かそのシーンでは三好側に立って読んでいた自分がいたので「え、それを朔也が言うの…?」というモヤモヤとした感覚がありました。
個人的に、本書の中でとても印象に残っているシーンです。

安楽死、自身または他人の本心、などの明確な回答がないテーマをどっしりと扱っていて、ただのエンタメでは味わえない読後感。
SF的なエンタメっぽさに惹かれて読みましたが、読んでみてよかったなと言える小説でした。




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