
色々翻訳版があるシャーロック、角川文庫版を選んで読む。
シャーロックホームズシリーズは、複数の翻訳版がありますが、パッと目についた角川文庫版を購入しました。さわりを読んだら、すんなり入ってくる文章だったのも大きい。
ミステリー小説はいくつも読んだことあるものの、シャーロックホームズは未読でした。それらをネタ元にしているだろう名探偵コナンを読んだり、ドラマのSHERLOCKは観ていたからか、シリーズの雰囲気だけは知ってる。なんとなく。
初見なのに初めてじゃない感があります。
シリーズは短編集が5冊と長編が4冊あります。角川文庫版では、短編と長編の順番が混ざってますが、素直にこの順番で読んでみる予定です。
Wikiで調べた刊行順は以下ですが、角川文庫版の順番は「シャーロック・ホームズの冒険」が1巻です。他の出版社も「冒険」1巻が多いようなので、何か意味があるのでしょう。
※角川文庫版の順番はタイトル右横の数字
・『緋色の研究』(1887年、長編)【3】
・『四つの署名』(1890年、長編)【4】
・『シャーロック・ホームズの冒険』(1892年、短編集) 【1】
・『シャーロック・ホームズの思い出』(1894年、短編集)【2】
・『バスカヴィル家の犬』(1901年、長編)【5】
・『シャーロック・ホームズの帰還』(1905年、短編集)【6】
・『恐怖の谷』(1914年、長編)【8】
・『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』(1917年、短編集)【7】
・『シャーロック・ホームズの事件簿』(1927年、短編集)【9】
ネットで調べれば、冒険が1巻になっている理由や、様々なシャーロックネタが見つかりそうですが、読み始めてしまった今、細かいことは気にせずに読み進めていこうと思います。
最初の2編になる「ボヘミア王のスキャンダル」と「赤毛連盟」を読み終えましたが、筋書きはシンプルではあるものの、やはり主役の二人に魅力があって面白い。
◆ 色々な翻訳版比べ
いくつかの翻訳版を比べてみました。文章は『シャーロック・ホームズの冒険』の最初の語りとホームズとワトスンの会話です。
・新潮文庫版 1953.04.02 翻訳:延原謙
シャーロック・ホームズは彼女のことをいつまでも「あの女」とだけいう。ほかの名で呼ぶのを、ついぞ聞いたことがない。彼の視野のなかでは、彼女が女性の全体を覆い隠しているから、女といえば、すぐに彼女を思いだすことになるのだ。
-----------------------------------------------------------------------------------
「君には結婚があっているんだ、と見える。このまえから見ると、七ポンド半は肥ったぜ」
「七ポンドさ」
「フーン、もうすこしよく考えてからいうのだった。ほんのちっとだけね。それで、また開業したらしいね。僕はそんな意向のあることなど聞かなかったぜ」
・光文社文庫版 2006.01.20 翻訳:日暮雅通
シャーロック・ホームズにとって、彼女はつねに「あの女性」である。ほかの呼びかたをすることは、めったにない。ホームズの目から見ると彼女は、ほかの女性全体もくすんでしまうほどの圧倒的存在なのだ。
-----------------------------------------------------------------------------------
「結婚生活はきみに合っているようだね、ワトスン。この前会ったときから、七ポンド半は太っただろう」
「七ポンドだよ」
「そうか、もう少し重いような気がするんだがな。もうほんのちょっと。それから、また開業医に戻ったらしいな。そうしたという話は聞いてないが」
「じゃあ、どうしてわかったんだい?」
・創元推理文庫版 2010.02.19 翻訳:深町眞理子
シャーロック・ホームズにとって、彼女はいつの場合も”あの女性”である。それ以外の呼びかたで、彼女のことを口にすることはめったにない。彼の目から見た彼女は、女性という性全体を圧倒し、ほかの女性すべての影を薄くさせてしまっているのである。
-----------------------------------------------------------------------------------
「結婚したのがきみにはよかったようだな」と言う。「ざっと見たところ、前に会ったときから、七ポンド半は肥っているだろう、ワトスン」
「七ポンドだよ」私は答えた。
「そうかな、もうすこし多いような気がするんだが、まあ、ほんのわずかだけどね、それに、また開業したようだな。医者の仕事にもどるつもりだとは、聞いた覚えがなかったが」
「だったら、どうしてわかったんだ?」
・角川文庫版 2010.02.25 翻訳:石田文子
シャーロック・ホームズにとって、彼女はいつも「あの女」だ。ぼくの知るかぎり、ほかの名で呼ぶことはめったにない。ホームズから見て、彼女はほかの女性すべてにまさり、その影を薄くさせる存在なのだ。
-----------------------------------------------------------------------------------
「結婚生活が性に合っているようだね、ワトスン。以前会ったときよりおそらく七・五ポンドは体重が増えているんじゃないか?」
「七ポンドだ」
「なるほど。もう少し多いかと思ったがな。きっともう少し多いよ。それに、また開業したんだね。もとの仕事にもどるとは聞いてなかったが」
「じゃあ、なぜわかったんだい?」
・河出文庫版 2014.03.06 翻訳:小林司/東山あかね
シャーロック・ホームズにとっては、彼女は、いつでも「あの女」だった。他の呼び方をすることは、ほとんどないと言ってもいいだろう。ホームズの目から見れば、すべての女性が光を失うほど彼女は輝かしい存在なのだ。
-----------------------------------------------------------------------------------
「君には、結婚生活が合っているようだね、ワトスン。しばらく会わなかったら、体重が七ポンド半(約三・七キロ)はふえたようだ」
「七ポンド(三・五キロ)だよ」とわたしは答えた。
「そうかね。もう少しふえていると思ったが、もっと重いように見えるよ、ワトスン。君はまた、開業医を始めたようだね。しごとに戻るつもりだとは、聞いてなかったが」
「どうして開業したとわかったのかな?」
翻訳版が出ているのは上記の五社のみではないと思いますが、これらは最初に書いた9編は翻訳されているようです。
新潮文庫版が圧倒的に古いですが、この表紙デザインは一番好きです。他の巻も同じ影絵で色や人物が異なったりしています。
どれが良いのかは個人の好みによりますが、改めて読み比べると、一番新しい河出文庫版がやはり現代にマッチして読みやすいかもしれませんね。河出文庫版は、翻訳者のまえがき/あとがき/解説が入っていますし、全話分の解説も入っているので、より詳しく読めそうです。ちなみに今読んでいる角川文庫版でもその時代の人物や出来事には注釈が入っています。
◆ シリーズ読了後に読みたい小説
・『シャーロック・ホームズの凱旋』森見登美彦
この本が刊行されたのは2024年の初めで、本屋で見かけるたびに気になる。森見さんの本は好きなものの、この本はきっとホームズの話を前提にしているだろうと敬遠していました。今思えば、この本があるのを知ってから、ちょっとシャーロックホームズシリーズを読んでみようかと思い始めた気もするので、パワーのある本だと思います。
・『シャーロック・ホームズ 絹の家』アンソニー・ホロヴィッツ
ホロヴィッツ作品はいくつか読んでいて、どれも面白かったので、まだ読んでない作品も読むつもりです。ただ、絹の家だけは題名にもシャーロックと入っていますし、元のシリーズを知っていないと面白さが染みないか?と懸念が。
そう考えていたので、シリーズを読み終えたら、ぜひ読んでみたい1冊です。