「精神疾患の親をもつ子どもたち」小学生の91.7%が相談経験なしと回答。それでも相談しやすかったおとなは担任の先生
厚生労働省と文部科学省は4月12日、家族の介護や世話を担う子ども「ヤングケアラー」に関する初の実態調査を公表しました。中学2年生の17人に1人にあたる5.7%が「世話している家族がいる」と回答。就学などと両立する子どもの負担は大きく、政府は支援策を検討するとしています。
障害や病気のある家族の世話をする18歳未満の子どもを指すヤングケアラーが、新聞、テレビなどで大きく取り上げられる中、本年1月に公表された大阪大学大学院医学系研究科の蔭山正子准教授、埼玉県立大学保健医療福祉学部看護学科の横山恵子教授、精神疾患の親をもつ子どもの会(こどもぴあ)メンバーによる研究グループがまとめた調査が注目されています(肩書は2021年1月時点)。
調査結果によると、精神疾患の親をもつ子どもたちは、家庭内でのおとなの喧嘩、極度の不安、心身の不調と、子ども自身への支援が必要であるにもかかわらず、小学生の91.7%が相談経験なしと回答。それでも相談しやすかったおとなは担任の先生であることから、小さなサインを見逃さず早期発見が必要 —というものです。
このような体験をもつ子どもの実態を把握した調査がほとんど存在しない現段階において、これからの学校での支援のあり方を検討するにあたり、基礎資料として活用できる貴重なデータといえます。
子どもが心身ともに健康的に成長するためには、精神疾患のある親だけでなく子どもへの支援も必要
わが国の精神障がい者数は、厚労省平成29年患者調査によると419万人を超え増加傾向にあり、その親に育てられる子どもが心身ともに健康的に成長するためには、親だけでなく子どもへの支援も必要とされるなか、精神疾患のある親をもつ人を対象に、小・中・高校時代の体験および学校での相談状況を調査した結果がこのほどまとまりました。
調査は、「こどもぴあ」(精神疾患のある親に育てられた子どもの立場の人と支援者で運営しているピアサポートグループ、2018年1月設立)の会に参加したことのある240人を対象に、小・中・高校時代の体験、学校での相談状況、子どものころに認識した教師の反応、学校以外での援助などをウェブ上のアンケート形式で質問し、20歳代から50歳以上まで120人から回答を得ました。
なお、今回の研究グループメンバー 横山恵子教授、蔭山正子准教授、こどもぴあでは、ペンコムより『静かなる変革者たち 精神障がいのある親に育てられ、成長して支援職に就いた子どもたちの語り』を出版。
「精神疾患の親をもつ子どもが抱える問題と必要な支援」「親、教師、支援者など周囲のおとなたちとの関係」などが、こども自身の体験談と座談会で赤裸々に語られるとともに、2人の研究者が分かりやすい考察を加えています。
おとなを信頼し相談するという経験に乏しく、相談できないケースが多い(蔭山准教授談)
調査を行った蔭山准教授は、「精神疾患のある親を持つ子どもは、支援が必要な状況にありながら、支援につながりにくい。そもそも、精神疾患に知識がなく、子ども自身が家庭の問題を理解できない。また、おとなを信頼し相談するという経験に乏しく、相談できないケースが多い。それでも相談した人の中では、担任の先生が多く、話を聞いてもらいたいと思っている。子ども自身が回答した『周囲が問題に気づけるサイン』として、親が授業参観や保護者会に来ない、いじめ、忘れ物が多い、遅刻欠席が多い、学業の停滞などがあり、教師は子どものことを気にかけ、これらの小さなサインを見逃さず早期発見し、子どもの話をよく聞いてほしい」と話しています。
相談しやすかった人は、すべての時期で担任の先生が最も多い(調査結果データより)
・ヤングケアラーとしての役割は、小・中・高校時代で親の情緒的ケアが最も多く57.8~61.5%が経験し、手伝い以上の家事は29.7~32.1%が経験していた。
・小学生の頃は62.4%がおとな同士の喧嘩を、51.4%が親からの攻撃を経験していた。周囲が問題に気づけると思うサインには、親が授業参観や保護者面談に来ない、いじめ、忘れ物が多い、遅刻欠席が多い、学業の停滞があった。しかし、サインは出していなかったとした人は小・中・高校時代で43.2~55.0%であった。
・回答者が認識した教師の反応では、精神疾患に関する偏見や差別的な言動、プライバシーへの配慮不足などで嫌な思いをしていた。家庭の事情や悩みを気にかけ、話を聞いて欲しかったという意見が多かった。
・学校への相談歴のなかった人は小学生の頃91.7%、中学生の頃84.5%、高校生の頃で78.6%だった。
・相談しなかった理由としては、問題に気づかない、発信することに抵抗がある、相談する準備性がない、相談環境が不十分というものがあった。
・相談しやすかった人は、すべての時期で担任の先生が最も多かった。
・30歳代以下の人は、40歳代以上の人に比べて小学生や高校生の頃に学校への相談歴がある人が有意に多かった。
学校・地域・福祉 支援者に求められるものは
・おとなだけで支援方針を決めるのではなく、子どもと一緒に考えていくことが重要
・子ども自身に自分の負担に気づいてもらうことや、支援を受けてもいいのだと分かってもらう働きかけが必要。話を聞いてもらうことを求める意見が多かったことから、おとなだけで支援方針を決めてしまうのではなく、子どもと一緒に考えていくことが重要。
・精神疾患に対する偏見やプライバシーへの配慮のなさを経験した子どももいることから、安心して相談することができるように、学校では子どもへの教育とあわせて、教師への研修も必要。
・教師は、精神疾患の基礎知識だけでなく、精神疾患のある親に育てられる子どもの生活や困りごと、対応方法について学ぶ必要がある。
・回答者は、親の病状悪化に伴い、親の情緒的ケアをしたり、暴言・暴力に遭遇するなどの体験をしていた。そのため、親の病状への支援が必要であると考えられ、訪問看護などの継続的な在宅ケアサービスの導入が有効。
・ヤングケアラーとして、料理・掃除などの家事を子どもが担っている場合は、障害者向けの家事援助サービスを導入することで子どものケアラー役割を軽減することが可能である。
・親の疾患や障害のサービスを導入する際には、学校が保健医療福祉の専門機関と連携する必要がある。地域では、支援が必要な子どもの早期発見から早期支援へと展開できるように、母子保健・児童福祉の関係機関と精神保健医療福祉の関係機関の連携体制を強化することが求められる。
今回の研究グループメンバー 横山恵子教授、蔭山正子准教授、こどもぴあによる本『静かなる変革者たち』
「子ども自身に自分の負担に気づいてもらうことや、支援を受けてもいいのだと分かってもらう働きかけが必要」。本書もその一環として出版
こどもぴあ代表の坂本拓さんは、「本書は、私を含めた4人の仲間と、私たちを支えてくれている先生お二人と一緒に書きました。体験を文字にすることの難しさや、執筆しながら体験を振り返るつらさもあり、決して気軽に書くことができたわけではありませんが、私たちが仲間と一緒に養ってきた力を発揮する貴重な機会でした。私たちの体験談が、誰かの背中をそっと押してあげられますようにと願っています」と話しています。
書籍データ
書名:静かなる変革者たち
精神に障がいのある親に育てられ、成長して支援職に就いた子どもたちの語り
著者:横山恵子、蔭山正子、こどもぴあ(坂本 拓、林あおい、山本あきこ、田村大幸)
発売:2019年11月8日/定価:1,400円(税別)/版型:四六判/頁数:226ページ/本文:1色/ISBN:978-4-295-40370-8/Cコード:0036/発行:株式会社ペンコム/発売:株式会社インプレス
出版社ペンコム
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