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『呪術廻戦』①悪役・夏油傑の優しき罪
※コミック23巻までのネタバレ含みます
呪術廻戦2期の放送が始まりました。
見どころはなんといっても五条悟と夏油傑の関係性。お互いが親友と自負しながらも殺し合うこととなってしまった二人の過去が明かされるわけですが。
私的にこの二人の関係が物語の中で一番胸打たれる部分でして。アニメ化をとても楽しみにしておりました。作品の人気キャラでもある二人ですが、私が特に注目してしまうのは、夏油傑。 私はこの夏油傑という男の人間的な部分にどうしたって感情移入してしまう。
正しいとされることへの疑念と葛藤
最強という立場と劣等感
彼には大きく分けて2つの相矛盾する葛藤があったのではないかと私は勝手に妄想想像している。
1.正しいとされていることへの疑問と葛藤
「弱きを助け、強気を挫く。呪術は非術師を守るためにある」
8巻で夏油自身が親友である五条悟にこう説くが、その後、このことを夏油は自分自身に言い聞かせ、また自問自答していくこととなる。
正しいとされていることに小さな違和感を抱えながら、真っ当に正しく生きようと誰よりも努めてきた彼は、自分の中の正しさと、自分の生きる世界の正しさとの乖離に悩み続ける。
そして、ついには非呪術師の抹殺という、一番極端な方法で自分の正義を貫くことを選んでしまうのだ。
私たちの生活の中でも、あたかも「こうするべきだ」と決められている正解のようなものが存在する。その中には理不尽なものも多い。
例えば、社会に出るとなんとも下らないルールに縛られることも少なくない。目上の人より先に退社してはいけないとか、先輩がやっている雑務は率先して代わらなくてはいけない、先輩からの誘いは断ってはいけないなどなど。
私は社会人になって1年目、そのような暗黙のルールに直面した。確かに、社会人の下っ端としてはいい教育、行き届いた作法といえるのかもしれない。運動部などにも似たような教えは存在する。
でもこれが本当に正しいことなのか?と疑問に思いながら日々を過ごした。
私はそんな中でも人に恵まれ、結果としてよい経験にもなったのだが、皆さまにおかれましては、何卒そんなルールのはびこる会社を引き当てないようにと祈るばかりだ。
こんなね、私のしょうもない疑問と葛藤なんかを夏油のそれと重ねるだなんておこがましいにも程があるのだが、パンピーの私はこの程度の小さな違和感を拡大解釈してキャラクターたちに少しでも寄り添いたいと思う。
まぁ、こんなふうにたくさん転がっている小さな違和感をそういうものだと飲み込んで、飲み込んで、みんなと同じように、普通に生きようと努める自分も私の中には確かにいる。
言わずもがな夏油の抱えた違和感、疑問はこの比ではないと思う。
弱きを助けることで、自分の大切な仲間が死んでいく。しかもその理由は弱きもの自身が生み出した厄災ときている。
非術師という呪霊を生み出す根本を断ち切ってしまえば、当然誰も傷つかないし仲間も死なない。
だからといって特定の種以外を虐殺するというのは正しいこととは言えない。頭でわかっていながらも、自分に嘘を付けなくなった夏油は、彼にとっての大義のために進むべき道を決めたのだろう。
そしてもう一つ、浅ましい私なんかとは違い、彼はいつの時点でも行動理由が自分のためでなく他者のためであったことには、必ず着目したい。
彼がまだ高専で術師として非術師を助けていたころ、その時ももちろん彼が使う術式は呪霊操術だった。呪いを取り込むことで、自分の支配下に置く能力だ。
しかし、彼にとって呪いを飲み込むという行為自体が苦痛をともなう不快なものであり、公式のプロフィールには苦手なものとして取り上げられている。
確かに術師は強きものであり、ヒエラルキーは一般人より上だという認識ではあった夏油だが、弱きを助けるため、自分の犠牲を厭わなかったのだ。
そんな一方で、彼は非術師を助けることで仲間が死んでいくことにも心を痛めていた。
天元様の星漿体であった天内理子も世界の均衡を守るため不自由を強いられ、呪力を持たないものに殺された。
また、理子の死を讃える呪力を持たない人間たちの信仰と称した醜悪さを目の当たりにしたことで、夏油の中で弱きを守ることへの疑問が大きくなる。
可愛がっていた後輩が殉職した時も、術師の双子が化け物と罵られ虐げられた時も、夏油自身に直接的な被害があったわけではない。
全て赤の他人に起こった出来事だ。
彼は他人のことを大切にすることができる心の優しい男なのだ。優しすぎたゆえに心が壊れてしまったのだろう。
いや、壊れたというよりは、術師という自分の大切なものを守り抜くために、その方法を選択する者がいない中、自らが犠牲となり名乗りをあげたのかもしれない。
2.最強という立場と劣等感
術式に恵まれ、五条悟と並ぶ特級術師であった夏油であるが、五条のように高貴な家系の生まれではなく、非術師の家庭から生まれた天才だった。
そんな彼のよき親友であった五条悟は1000年に2.3人しか生まれないというカリスマ的才能を持った超エリート最強術師であり、どんな術師をも凌駕するいわば規格外な存在となっていく。
これは私の全くの想像だが、夏油はどんどん最強へと上り詰める五条悟の隣に相棒として立つことで、劣等感に似た感情を抱いていたのではないだろうか。
五条に対して夏油が
「弱きを助け、強気を挫く。呪術は非術師を守るためにある」
と説いた時、五条は
「呪術に理由とか責任とか乗っけんのはさ、それこそ弱者がやることだろ」
と夏油の意見を一蹴する。
この後、二人の喧嘩が勃発しそうになるわけだが、夏油が最強である五条から、お前は弱者だといわれたと受け取っていたとしても何ら不思議ではない。
その後も、夏油が呪詛師となり、高専を追放された後の新宿での2人の決別シーンでも、夏油は五条に対して
非呪術師の抹殺は、五条悟になら容易に可能だが、自分にはできるかどうかわからない。それでも生き方は決めたから自分にできることを精一杯やる。
というような少し皮肉めいた話をする。
誰もが人生において、学校や社会に出てから度々絶対に超えられない存在というものに直面してきたと思う。
自分もそこそこできると自負していても、それ以上の才能を持つ人っていうのは必ず現れる。この人には能力で劣っている、努力でひっくり返せるものではない。
そういった存在と出会うと、どうしようもなく自分が無力に感じることがある。その相手が親友であったならなおのことだ。
私にも、何を挑戦する時にも超えられない存在が常にいた。
例えば小学校の頃のかけっこでも、絶対に追い抜くことができない学年1足の速い子はいたし、弁論の大会に出場した時も県大会の次には全国大会があった。
上には上がいるのは世の常だ。これもまた、そんな命をかけて戦っている彼らに対してかけっこかよって話だが、当時の私にとっては重大事である。
もしかしたら夏油もあの時の私のように、ドロドロとした感情や自分の無力さに苛まれるそんな感情があったのではないかと思えてならない。
でも、私にはそんな誰よりも人間らしく、心優しい夏油はとても魅力的に見えるし、呪術廻戦0は涙なく見ることができない。
もうなんなら、2期のOPとEDは歌詞も映像も苦しゅうて仕方がない。
まるでOPは五条の気持ちを、EDは夏油の気持ちを歌にしてるように聴こえるからだ。
「僕の善意が壊れてゆく前に 君に全部告げるべきだった」
この歌詞は、二人で最強だった頃から少しずつ五条が一人で最強となっていき、二人そろって任務に出ることがなくなっていた頃、
自分の憂いについて親友である五条に打ち明けていればこうはならなかったのかもしれないという夏油の心の声とも受け取れる。
もっというとオープニングでは
「きみの笑顔の奥の憂いを見落としたこと、悔やみ尽くして」
とあるが、これはもうあの時(君に全部告げるべきだったと夏油が振り返っている時期)に夏油の苦しみを見落としてしまったことを悔やんでいる五条の心の声としか聞こえなくて・・・
お前ら・・・仲良しやったんやな。本当に。本当に。
涙が止まらない。こんなところで私たちにしかわからない形ですれ違いの答え合わせされたらこちとら心がもたない。
この二人の場合はそれでも親友であり続けたのだろうが、溝が埋まり、再び隣を歩くことは叶わなかった。
友人や恋人、家族など、敬愛する他者との“すれ違い”は、誰もが一度は経験する最大の悲劇であるといえるだろう。
私はジャンプ本誌を読んでいないので、今本編がどのような状態なのかわからないため見当違いなことを言っているかもしれないが、
羂索と五条の戦いの最後には夏油が意識を取り戻して共闘のような形の相討ちになってほしいなと。思ったり思わなかったり。
夏油の苦しいポイントを語るにはまだまだ字数が足りていないのだが、このままではいつまでも終われないので、ひとまずジャンプを半年ほど遡って23巻の続きから読んでこようと思う。
懐玉・玉折編も残すところあと3話、心してみたい。