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モツのスープからの学びとキャシーアッカー

中途半端な悩みを吹き飛ばすパンクな本を知りたいかたへ。

これは、絵描きで52歳のおばさんで書店主のわたしが、
ダイエットを続ける日々の中体験した少し不気味な出来事と、
中途半端な悩みなど吹き飛ばしてしまうパンクな本の紹介です。

ダイエットに良いと聞いて毎日牛肉のスープを飲んでいるのですが、その味にも飽きてきました。そんなわたしの目にとまったのは、お肉屋さんの隅につつましく置かれてあったパックになった牛のモツです。
これなら牛のスープを飲むことを継続しながらも目先を変えることができるし、更に牛肉そのものよりもヘルシーに違いありません。
わたしは早速それを買いこみ、ますますダイエットがはかどってしまうな、と胸を踊らせながらパックの中身をそのまま鍋にあけて水道水を足して加熱し、そのまま常温で冷ましながら眠りにつきました。
翌朝見ると大量の油が固まって浮いていたので水洗いし、食べやすい大きさに刻んで生姜をたっぷり入れて再び加熱。お昼に食べるために保温ジャーに注ぎました。
味見をしなかったのは、これさえ入れれば間違いないことで有名というかわたしがそう信じている、キューブになったコンソメを投入したからです。

わたしは自身の書店ペレカスブックを営んでおり、営業時間中は店番をしつつ制作作業などをしています。
その日はお客さんが立て込んだためお昼を食べるのが夕方になり、楽しみにしていた牛モツのスープはあまり性能の良くない保温ジャーの中で生ぬるくなっていましたが、仕方のないことです。
お腹を空かせたわたしは前のめり気味に、千切り生姜と油の浮かぶ透明なスープの中からひとかけらの肉をすくいあげると、口へと運びました。

さて、モツと発音することは短くて簡単ですが、その意味する内容は非常に複雑です。
ミノとかハツとかハチノスとか小腸とか、牛の体の中のそれはそれは様々な部分を総称した実に玉虫色な単語なわけで、
「今日のお昼は牛モツのスープだ」
なんて単純に考えていたわたしは、その混在についての考察には至っていませんでした。
(いや、本当は朝様々な形に煮あがっている肉を切り分けているときに感じていたけれど気づいていないふりをしていた)
最初にわたしの口内にやってきたのは肉でもなく骨でもないようなものでした。薄味のコンソメが、コリコリと歯触りに主張するそいつの個性を全く打ち消していません。

しかも、そいつがテッポウなのかノドスジなのかもわからないのが不気味。正体がわからないことがこんなにも人を混乱させるとは、50年以上も生きていて初めての強い実感でした。
よく、
「とれたてを漁師さんが沖でシメたプリプリ食感がたまらない海老と、雪の下で栄養を蓄えたホクホクのニンニクが丸ごと入った、希少なエキストラバージンオリーブオイルで仕上げたアヒージョです」
とか書いてあるのを見ると、まるで可愛い女の子が自分がどんなに可愛いか説明しているようで少々うざったく思っていたのですが、あれはとても重要なのですね。正体を明らかにして、こちらにプリプリやホクホクへの準備をさせてくれているわけです。
「僕は牛のアキレスだよ。硬くてコリコリしていて飲み込みにくいけど、コラーゲンたっぷりでとっても体にいいんだ!」
と、前もってそいつが言ってくれれば、少しは違った気分になったのかもしれません。

気を取り直し次のかけらを口に入れましたが、それはとても柔らかいくせに噛んでも噛んでも千切れないという不思議なもので、わたしは口内で小さくするのを諦め丸のまま飲み込みました。
食道を押し広げながら落下していくそいつを感じながら、このスープを表現する名称にわたしはようやくたどり着き、小さく呟きました。
「これはゾンビの食べているアレだな(新鮮ではないバージョン)」
ゾンビではないわたしの目にはスープジャーの上に無限大を示す∞マークが光り輝いているのが見えました。たかがスープジャー1杯、いくら少量のものであっても立ち向かえない以上、そこには永遠がありました。

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さて、本日の本の紹介はモツつながりで、キャシー・アッカーの『血みどろ臓物ハイスクール』です。
良識ある大人なら眉をひそめずにはいられない挑戦的な内容ですが、波長を合わせれば文字列を追うあなたの眼球はダイヤモンドと化し脳内に天上の花が咲き乱れ、不滅の翼でアンダーグラウンドの生臭くも美しい世界に旅に出ることができます。言葉が世界を切り裂く奇跡を見せてくれる、高貴な本。
基本的に絵本店であるペレカスブックでは、タイトルに驚かれるかもしれないので店頭には並べていません。レジにてお声掛けください。

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