児童書『ながいながいペンギンの話』/感想
ペンギンの兄弟ルルとキキが、
氷と海が広がる南極を舞台に冒険をして、
さまざまな生き物たちに襲われたり、
助けられたり、助けたりしながら、
たくましく成長する物語。
小学校中学年から。
南極の景色が美しかった・・・。
太陽が沈まない夏の夜の海は
とても幻想的です。
白いもやにつつまれた、うみのむこうには、
お日さまが、ぼんやりと、
ぎんいろにひかっています。
そして、うみにういている
こおりの島のまわりには、
なんだか、ももいろにひかるなみが、
ちらちらと、ふしぎにゆれています。
お次は夕暮れの景色。
お日さまが、ことしさいごの
バラいろのひかりを、うみの上に、
ぱあっとてらしていました。
うみの上の、すきとおったこおりのうき島は、
ほんのりときんいろに、そまっていました。
うみとそらとのさかいには、
バラいろのゆうやけ雲がしずかに、
たなびいていました。
こうした美しい南極の景色に彩られながら、
ペンギンのルルは冒険をして、
たくましく成長していきます。
第一話。
ルルは一人で冒険に出かけ、
トウゾクカモメから逃げたり、
おそろしいと聞かされていた人間に
会ったりしながらも、
無事に島に帰還します。
ルルには自信が漲り、
なんだか、じぶんがもう、
キキのおとうさんにでも、
なったようなきもち
になっています。
第二話。
ルルは、怖がるキキを励ましたり、
シャチを引きつけてクジラの子どもガイを
逃がしたり、体の弱いペンギンたちを
守るために皇帝ペンギンの王様に
反抗したりします。
勇気と決断力を備えたルルは、
一段と頼もしくなりました。
第三話。
ルルのこれまでの自信が慢心となり、
ペンギンの先生に怪我をさせてしまいます。
ルルはこの経験を省みて、
島のみんなと生きていくという責任感や、
大人のペンギンになるという
自覚をもち始めます。
子どもたちは、ルルの冒険や成長に
心を弾ませながら読み進めていくんだろうな。
そして、最も心を打たれたのは、
人間のセイさんの温かさでした。
セイさんは、母のように温かいです。
ルルの顔からつららをはがしてくれたり、
体をごしごしと雪でこすってくれたり、
震えるルルを、胸ポケットの中に
入れてくれたりします。
そしてルルは、
ポケットのなかは、あたたかくて、
おかあさんのそばにいるような
気がすると言います。
しかも、セイさんは
ただ優しいだけではありません。
自分を律して、ルルのことを
本当の意味で想うことができる人です。
かえんな。ぼうや。
真面目な顔で言うセイさんは、
心底かっこいいと思いました。
ルルはそれを見て
「かえらなければいけない」と感じます。
大人はときに、大事なことを真剣に
子どもに伝えなければなりません。
後にルルは、遠くにいるセイさんの存在を
なんだか、とおくへいったときの、
うちのようなもの
と表現しています。
セイさんは、「母」のように
「うち」のように温かく、
それでいて厳しい存在でした。
彼との出会いがあったからこそ、ルルは、
もうすこし大きくなったら、
ぼくまた、ひとりで、出かけるんだよ。
と思えたのだと思います。
僕はこの本を、皇帝ペンギンの動画を見たり、
アデリーペンギンの写真を見たりして、
寄り道しながら読みました。
皇帝ペンギンは、大人になると
本当に背が高かったし、
首を縦にぶるんぶるん振ったりする姿が
とてもかわいかったです。
それに、群れで生活しているということや、
赤ちゃんはグレーの毛皮みたいなものに
体が覆われているということもわかりました。
本を読んで知らないことに出会ったとき、
なんでも想像してみるのも面白いけど、
ちょっと寄り道して調べてみるのも、
心に浮かぶ景色がクリアになって
いいなと思いました。
『ながいながいペンギンの話』
いぬいとみこ作、大友康夫絵
岩波書店、2000年
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