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長編/pekomogu/紫陽花と太陽 下

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創作長編小説の三部作(上中下)の下巻。note用に各話を分割して公開します。誰かを大切に想う時、人はより強くなれるのだと信じています。「優しい」物語高校編、ついに完結。遼介とあず…
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リュウヘイ『遼介くん、卒業おめでとう! そしてちょっと遅れたけど結婚も😊』pekomoguさん作『紫陽花と太陽』を読了した記念に再びイラストを生成。遼介くんの眉が上手くいきませんでしたが、ファンアートなのでご容赦下さいませ😅

【紫陽花と太陽・下】第0話 翠我遼介というひと

【紫陽花と太陽・下】第0話 翠我遼介というひと (文字数 約5,500字 読了目安 約14分)  茜色した柔らかく細い雲が浮かぶ、西の空。  コツコツコツと規則正しい靴音。  ローファーの靴音は二人。私と、友達の。  西日の眩しさに目を細め、いつもの街並みをいつものように帰る。  見えてきた。私の住んでいる家が。 「日向、もう、ここで大丈夫だ」 「ん? そう? 玄関まで送り届けるけど?」 「……いつも、本当にすまない。でももう家はもうすぐだ。日向もあまり遅くなると……」

【紫陽花と太陽・下】プロローグ 写真

 ある日、椿がトランプをしたいと言い出した。  カードゲームができるようになったのだ。どんな些細な椿の成長にも、兄の僕は感動してしまう。母が亡くなってから椿の世話は僕の担当になっていた。保育園の送迎、食事の支度、遊び相手(ものすごくからんでくるので疲れるのだが)なんでもやっていた。  その椿も今年は小学二年生になる。  ランドセルの黄色いカバーは一年生だけ使用するものなので、外してみると真新しいランドセルの表面が現れた。  ゲームは「七五三」だった。  僕や剛がよくやっ

【紫陽花と太陽・下】第一話 学校祭[1/2]

「学校祭?」  朝、椿の食べこぼしたシャツの着替えを手伝いながら、僕はあずささんに聞き直した。 「そう、七月の中旬の連休前に、私の高校でやるのだ」 「へぇ」 「……もし、気が向いたら、来ることもできるから」  イッパンカイホウの日があるから、という難しそうな言葉を残して、あずささんが顔を赤くしてそそくさと通学の準備をしに二階へ上がっていった。  学校祭かぁ。高校の。  僕は汚れたシャツをまるめて、下洗いをするために洗面所に向かった。  高校を中退した僕にとっては人生でも

【紫陽花と太陽・下】第一話 学校祭[2/2]

前のお話はこちら  学祭二日目。当日は晴天だった。  一日目は学生だけの日、翌日が一般開放でいろんな人が来る。  私と日向が花壇の縁に座って足をプラプラさせながら、あずさが少しソワソワしながら、みんなRくんを待っていた。  待ち合わせ時間からすでに二十分ほど遅れている。 「遅刻はダメだろ」 「まぁまぁ」  今日のあずさは髪をポニーテールにしてお花の髪留めを付けていた。紫陽花かな?  おそろいのピンクのクラスTシャツに、学校指定のスカート。  昨日も誰かあずさに「学祭、一

【紫陽花と太陽・下】第二話 Ryo's kitchen

前のお話はこちら 「これ、知ってる?」  ずい、と剛がスマホの画面を僕に見せてきた。どれどれと中を見てみると、動画サイトが表示されていた。 (コージのバ……バズ……、なんだこれ?) 「バズレシピ」  バズってのはー……と、流行りの単語に疎い僕に解説してくれた。幼馴染で同い年の剛。言葉こそキツめだけれど、とても優しい、僕の大切な親友。 「知らない、けど。ふぅん、最近は料理の作っているところを動画にしたものってのがあるんだねぇ」 「そうな。おまえ、好きそうかなって」 「うん

【紫陽花と太陽・下】第三話 姉弟[1/2]

前のお話はこちら  欲望のままに惰眠を貪り、ようやく眠りから覚めてきた。私は大きなあくびを噛み殺しながらリビングにのそのそと顔を出した。もう一度あくびが出た。  そこでダイニングテーブルでスマホを手にしていた弟とバッチリ目が合った。 「何かツッコミ入れたほうがいい?」 「ツッコミ?」 「その大口に、チョコレートでも放り投げようか?」  弟はマグカップの隣にあったマーブルチョコを見せてきた。 「あんたが投げて、入るわけないじゃない」 「それもそうだ」  目線を下げ、弟は

【紫陽花と太陽・下】第三話 姉弟[2/2]

前のお話はこちら  珈琲を飲みながら、今日はやけに姉からの視線を感じる、と僕は思った。 「学校を辞めてもっと仕事をしたい」と公言した時に、姉とは言い合いになった。僕の人生の中でも一番激しい言い合いだったと思う。  ケンカは嫌いだ。できることならケンカからは逃げ出したいし、勝ち負けにこだわる性格ではないのも自覚があったから、言い合いなどとは無縁の生活をしていた。学校でも、面倒な係でも別にやって構わなかったし、それで場が収まるなら喜んで引き受けた。そうやってのらりくらり生き

【紫陽花と太陽・下】第四話 修学旅行1

前のお話はこちら 「……んっ……」  静かな夜に、あずささんの声が小さく漏れ出た。  お付き合いし始めてからの日課で夜におやすみなさいのキスをしている。初めはものすごく緊張して毎度崖から飛び降りるくらいの心構えでしていた日課が、今ではだいぶ慣れてきたかと思う。 「おやすみ……あずささん」 「……おやすみ、遼介」  囁くのは、隣の部屋で起きているかもしれない椿に聞こえないようにするためだ。小学二年生とはいえ、同じクラスに付き合っている(!)男女がいると言っていた僕の幼い

【紫陽花と太陽・下】第四話 修学旅行2

前のお話はこちら 「修学旅行は、やはり京都になった」 「そうかぁ、懐かしいなぁ。僕が一人旅した時も京都だったな」 「そこで縁田さんと会えたんだものな」 「うん」 「もう一つの旅行先は沖縄だったのだが、飛行機を使うということで辞退した。京都へは陸路で行ける。飛行機より電車のほうがまだ安心できる」  あずささんはそう言って、僕にすり寄ってきた。  まるで猫みたい。  家族の前では今までと同じように僕と接するのだけど、部屋に戻って二人きりになるととたんに猫になる。僕の服のはしを

【雑感】飲食店の接客で大事にしたいこと

こんにちは、はじめましての方もいますね。 僕、翠我遼介と申します。 とある喫茶店でホールスタッフとして働かせていただいております。 店長の知り合い?のPさんからの気まぐれな一言があり、飲食店の接客で大事にしていることを今回紹介してみてほしいと頼まれました。 僕としては主任という立場もあって、後輩のアルバイトも雇い始めていますので、彼らに伝えたいことを自分の中でまとめるという意味でも、考えてみたいなと思っております。 ご興味がない方は遠慮なくページを閉じていただいて大丈夫で

【紫陽花と太陽・下】第五話 修学旅行3

前のお話はこちら  車窓から見える景色はどこも秋一色だった。僕の住んでいる小さな街を出てすぐは家々と大小さまざまな建物が連なり、秋めいたものは見えなかったが、だんだんと木々が多くなってイチョウやら紅葉やらの葉の色が目に飛び込んでくるようになった。  僕は普段あまりお出かけというものをしないので、久々の遠出に胸がドキドキした。子供のように窓の外をずっと見ていたら、 「遼くん、もうずーっと景色ばっかり見てるな。なんだか子供みたいだね」  と縁田さんに言われてしまった。少し

【紫陽花と太陽・下】第五話 修学旅行4

前のお話はこちら  宴会場で、旅行先を京都に選んだ二年生の生徒たちがひしめくように座って食事をとろうとしていた。大人数での食事もまた、私にとっては慣れないことで不安をかき立てる。  目の前の盆には京都だからか和食が整然と並べられていた。  今日の献立は、白飯、豚しゃぶ盛り合わせ、紫蘇巻き白身魚フライ、茶碗蒸し、お吸い物、漬物、水菓子とものすごく豪華だ。ちらりと白飯の入っている蓋付き飯碗を覗くとかなりの量だった。  遼介なら食べても食べてもお腹が空くと普段言っているくらい

【紫陽花と太陽・下】第五話 修学旅行5

前のお話はこちら  最終日、宿泊先の旅館で最後の朝飯を食べ、荷物をまとめて帰路につく。途中、京都の集合場所兼自由行動のスタート地点にて生徒らはバスから降り、各グループごとに散開していく。 「全員いるか? ……一応な」  俺はグループのリーダーになっている。中学も高校も、リーダーばかりやらされている。こんな口悪いリーダーで果たしていいのだろうか。要点は抑えているつもりなので、教師たちは何も言わない。まぁ、履歴書とか自己PRに実績を書けるなら、無駄ではないのかもしれない。