S660狂想曲
令和3年3月11日、外出から帰るとS660オーナーのKさんから折り返いの連絡が欲しいと言う伝言メモがあった。点検の時期でもないし、何かあったのかな?と思いつつ電話をすると「S660が生産終了になるんだって?」と驚きの言葉が発せられた。もちろん販売店にはこのような事実はメーカーから案内が無いので、「私たちのところにメーカーからそのような案内はないですが、どこで知ったのですか?」と聞くと、ネットにそのような情報が出ているとのことだった。まあ、いつものネットの信ぴょう性の無い情報だろうと、いつもは思うのだが、この時はそうは思えなかった。と言うのも、この少し前にアクティトラックの生産計画が無くなりメーカー在庫が終了した時点で販売が打ち切られることになり、同じ八千代工業で生産するS660も早晩生産を終了するだろうと勝手に思っていたからだった。
なぜボクがそのように思っていたかと言うと、ご存知の方も多いと思うが、いっけん共通性の無い商用トラックのアクティトラックとスポーツカーのS660であるが、両車ともミッドシップレイアウトと言うクルマとしては重要なエンジンレイアウトに共通点があり、アクティトラックを畑のフェラーリなんて呼ぶ人もいるくらい以外に運転するとFUNなクルマだったりする。そして、エンジンがキャビンの後ろにあることにより、キャブオーバーの軽トラックよりも静かで、夏場にお尻が熱くなることもない軽トラックとしては優れたところが沢山あるのだが、どうしてもコスト的にライバルにはかなわないので生産終了となってしまった。そしてS660もどう考えても利益ベースには乗らない車と言うことは明白であった。発売当初でこそ納車待ちが1年ということもあったが、それは余りにも数が作れないと言う事情があったからで、ボクが当時聞いていたのは、頑張って生産しても一日に27台しか作れないとのことだった、それもそのはずで生産工程の60%が手作りとのことだった。このような理由から早晩生産しなくなるだろうと思っていたからだった。そしてかつてホンダの軽自動車の生産を一手に引き受けていた八千代工業で生産されているクルマはいよいよS660だけになっていたからだった。
Kさんからは、どうもバージョンZと言う限定車が出るらしいので、生産終了の話しがあったら教えて欲しいと言うことだった。もちろんそういう話しがあればすぐにお知らせします、と言うことでこの日の電話は終わり、この翌日に本当にメーカーから2022年3月末をもってS660の生産を終了しますと言うことと、いままでのご愛顧に応えてモデューロXのバージョンZを発売しますと言う案内が唐突にあった。こういう事があるといつも思うのだが、公式発表より前にネットにこういう情報が流れるのか?と言う疑問である。いろいろと考えられることはあると思うが、ネット情報の速さと正確性を計るのはつくづく難しいと思う。
そして約束通りKさんへ連絡をすると、一度話しをしに行くとのことで、後日来店頂き話をした。モデューロX・バージョンZの見積もりを作成し納期を確認すると、納車が9月くらいの予定だったのでこれを伝えると、出来る限り2022年の3月にちかい納期にしたいので、そういう納期になったら知らせて欲しいということだったが、昨日時点での納期が7月だったので、それは予測が難しいことと、万が一オーダー停止になって購入いただけないリスクがありますよ、と話すと、では発注して行きますとのことで契約を頂いた。
この日から3日後にはバージョンZはオーダー停止になり、ノーマルモデルのみオーダー可能であったが、それも1週間ほどで完売し、メーカーの生産終了案内からおおよそ2週間ほどですべて完売となってしまった。
メーカーの生産終了発表以降、連日電話での問い合わせや試乗申し込みは多かった。特に試乗してから決めたいと言う要望も多かったらしくボクの会社のレンタカー部門のS660のレンタカーは各拠点の試乗申し込みで4月初旬まですぐに埋まってしまったほどだったが、4月に試乗をしてからの検討では、すでに完売状態だったので、購入機会を逃した方も沢山いらしたと思う、それは4月に入ってからも何とか購入できないか?と言う問い合わせが多く寄せられたからだ。いろいろと事情はあると思うが、シビックTYPEーRの時もそうであったように、欲しければ即断即決ができる決断力がないと、このような時には購入機会を逃してしまうので、やはり決断力は大切だなと思う。
輸入車のスーパースポーツやスポーツモデルで例外はあるが、国産のスポーツカーやスポーツモデルは発売当初に受注が沢山入り、その後、需要が一巡すると売れなくなる傾向がある、ご多分に漏れずにS660もそうであったが、やはり無くなるとわかると欲しくなるのも人情であるし、電動化の波が自動車には押し寄せていることを考えると、今後S660のような軽自動車でミッドシップレイアウトのオープンスポーツが発売される可能性は極めて低いことは誰の目にも明白なので、異常なほど早いペースで完売してしまったのだと思う。そして昨今の旧車の価格高騰を見ていると、投機目的で保有しようと思う人も中にはいると思うし、現にシビックTYPE-Rのリミテッドエディションはこの記事を書いている時点で、車両価格の2倍以上の1000万円はくだらない価格でオークションで落札されていることが証明していると思う。
2021年5月時点では数は少ないが、中古のタマはまだあるけど(マニュアルは壊滅的にほぼ無い)早晩無くなるのだろうな?と思う。
つくづく、失って初めて気づくものはいろいろあるけど、クルマもその一つだと思います。そんなボクも今から25年前に妻に借金をして思い切って購入したもの(クルマではないですが)が15倍もの値段になっています。そんなこともあるので、どうか先延ばしにせずに欲しい時に欲しいものを買ってください。そして長年保有して気が付いたら価格が高騰していた、と言う保有の仕方が一番素敵だと思いますよ。
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