普通で特別ないちごジャム
マンガや小説を読むと、自分も主人公たちと同じことができるような気がしてくるのはなぜなんだろう。読んだからといってできるようになっているはずがないのに、つい手を出してしまう。
中学で陸上部を選び種目を高跳びにしたのは、少し前に読んだ進研ゼミの勧誘マンガの主人公が高跳びをしていたのに憧れたのがきっかけだったし、陸上部を選ぶ前にソフトボール部に入りかけたのも、『バッテリー』という中学生の野球少年たちについて書かれた小説にハマっていて、彼らの活躍を読み進めるうちに野球ができる気がしてきたからだった。(体験入部のウォーミングアップ中にデッドボールをくらって、心が折れて辞めた)
▼バッテリー (角川文庫) あさの あつこ
なんて短絡的に行動していたんだろうと思うけど、些細なことも影響を受けるので、小さなことで特別感を味わうこともできていたように思う。
そのひとつが、トーストにいちごジャムを塗ることだ。
これも『バッテリー』の影響だった。
主人公でピッチャーの原田巧が相方の永倉豪の家に泊まりにいったときにトーストにいちごジャムを塗っていたのに驚いたことがきっかけだった。
巧はクールな性格で、あまり他人と深く関わろうとせず興味があるのは野球だけといった人物だった。当時の私には「クールな性格の人は好みもシンプルである」という思い込みがあり、トーストはそのまま食べるかバターを塗るかのどちらかだろう、と予想していた。だから、甘いいちごジャムを選んだことに驚いてしまったのだった。
バッテリーを読んでから、トーストは絶対バター派だったのに真似していちごジャムを塗るようになった。巧と同じ体験をしてみたかったからだ。いちごジャムトーストは、普通に美味しかった。予想通りの味でまあそりゃ美味しいよね、と感じた。
『バッテリー』の印象はしだいに薄れていくものだと思ったが、今でもトーストにいちごジャムを塗ろうとすると、巧がいちごジャムトーストを食べながら熱々のミルクティーを飲んでいる情景が浮かぶ。
『バッテリー』の名シーンはもっと他のシーンがあるはずなのに、私が一番思い出すのはいちごジャムトーストののシーンばかりだ。
変わらずいちごジャムトーストは「普通に」美味しい。一方で、私には食べるたびにバッテリーの情景が浮かぶ特典がついている。
だからいちごジャムトーストは、私にとっては普通であり特別なものだ。
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二週間に一本って書いたけど、さっそく過ぎてしまった。
のんびり更新します~。
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