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眼鏡を作れと言えなくて

2024.08.29
ぺぎんの日記#146
「眼鏡を作れと言えなくて」


この感情に名前をつけたくは無いので誤魔化すのだが、恋をしているのか、興味があるのか、好きなのか、友だちとして好きなのか、話していると楽しいのか、尊敬しているのか…。とにかく、他の人とは違う、特別にポジティブな印象を私が持っている人の話。以降「その人」と呼称する。

その人は目が悪い。ちょうど私と同じくらい悪い。

私も特段悪いってわけじゃなくて、眼鏡なしでバレーボールをできるくらいはまだ視力を維持しているのだが、やはり日常生活を送るうえでこの視力は不便。ただその人は、以前私の眼鏡をかけさせたときに「ちょうどよく見える」と言っていたので、その不便な状態で生活をしていることになる。

正直、さっさと眼鏡作れよって思う。

聞いてみると「作ろうかとは思ってるんだけどさ〜」と、曖昧な回答。金銭問題はなく、不安もなく、ただ面倒くさいといった感じ。ここで普段の私なら「つべこべ言わずさっさと眼鏡作ってこい」って言うと思う。見えるってことの幸せも、見えないってことのもどかしさも知っているから。

でもどうも、「眼鏡作りなよ」という明確な言葉が出てこない。怖いのだ。

見えるようになってしまったら、私の嫌なところが見えてしまわないだろうか。綺麗なわけじゃない肌や、おでこの傷。今その人の目にかかっているナチュラル加工が、眼鏡によって外れてしまったら。この距離で会話できなくなるかも知れない。ハッキリ見えてしまったら、どちらかというとシャイなその人は、私の目を見て会話してくれなくなるかも知れない。

それに、今まで見えていなかった他の人の良さに気付いてしまうかも知れない。遠巻きに見て、何となくしか分からなかった人に、美しさを感じてしまうかも知れない。

その人の世界が広がってしまわないように、その人が私に失望しないように、どこかで、盲目であって欲しいと願ってしまう。

今日、いつも通り私の斜め前の席には、目を細めて黒板の文字を読み解こうとするその人がいた。

今日も「眼鏡作れよ」という言葉は出てくることなく、その人を眺めながら、その人が眼鏡を買わなくていい理由を探そうとしていた。

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