強打
2024.08.25
ぺぎんの日記#142
「強打」
頭を強く打った。
友だちの誕プレを渡すために、小さめの紙袋が必要だった。私の家の、ハリー・ポッターが住んでいたような階段下のスペースに、いつも紙袋を保管してあるので、そこに頭を突っ込む。
大きな紙袋の中に、折りたたまれた紙袋がたくさん入っている。大きさごとに整理しているわけではないので、ちょうどいい大きさとデザインの紙袋を見つけるのに苦労する。引っ張り出しては「なんか違うな…」と、袋に戻す。
そんなことを繰り返しているうちに、ちょうどいい感じの袋を見つけた。大きさはちょうど狙ってた大きさ。階段下スペースの薄暗さの中ではあるが、可愛らしい猫が印刷されているのが見える。
お、これいいんじゃね?
そう思って、その猫の紙袋を持ったまま階段下のスペースから廊下に出ようとする。身体が出切る前に上半身を上げたのがまずかった。
ガン!痛ったぁ!
階段下のスペースの入口が、私の身長より小さいので、出てくるときに頭の後ろを思いっきりぶつけた。
頭皮がジンジンと痛む。
くぅうう…と痛みに耐えながらソワソワと動き回っていると、段々そのジンジンした痛みが引いてきて、今度は脳の内側から来るどんよりとした痛みに変わってきた。
え、これ、ヤバいんじゃね…。
思えば私は、中学生くらいから頭を強くぶつけた経験が無い。頭をぶつけるとどういう痛みを感じるのか、もうすっかり忘れてしまっていたのだ。
だからこのちょっとした痛みの変化から、結構本気で心配になった。
記憶、どっか飛んだんじゃね…?
この夏休み、猛勉強した分の記憶がすっかり消えてしまったかも知れない。そう想像すると、全身の血の気がスーッと引いてきた。
と、このとき、たしか脳には部位ごとに違う働きがあったはずだと思い出す。私がぶつけた部位が、本当にヤバい場所なのか、確かめないと安心できない。
スマホを取り出す。
「脳 部位 機能」
頼むgoogle先生、教えてくれ!
すぐに検索結果が表示される。これは非常に重要な問題なので、トップに表示されている生成AIは信じない。
いくつかのサイトを回ってみて、ようやく一安心する。
どうやら私がぶつけたのは「頭頂葉」という部位らしい。五感の情報を処理・解釈する部位らしく、記憶や思考とはあまり深い関わりを持たないそうだ。
あぁ良かった…。
安心すると同時に、ひとつ、気がついたことがあった。
私は肉体より脳の方を大事にしていたんだ。
私は以前、友人から「ぺぎんは捨て身すぎ」と言われたことがある。
確かに私の身体には、体育のバレーでスライディングしたときの足の傷や、藪を漕いだときにできた腕の切り傷、カミソリの一枚刃にチャレンジしたときのおでこの傷、ジャングルジムから落ちたときの脇腹のアザなど、他の人と比べて変な傷がたくさんある。
でもそれを「捨て身」だと思ったことは一度もなかった。身体が多少傷ついたって、それで得られる経験があったらそれでいいと思っていた。むしろ身体が傷つくことを怖がってアグレッシブに活動できない方がもったいない。
そう思い、他人に指摘される「捨て身」をイマイチ理解できていなかったのだが、頭をぶつけて、急に怖くなって、やっと腑に落ちた。
私は大事にしている割合が、肉体より脳の方に多いのだ。
皆が平気で見ている、あの上からタライが降ってくるようなバラエティを私が直視できないのも、そういう要因が合ったのかも知れない。
大事なのが頭なのか、身体なのか、それだけの違いだったみたい。