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水飲み鳥

2024.08.27
ぺぎんの日記#144
「水飲み鳥」


水飲み鳥。
鳥が水場から水を飲むように、頭を大きく振り、くちばしを水に付ける玩具。熱力学で作動する。

水飲み鳥の仕組みの発明者については色々な情報があり、どれが確かなのか分からないが、どうやら玩具としての水飲み鳥は1952年、広島で誕生したものらしい。

開発された当時の名前は「平和鳥」。戦後間もない広島で発売され、それ以来インテリアや玩具として多くの人に愛された。水飲み鳥」「平和鳥」「ハッピーバード」など様々な名前で商品化されている。

今日、化学の状態変化の授業で、久しぶりに水飲み鳥に再会した。前に会ったのは小学生のときだったか。

実験室の黒板がある方、耐火テーブルの上で水飲み鳥がゆらゆらと揺れる。

赤い頭に赤いくちばし。シルクハットを被っており、目は見開かれている。頭からお尻にかけて繋がるガラスの管には、ジクロロメタンの液体が通っている。

どこかペスト医師のような風貌をした水飲み鳥には、少しの怖さをはらんだ妙な魅力がある。

有毒な物質を体内に流し、半永久的に揺れ続け、くちばしを水につけ続ける。空気の圧力差だけでせり上がってくるジクロロメタンの液体や、何か意図を持って動いているようにも見えるその揺れ。それらが水飲み鳥を、あたかも玩具に仕立て上げられた、魂のある動物のように見せる。

理科室という空間に、妙に溶け込み、しかし理科室に置いてある他の物たち同様、不思議な存在感を示す。

窓から差し込む日の光が、水飲み鳥のお尻を照らす。キラキラと光るガラス。鈍く輝く安っぽいプラスチック。鮮やかな赤色を跳ね返すフェルトでできた頭。

どうしてこんなものが、不自由な生き物に見えてしまうのだろう。

ただ化学の教材として登場した水飲み鳥に、こんなにも目が離せなくなってしまったのは、彼に生命の息吹きを感じたからなのでは無いだろうか。

…今私は水飲み鳥を「彼」と呼んだが、果たして奴はそうなのだろうか。



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