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消しちゃった絵しりとり
2024.06.17
ぺぎんの日記#76
「消しちゃった絵しりとり」
移動教室の楽しさは、こういうところにあるんだと思う。
今日もまた、机の端に書かれた絵しりとりの続きを考える。
化学の時間だけ使う、誰の席だか分からない机。そして、その右端に小さく続けられている絵しりとり。
私と、そして誰だか分からない相手との唯一のコミュニケーション。
移動先の教室の、前から4番目、廊下側の机で、今までのしりとりがまだキレイに残っていた、
はずだった。
4月。移動授業が始まって、初めてその机に座る。机の右端には、小さなリスの絵が描いてあった。次も、その次も、移動教室のたび、そのリスの絵は消されずにあった。
誰が描いたのかわからない。その席に座っているのが誰なのかもわからない。その席の持ち主はいつも、私が教室に入ってくるときにはもうその席には座っていない。
知ろうとすれば分かるのだろうけど、そんなことは必要ないような気がする。私と、あなたとの、しりとり。お互いそれで十分だと思ってるんだと思う。まぁ相手は私のこと、どこかで知ってるのかも知れないけど。でもそうだとしても、相手が直接私に話しかけて来ないことを考えると、やはりそういうことなのだろう。
私も、授業が終わったらできるだけすぐに自分のクラスに戻るようにしている。
それで話を戻すと、つまり、何度来てもそこにあるリスの絵に少しいたずらをしたくなって、リスの絵の下にスイカを描いたんだよ。
4/24。私とあなたの、しりとり記念日。
それからしりとりはずっと続いた。途中ちょっとよく分からないのもあったけど、おおよそちゃんとパスが渡って、今日まで絵しりとりは続いていた。
否定はしない。相手が自分の絵を読み違えていたりしても、訂正は書かない。私が相手の絵を読み違えていることだってあっただろうけど、相手も私のミスをおそらく受け入れて絵しりとりを続けてくれている。
授業の最初に絵しりとりの続きを描き、描けたら教科書を置いて隠しておく。シャーペンの黒鉛が、机からはがれ落ちてしまわないようにそっと。
そうしていつも先生の目を盗み、私たちは2ヶ月近く絵しりとりを続けてきた。暇なときは、掠れてきた最初の方の絵を、なぞって復元したりもした。
そうしてずっと続いてきた絵しりとり。
それが今日の移動教室のとき、全部消えてしまっていた。
ビックリもするけど、いつかこうなるだろうなと思っていた、冷静な自分もいる。机には小さく、本当に小さく、いつもとは違って字が書かれていた。
「ごめんねバレて消しちゃった」
あちゃー。
でもしょうがないよ。むしろ、2ヶ月も続いたの凄いって。
色んな思いを伝えたいのは山々なんだけど、でも、それでまた見つかってしまったら本末転倒なので、ごく簡単に、そして伝えたい色々の思いをギュッと込めて。
「もっかい、描こうよ」
そう書いて、今日は移動教室を後にした。
明後日の移動教室が、今からドキドキ。