『黄色い家』の読書感想 〜圧倒的なディティールで描かれる地獄〜

本屋大賞にノミネートされている『黄色い家』を1週間くらいかけてようやく読んだ。
主人公の花の一人称小説なのだが、見ている景色やうちに渦巻く感情と身体的な反応などのディティールの書き込みが半端じゃなく、読んでいくうちに花の視点に同期していくという「小説を読む」という行為の面白さを存分に味わえる「小説好きが好きな小説」だと感じた。

物語自体は、「犯罪によって歪んでいく人間性を細かい段取りで描いていく」というカタルシスがあまり来ない「堕落のアーク」の物語なので、エンタメ性はそこまで高くなく、特に日本人には小説以外の媒体だったらウケが悪そう。だがこれほどの陰鬱な地獄を延々と主人公に叩きつけてくる物語性はニッチな層にウケるかも。

主人公の花の行動原理の描写と自分の行動によって壊れていく様がこの小説の本筋で、それ自体はある意味『ブレイキング・バッド』や『ゴッド・ファーザー』にも近いが、犯罪が日常的で地に足ついたリアリティが強いため、ちょうどエンタメと文学の中間の作品ではないかと思う。
あまり読書慣れしていない人にはおすすめ出来ないかも。本屋大賞とは少し毛色違うか?だけど鬱系の作品は小説だとウケる可能性高いので、受け入れられるか?

個人的にはこの小説は小説としての完成度はとても高いと思いつつも、あまりに細かい描写やストーリークエスチョンが明確に提示されたいない点があり、物語としては少し乗り切れないところがあった。
リサ・クロンの『脳が読みたくなるストーリーの書き方』では「要点を絞れ」という鉄則が書かれているが、『黄色い家』は圧倒的な筆致とリアリティがゆえ要点がどこなのかがわかりづらい。
ここが好みが分かれるポイントになるのではないかと感じた。
つまりは小説体験としては良質だが、物語体験としては自分はあまり乗り切れなかった。

同時にこの作品のような「犯罪に手を染める」というプロットをエンタメに寄せるのであれば、やはり「ざまぁ的な要素」を入れたほうがいいのかもしれないと感じた。
安くてもカタルシスをところどころに入れたほうがいいし、その配置の仕方で読者を惹きつけていく俯瞰図を描いて作品作りをしたい。

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