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私のn回目の失恋に寄せて
服を脱ぎ捨てるときのように、雑に、けれど確実に元恋人への気持ちから離れようとしている。
元恋人の人となりや交際期間、破局の経緯などは特に記載するつもりはない。この文章の趣旨とは関係がないと思うから。ひとつ言うなら、彼は優しいけれど不誠実な人だった。
訣別を決めてから早くも半月が経とうとしている。もう半月か、と驚くばかりだ。体感的にはまだ8月3日くらいの心持ちなのに。心にぽっかり空いた穴は塞がりそうにない。
心の弱い私は、朝おはようのLINEが来ないだけで、なんとも悲しくなり涙が出そうになってしまう。
何もする気が起きなくて、お盆休みをいいことにぼんやりと麻雀をしたり、Netflixを見るだけで時間を消費するだけの毎日だ。その中で、彼に向けての手紙を書いた。アンジュルム卒業の時の桃奈のコメントを読み返し、ささやかな共感と応援を向けた。彼の好きだったところを思い出しながら、私の好きな歌を聴いた。彼の嫌いなところを思い出して知人に早口で捲し立てた。彼が「髪の長い女性の方が好きだから」と言ったから伸ばし始めた髪は、切ってしまおうかとも思ったけれど、それも少し癪(変なところで私は負けず嫌いだ)なので担当の美容師に「恋人と別れたから、とびっきり可愛くして!」って無茶振りして可愛くセットしてもらった。
時間は連綿と続いていくように見える。けれど時折私は時間を非連続的なものだと思う。意識は常に「今ここ」にはなく過去のタラレバや未来のかもしれないに思いを馳せている。卓上のアナログ時計の秒針は前にしか進まないが、私の心の中では早送りも巻き戻しもできるからだ。
できることならずっと秒針を巻き戻していたいと思う。そりゃあ合わないところ、嫌なところはたくさんあったけど、やはり好きだったから。思い出に浸っていたい。前に進む気力はない。
彼とは「友達に戻ろう」と言って別れた。それはお互いの希望というよりも、向こうの希望が強かったように思う。
その言葉の通り、彼とはいまだにLINEをしているし(交際しているときより頻度は減ったけど)一緒に遊んだりもする。完璧にいなくなってしまったのではないから、私は世の中の大多数の失恋よりかは幸せであるのかもな、とは思う。
けれど友情と恋愛では、質感も温度も違う。私が求めている温かいものを彼はもう与えてくれない。今までと違う乾いた質感を、低い温度を齎す彼の態度は私の心をキリキリと痛めつけて、どうしようもなく過去に縋ってしまう。
けれど、毎日新しい朝がやってくるたびに、すこしずつ心に空いた少しずつ塞がっているような気もするのだ。
彼からのおはようLINEが来ない朝を迎え、悲しみはするけれど、先週の私よりかは悲しんでいないように思う。自分の中の時間を巻き戻し、彼との思い出に耽ってはいるけれど、そこに費やす時間も少しずつ、本当に少しずつではあるけれど、減ってきている。今の彼から与えられる質感、温度に慣れつつある私がいる。「彼氏と別れた!」といったら慰めてくれる周囲に「お、ちょっとオトクだな」とほくそ笑む私がいる。何もする気が起きなくて荒れた部屋を見て「ああもう。明日ゴミの日だから、片付けなきゃ」とため息をつく私がいる。
そうして寄せては返す波のように過去に縋り付くことと毎日(とそれが齎してくれるその美味しさ)を行き来していくうちに、彼への想いを消化していくことができるのかもしれない。
彼は私にとって全部だった。全部だったからいなくなってしまって悲しい。けれど、彼がいなくなったところで私の全部が消えてしまうわけでは無いのだ。残っているものもある。
服を全て脱ぎ捨てたとしても、何も無くなってしまうわけではなく、裸体があるようなものだ。その残ったもの、裸体が、私自身なのだろう。
明日すぐに気持ちが落ち着くとは思っていない。
けれどいつかこの恋と区切りをつけることができるのだろうと信じている。そしてその時はまた新しい誰かと「おはよう」と言い合いたい。