“『これはAIが書いた物語です。』【ショートショート(1000文字)】
『これはAIが書いた物語です。』
久しぶりに書く物語の一行目は、Twitterや、インスタなどで読んだときに、インパクトのあるものでなければならない。
あらゆるジャンルでSNSが大きな力を持ち、AI技術の発達が目覚ましい現代。
内容を深く研ぎ澄ましていくこと。
こういった視点は、今後、優先度が2番目以降の代物に成り果ててしまうのだろうと思う。
消費が早い世の中では、広く浅く、同時並行的に処理されるものに価値を見出す。
深くて遅い、集中力を持って処理するものは相対的に価値が失われていく。
こうした現実と、誠意を持って向き合いたいと思うが、この場合の誠意とは何なのか、もはやそれ自体が怪しくなっていることを、近頃は考えるようになってしまった。
その時、机に置かれたスマートフォンが震えた。
”AIストーリー生成アプリ”
画面に通知の案内がされる。
午前3時の静寂の中、集中力がさざ波のように収束しているのを、狙い澄ましたかのような、甘美な空気の震えだった。
『何が』というわけではない。
『罪悪感』というのすら、全く的外れなのかも知れない。
しかし、抱えきれないこの大きな荷物を、1人の人間が背負うことなど、全く想定されていない。
大きな大きな業のような雰囲気を放つこの物体を、下ろしたいと思ってしまった。
アプリを開いて画面を操作する。
『あなたの物語の一行目を入力してください!!』
アプリの中のキャラクターが、私に向かって、優しそうな、朗らかな声で話しかける。
しがらみを払うように、スマホ画面を左右へスワイプし操作する。
部屋の中に広がる静寂の音が大きくなっていき、同時に心臓の鼓動は小さくくぐもっていくのを感じた。
『これはAIが書いた物語です。』
アプリは瞬く間に、物語の続きを生成し始めた。
そのスピードは圧倒的だった。
物語は想像を超えた展開を見せ、傑作とはこういうものであると、淡々と定義する。
静かな興奮と共に、その瞬間、もう私の手を離れてしまった、これまで懸命に背負っていた大きな業の輪郭を見る。
それは、とても美しい形だった。
この業を背負うことは今後叶わない。
読者としての満足感と同時に、筆者として大切なものを失う。
これから先、私は自分の物語を描くことは、いよいよできなくなってしまったのである。]
以上が、TwitterやインスタなどのSNS を通じて、多くの読者を獲得できそうなメッセージ性のある内容の小説になります。
参考にしてくださいね!”
チャットgpt が私の”TwitterやインスタなどのSNS を通じて、多くの読者を獲得できそうなメッセージ性のある内容の小説を書いて。”
という要求に、ほんの数秒で答えた。
スマホを握る手が、内側へと向かっていく。
絶望的な幸福感の中で、コイツを使っているのは私だと認識を改めて、なんとか正気を保った。
震える指で文章をコピペして、自身のアカウントからTwitterに投稿した。
私は興奮と恐怖に押しつぶされそうだった。
世紀の大罪人はこんな心持ちだだったに違いない。
投稿は瞬く間に拡散され、いいねやリツイートの数が急速に増えていった。私は、通知が鳴り止まないスマホを、見つめる。
優れた物語とは、こういうもののことを言うのだ。”