『INFPってこんな感じ』【ショートショート1000文字】
静かな部屋の中で、陽子はパソコンの前に座っていた。毎日、異なる言語の文章を日本語に変換する仕事をしている。
陽子は幼い頃から本が好きだった。
物語の中に没頭し、登場人物の感情に共感することが彼女の楽しみであり、大人になってからもその習慣は変わらず、翻訳の仕事を通じて多くの物語に触れることができるのは、彼女にとって理想的な職業だったはずだった。
ある日、陽子は新しい翻訳依頼を受け取った。
著名な作家の自伝だった。
それは、とても凄惨な1人の男の人生についての自伝だった。
彼の人生についてもっと知りたいと思っていた。陽子はすぐに仕事に取りかかった。
ページをめくるたびに、作家の人生の一部が明らかになっていく。彼の苦悩や喜び、成功と失敗。陽子はそのすべてに深く共感し、まるで自分自身がその人生を歩んでいるかのように感じた。
陽子は完璧主義者だった。
彼女は一つ一つの言葉にこだわり、作家の意図を正確に伝えるために、時計の針がグルグルと回る様子を片目に見続けた。
彼女の理想は高く、完璧を求める姿勢は変わらなかった。
彼女は自分の仕事に誇りを感じていた。
翻訳家としての彼女の役割は、ただ言葉を変換するだけではなく、作者の感情や物語を伝えることだった。
彼女はそのことに気づいていたが、自身の感情移入しすぎる性格が、自分自身をすり減らしているという自覚があった。
そうして、いよいよ体の方が限界を迎えてしまった。
原稿を出版社にあげた、次の日の朝、目が覚めてから体がまるで鉛のように全く動かない。
そのとき、家のリビングにある電話が鳴った。
這いずるように電話を取ると、それは編集者からだった。
編集者は興奮した声で言った。
「陽子さん、あなたの翻訳が大好評です!作家本人からも感謝の手紙が届きました。彼はあなたの翻訳を読んで、自分の人生が新たな光で照らされたと感じたそうです。」
陽子は驚きと喜びで胸がいっぱいになった。彼女の努力が報われた瞬間だった。電話を切った後、陽子は窓の外を見つめ、微笑んだ。
彼女の翻訳が誰かの心に届いたこと、それが何よりも嬉しかっだのだ。
しかし、どこか違和感を感じている。
その瞬間、今度は陽子のスマホが鳴り、目覚めた陽子は重たい瞼をこじあける。
スマホを見ると、画面には「非通知」と表示されている。彼女は少し微睡みながらも電話に出た。
「もしもし?」
「陽子さん、こんにちは。私はあなたの翻訳した作家の息子です。実は、父の自伝には続きがあるんです。父が亡くなる前に書き残した未発表の原稿が見つかりました。ぜひ、あなたに翻訳をお願いしたいのですが。」
陽子は驚きと興奮で言葉を失った。彼女の心は新たな冒険への期待でいっぱいになった。
終
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