見出し画像

引っ張り出された引きこもりニート大学生(前編)

大学院を休みがちだった当時の僕。
ただ、週7朝昼夕と家で惰眠を貪っていた訳では無い。週に2〜3回は深夜バイトでジュースカウンターに立っていた。そこは1年生のころから系列店で働いていたので勝手知ったる居心地のいい場所だった。

大学には行けず、何故バイトには行けるんだ?
それは鬱じゃ無いだろ?甘えてんじゃねえよ。
と自問自答することも多かった。他人からはそう思われていたかもしれない。いや、そうに違いない。

そのバイト先は昼はランチ、午後はカフェタイム、夜はレストランと時間帯別にメニュー構成を変えて営業していた。院生になる前は週4〜5で働いていたが、授業のコマが決まっていた学部生と違って、院生のスケジュール管理は難しい。実験が夜中に終わるのなんて良くある事だった。お金は必要なのでバイトはやる必要があるのだが、前みたいなシフトは無理なので、社員さんと交渉して金土日の22〜24時だけ入れてもらう事になった。

接客のピークタイムは過ぎているので、お客さんは少なくもちろん顔見知りが来る可能性も低い。
やる仕事は翌日以降に使うフレッシュジュースの仕込み。キウイ、パイナップル、りんご、オレンジ、バナナ、たまに桃、スイカ、柿、メロン、いちごなど季節の果物のカットをすることも。

大学に行けなくなった僕は、何か社会に繋がりたいと思っていた。このまま部屋の布団と友達になっても明るい未来が無いのはわかっていた。何かを変えなければこのまま変わらないことも。
フレッシュジュースの仕込みはとても気分が良かった。ジュースの味の決め手は、果物本来の美味しさはもちろんだが、カットの仕方、タイミング、ジューサーの回し方、一緒に入れる氷や豆乳の分量、甘味料としてのオリゴ糖の入れ具合など多岐に渡る。あんまりイケてない材料でも如何に100点の味に近付けれるか試行錯誤するのが好きだった。

そんなバイト先には他大学の学生も働いており、
仕事を通じてみんな交流を深めていた。個性的な人が多く、それぞれが魅力的な人ばかりだった。
その中にいた1人の女の子。自分とは距離を置こうとするその子は、人の空気や考えている事を察知し行動に移すのが人一倍得意な女の子。仕事中はキッチンとドリンクの間に入って、ホールを誰よりも上手く回してくれている。まさにスーパーアルバイト。

一点、気になったのは、
容姿が幼いので難癖を付けられやすいタイプであること。
理不尽な事を社員から言われ憤慨していることもあった。

彼女は自分の意見はハッキリと言う意思の強い人僕には全くない心を持つ女性だった。

彼女との出会いはその店のオープニングからなので、深夜勤務だけになったころの僕とは、出会ってから既に1年以上経っていた。
オープン当時はお互い付き合っている人がいた。
鬱の時は僕は独り身、彼女は遠距離恋愛が上手くいっていない頃だった。               

たまに冷やかしに来る同じ研究室の先輩と同期に
励まされながらも、戸惑いと罪悪感を感じながら
深夜バイト勤務の週末が僕を救ってくれていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?