くるり「真夏日」歌詞から京都の鉄道への深い愛が見えてくる話【京都市交通局20系】
くるりの「真夏日」にもうすっかりお熱です。
これなんでもっと大騒ぎになってないん?
もちろん曲単体で「良いなあ…」と思ってもらえると思うんですが、この記事ではまだ見たところ誰も言及してなさそうな「真夏日」の孕む異常性について書いてみます。
異常です。この曲。ぶっちぎりで好き。
その魅力を余すところなく語りますので…、以下、どうぞ聴きながら読み進めてください。9分ぐらいあるのでゆっくり聴いていただいて。
YouTubeバックグラウンド再生ができる方はこちら↓
https://www.youtube.com/watch?v=ANu3EygnJ90
Apple Music↓
https://music.apple.com/jp/album/真夏日/1645981697?i=1645981698
フジロック’21で聴いた
んですよ。
覚えてますでしょうか。
当時はまだまだ音楽シーンが混乱していて他の野外フェスは軒並み中止、そんな中でフジロックは国内アーティストに限定してなんとか開催してくれた、そういう特別なフジロックだったわけですが…
ここでくるりはこの曲を演奏します。
僕はこの1曲前の「ばらの花」で何故か大号泣してしまってたんですけど、そんな中で聴いたことない曲が始まったわけです。(本当に初演やったらしい)
ははーん。
くるりが鉄道、特に京都の鉄道をモチーフに持ってくることはこれまでにも何度もあったし、今回もそれやな。
急行。急行ねえ…。なんか特定のモチーフがあるやろうな。
阪急京都線には急行はないし…(※当時)、やっぱし京阪の歌かな。
直通電車…?
あ、そっちじゃないわ!
となるわけです。
1回しか聴いてないから分からんけど多分これ完全に特定の場所がモチーフになってるやつやな…。とは思ってたんですけど、しかし路線は分かるとして、それが何処かまで特定するには僕の実力と記憶力が圧倒的に不足してました。
リリースを心待ちにすること1年以上
翌2022年秋、京都音楽博覧会’22と同日にリリースされます。
ホンマ待ってましたよ。あんな印象的な歌ないですからね。
リリースまで丸1年以上、聞き直すことも歌詞を確認することもできず、ひたすら焦らされてたんですから。
その答えはジャケットにありました。
これは近鉄京都線の桃山御陵前-向島の間、
京都市の南端近く、伏見区にある「澱川(よどがわ)橋梁」。
完成以来90年以上が経過し、登録有形文化財とのこと。
そしてそこに差し掛かっているのはやはり、
近鉄に直通している京都市営地下鉄烏丸線の「ピカピカの新車」、
京都市交通局20系だったわけです。
これをジャケットにしたいがために1年以上も焦らされたのかと思ってしまうような完璧なジャケット。その後、ジャケットから見て「この曲で歌われているのがこの京都市交20系である」という記述は各所で多々見られます。公式サイトにも明記。
というわけで正解は、「京都の地下鉄烏丸線が近鉄線に乗り入れてる時の、京都市と宇治の間あたりの橋」のシーンだったわけですが…
それはいいけど早すぎひんか???
烏丸線は1981年の開業以来40年以上、10系という車両だけで回してました。
ということでこの20系という新型車両は40年ぶり、開業以来初めて追加される新車ということになるんですが、その運用開始は2022年3月26日です。
ん?
繰り返しになりますが20系を歌った「真夏日」の初演は2021年夏のフジロックです。
確認してみたところ…
2021/07/26 竹田車両基地に搬入開始(この時はまだ形式名不明)
2021/08/17 関係者向け見学会
2021/08/20 15時台後半 くるりFRF初日で「真夏日」演奏
2021/10/17 市内在住or通勤通学者向け車両見学会
2022/03/26 烏丸線営業運転開始
2022/04/12 近鉄直通運転開始(初めて澱川橋梁を渡る)
曲の完成の早さ異常じゃない?????
つまり我々がフジロックで聴いたあの時、歌われていた20系についての情報は
・搬入するところを捉えた写真をTwitterとかで確認する
・プレスリリースで確認できた下絵↓
ぐらいのもんですよ。外観に関しては。これだけの資料であの曲を書き上げ、披露してたのか…。そら聴いてピンと来いひん訳よ…。
歌詞の情報量はそこまで詰め込まれていない
実際、この他の歌詞にはどこかの街を特定させるほどの情報は見当たらず、上に引用した2箇所とジャケットのみやと思います。もしかしたら歌詞に出てくる交差点とか本屋とかも実在するのかもしれませんけど、特定させるまでの意図は見てとれないと思います。鉄道は別にこの歌の主題ではないし。あくまで引き立て役。
引っかかると言えば上述の「次の停車駅 橋を渡る前に」ぐらい。
「橋」が桃山御陵前-向島間にあるし、「停車駅」というからには通過駅のある種別…?停車駅の手前で橋を渡ってるということは…京都方面行きが桃山御陵前に停まる直前と考えるのが自然…?とか思っちゃいますが、結局ここでも確かなことは言えません。
それよりも、初演聴いてから1年以上が経ち、今になってすごく重く響いているのは歌い出しの
初演は2021/08/20、例年の7月開催と異なり8月下旬開催となったフジで、冷涼な苗場では赤トンボがそこここを飛びまわってました。真夏は完全に過ぎ去っていた。
そしてフジ’21当時まだ一般公開もされてなかった20系の走る情景。「次の真夏の話さ」。完全に未来を見てたんですね。2021年晩夏に、2022年真夏の京都の情景を描き出した未来の歌だったわけです。来年の夏の描写に、まだ見ぬ新型地下鉄車両を装置として使っていた。ここまではちょっと気付けない…
そんなアクロバティックな表現がキマるのはひとえに…
京都の鉄道への深い愛が為せる技
と言えよう。
とくに!くるり岸田さんは京都市北区のご出身と公言されてます。さらにこれは噂ベースですが、お家は烏丸北大路、すなわち烏丸線の北大路駅の周辺だったという話もあります。
烏丸線の部分開業(京都-北大路間)が1981年、岸田さん5歳。
物心ついた頃から40年間慣れ親しんだ烏丸線についに新型車両。思い入れも相当だったんじゃないかと推察しますけども、こんな美しい作品に昇華されると胸がいっぱいになってしまいます。
くるりが京都をどういう風に描き出したいか、そして特に「真夏日」の舞台=伏見から宇治にかけてについてどう感じているか、そのヒントがこの記事に見える気がします。
くるり岸田さんが、岡崎体育氏(※宇治市 近鉄京都線大久保駅周辺のご出身)と対談しておられます。
岡崎体育×岸田繁「東京へ引っ越したらヤバい」音楽は生活圏から生まれる
「ないよ。宇治やもん。」
しかしこう続きます。
自身出身の北区についても、京都の「真ん中」ではないとキッパリですよ。
極め付けには岡崎体育氏の楽曲から宇治市大久保やら、その南の城陽市の辺りの生活が見える、と…
これですよ。これ。
神社仏閣、京町家、鴨川…みたいな(たぶん)イメージを「虚像」と断じ、イズミヤ(※スーパー)とか近鉄電車とかゲーセンとか、京都出身者の大多数が暮らす郊外の暮らしをリアルに描き取った作品を「かっこいい」と。京都で大学生活しか送ってない身でこんなクチききますけど、ちょっとわかる。140万人が京町家で暮らしてるわけないねんから。
そら京都ですから、道を歩けば文化財に当たるし、その辺の脇道の石碑がとんでもない歴史もってたりするわけですよ。でも大多数がそれをそうとは意識せず、当たり前に暮らしているのが本当の京都であって。
澱川橋梁だって95年モノで、しかも文化財ですけど、日常でそんなこと意識してる人は誰もいてなくて、何十万何百万という乗客を今日も当たり前に運んでるんですよ。そこに地元としての京都のリアルがある。
そういう京都の実像、特に鉄道好きな岸田さんのこと、「鉄道が溶け込んだ、京都の本当の風景」へのラブソングでもあるなあと思いながら今日も聴いておるわけです。
ではその20系とはどういう車両か
またこれがね。色々詰まった車両なんですわ。
(岸田さんはこの実物を見る前に真夏日を書ききってるんで、実物を見てどう思ったかまでは分からないんですけど…)
旗印はなんといっても「京都の伝統産業素材・技法が随所にあしらわれている」という。
鎚起(ついき)、京象嵌(きょうぞうがん)、吊り革には北山丸太と京くみひも…などなど…、京都は武器がいっぱいあってよろしおすなって感じなんですけど、たぶんやっぱし大多数の京都市民はそうとは意識せず、これも日常化してしまうんでしょうね。地下鉄ですから。普段使いの市内交通ですから。それでいいんですよ。
ほんで、「真夏日」リリース以来どうしてもこの20系に乗っておきたくて、先日関西に行った折に乗ってきました。
澱川橋梁まで行く時間はなかったんですけど、烏丸線内で20系をきっちり楽しんできました。
動画、たったの1分でまとめてあるんでぜひご覧ください。
https://youtube.com/shorts/OhAbhiVxzGA?feature=share
(チャンネル登録もしてくれると嬉しい)
結論
まあでも結局曲が良すぎる。これに尽きる。アウトロ凄すぎる。あと潮風のアリアでも思ったけどドラムおかしいやろ。どうやるねん。