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a dream

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うつし世はゆめ よるの夢こそまこと。
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a dream

すべて消えてなくなればいい 想いも 愛も 淋しさも悲しみも ここにいたという軌跡さえ 波にさらわれてしまえばいい a dream 誰にも知られずに 消えて行く私の言葉たち まるで夢のようにきらめいて 遠く 遠く流されて行く a dream 何も残さずに ただ懐かしむ記憶の底 そっとふたを閉めたオルゴール まだ耳の奥に鳴り響いている

杉の林に静(せい)ひとつ

杉の林に静ひとつ 靄の立ち込める朝 靄に紛れて時間が漂う 暗闇から聞こえる森の声 林は何を考えている 杉の林に静ひとつ 緑の湿地に隠された 緑の夢と宝物 眠りから覚めた林の向こう 林は何を考えている 杉の林に静ひとつ 小鳥の声だけ響いてる 小鳥はどこに隠れてる かくれんぼうの朝の歌 林は何を考えている

花の森にて

やわらかに色紙の花園で 子猫が蝶々を追って駆けて行く 淡紅色の薫りを放つ花たちは 自慢の花びらを踊らせることにいそがしく まるでそれは雨のように降りしきり この花園を埋め尽くそうとするかのように 花びらは散る また降り注ぐ 小手毬の花影から聞こえるのは やさしい音色のパストラーレ あれは姉さまの弾くハープシコード 夢のように私の心に舞い降りて 昼下がりの眠りを静かに誘う 花海棠の根元でうとうとしていると 赤い花が私を起こしてくれた それは葉陰にひっそりと咲く草木瓜の花 首

「キー!」

君がまだ言葉をうまくしゃべれなかった頃 青空を指差しては「キー!」と叫んでいた 最初は何のことかわからなかったけれど 君の指差す方向にはいつも 飛行機が気持ちよく青空を滑って行って ああそうか 飛行機って言いたかったんだね 5歳になった今でも 君は青空を見上げて「ヒコウキ!」って叫ぶ 見上げる視線の先には飛行機の姿 さすがにもう「キー!」とは言わないけれど 君が飛行機をみつける名人なのには変わらない 今では言葉を上手にしゃべれるようになって 時々どこで覚えて来るのか

黒猫

暗闇に光る君の瞳 影から影へ移る君の姿 君は夜に生まれたから そのまま夜を身にまとい ひとり息を殺して闇を行く 夜は君の姿 闇は君の心 影は君の名前 そして沈黙が君の言葉 けれどそんな君でも 淋しい時はやっぱりあるさ そんな時は夜の片隅で この沈黙を破って 一声ニャーゴと鳴くのさ

埋み火

静かに燃えている胸の炎 雪の舞い散る冷えた空気にも 消えないで燃え続けている このままあなたに会えないで 一人きりせつなさにとらわれて 涙の河で溺れてしまうなら 胸の奥の埋み火消してしまうか くすぶり続けている胸の炎 誰にも消せはしないきっと 後から後から雪は降るけど 天から白い精霊が降りて来て この炎消そうとするけれど 炎は赤く赤く燃えて あなたが恋しいと熱くなる 涙の渦に沈んでしまおうと 胸の奥の埋み火燃え続けるよ あなたに伝えたい胸の痛み 触れたら火傷負うわきっと

新しい年のために

蒼い影を映して続く冬の森には 透き通った何かが隠れている 凛と張りつめた空気の中で 何かが動き始めている それは凍りついた木々の向こうに 広がるはるかな世界 白いやさしい時間が待っている 誰もがまだ見たことのない 素晴らしい未来 さあ出かけよう扉を開けて 新しい一歩を刻み込もう 真新しい雪の上に 君だけの足跡をつけに行こう 新しい年のために 未来は君だけを待っているから

アンノウン

私が誰かなんて 問いたださないで欲しい 私は私 あなたはあなた たくさんの未知数の中の一人 名前なんか 大して重要じゃないのよ ミステリアスな方が 時には素敵に映るもんだわ それでも気になるというなら 逆にこちらから聞いてあげる 私は誰? あなたは誰? 知らない わからない 知る必要もない アンノウン それがきっと答え

青空

片手をかざして遠くを見る いつだってこの街は光の渦 目覚めるたびに生まれ変わり すべてが新しくなって行く この両腕に抱えている 悲しい思い出はみんな捨てて 窓を開けて そして飛ばそう あの青く澄んだ高処へと せつない想いを飛ばせば いつかきっと届くはずさ 風が答えを運んでくれるから 今はその笑顔を見せて 青空のようなまぶしい笑顔を 涼しげな風が街を通る どこへ行こうとしているのだろう この窓辺にも風が吹いて やさしく頬を撫でて行った 胸の奥底にしまってある 苦しい出

光はあふれる 白亜の建物の上に 海鳥の白い翼に 青くうねる海原に 光はあふれる 光は波打つ どこまでも続く青い穂波に 涼やかに流れる川面に 青い空と風の中に 光は波打つ 光はうつろう アスファルトの影模様に 縁側で寝そべる猫の背に さやさやとそよぐ樹の葉に 光はうつろう

草原

夏の風が呼んでいる 遙かなる草原の向こうで 草原の緑のさざめきは どこへ導こうとしているのか 誘われるままに 草原をずんずん進んで行くと やがて目も覚めるような黄金郷 神殿に祈りを捧げる人たち 人々は互いに ひとつの道を指さしていた 彼らの待ち望んだ 救世主の来る道を 草原の向こうは 私の知らない世界 行ってはいけないところ 二度と戻らない伝説 夏の風は急ぎ足で 麦わら帽子を奪い去る もうすぐ夏が終わるという 知らせなのだろうか

夏の魔法

夏休み前の教室で ぼんやり先生の授業を聞いていた 教室の窓の外では アブラゼミがうるさいくらいに鳴いていて 授業に集中できない僕の頭の中を これでもかというほど占領していた ジージー いっこうに止む気配のない蝉の声 いつしか時間が止まったみたいに 僕のまわりは蝉の声で充満していた ジージー ジジッ 突然蝉の声が止んだかと思うと 僕は目眩のような感覚に襲われて その時何だかわかってしまったんだ これは夏の魔法だ アブラゼミがかけた特別な魔法なんだ ふとまわりを見渡すと

秋は詩人

道を歩いていたら 言葉が落ちていたので 拾いながら歩く 拾った言葉を並べてみたら 詩のようなものができたので 額縁に入れて飾っておく 紅葉が一枚 はらりと落ちて そこからまた言葉が生まれて行く 秋は詩人 たくさんの言葉が生み落とされて 落ち葉のように そこらじゅう言葉で埋め尽くされて行く 世界はたくさんの詩であふれている 夕焼け空を眺めながら ススキ野原で風に吹かれながら また言葉でも拾いに行こうか

サイレントレイン

シグナルを待つ間 雨の音ばかり聞いていた せつなさが押し寄せて あわててアクセル踏めば 頬を伝う涙に気付く 外はサイレントレイン あなたの声も聞こえない まるで逃げるように車を飛ばして またシグナルレッドに立ち止まる あなたと私の恋みたいに あなたから遠ざかる そんなことばかり考えて 雨の中を飛び出した このままあやふやな想いで あなたを愛するなんてできない 外はサイレントレイン 自分の心も見えない まるで雨がすべてを隠してるように みつけられないまま進めない あなたと