MELODY&NUTS #22 PRESSUR
フェスも終盤を迎え
どのステージも
熱気と興奮は最高潮を迎えていた
FUTURE STAGEでは
レゲエ・サウンド”PRESSUR"が
会場をロックしていた
セレクターがダブプレートを巧みに使いこなし
ディージェイが観客を煽る
そのたびに湧き上がる
歓声とエネルギー
まさに宴
シャーマンが神に捧げる
神聖な宴とはこんな光景なのだろう
盛り上がる会場を抜け
出演者エリアに戻ると
ディーはすでに着替えを終え
最終調整に入っていた
『おうメロ
待ってたぞ』
ディーはボストンバックを投げ渡してきた
『それに着替えてこいよ
サイズは多分大丈夫だ』
出演者用のドレスルームを借り
ボストンバックから衣装を取り出すと
中から仕立ての良い真っ黒のスーツが出てきた
鏡の前で袖を通す
オートクチュールのように
サイズはぴったりだ
身が引き締まる
鏡に映る自分を覗き込み
パンパンと二回
頬を叩いた
もうメロに迷いは無かった
『MELODYさん
スタンバイをお願いしまーす』
スタッフから声が掛かる
『似合うじゃねーか
俺より目立つんじゃねーぞ』
ディーが冷やかして言う
『目立ったもん勝ちだろ』と
強がるメロの足は震えていた
『手を出せよ
握手だ』
ディーの手を掴むと
グッと引き寄せられ
耳元でディーが声を掛ける
『迷ったら思い出せ
なんでココに立っているのかを
MAIN STAGEを喰うぞ
準備はいいな』
震える足は止まった
ディーの目にも青い炎が灯っていた
『行こう』
ステージ裏の階段に
足を掛け一段一段上がる
重なり合う黒い幕の向こうから
歓声とスポットライトの光が漏れてくる
『それではステージの方へ
ご案内します
こちらへどうぞ
足元に配線などありますので
気をつけてお進みください』
スタッフに誘導され進む
心臓の音が耳元で聞こえる
もう一度
パンパンと
頬を叩く
スタッフが幕をひらく
あまりの眩しさに
一瞬目が眩む
白い光のモヤが晴れ
じわーっと観客席が見えてきた
ドクンドクンと
心臓の音がまた聞こえ始めた
ステージ中央で
PRESSURの三人が待っている
ディーはいつものことのように
軽い足取りで中央に進む
PRESSURと握手を交わし
淡々と準備に入った
『メロ紹介するぜ
マイク持ってる方が
ディージェイのMAMIDORIで
こっちがセレクターのDORED
そしてダブプレートを選んで渡しているのが
同じくセレクターのSUNだ』
『お前がメロか
ディーから話は聞いてる
よろしくな』
ドレッド頭のDOREDと握手をする
一回聞いたら忘れない名前と
真っ黒に焼けた肌
ニコッと笑った時の白い歯が特徴だ
『HIGHいる?』と
咥えたジョイントを渡しながら
黄色いTシャツの男が声をかけてきた
SUNだ
一口もらいお礼をして握手すると
黙々とレコードの山を漁り始めた
MAMIDORIに挨拶をしようと
隣に移動すると
フェーダーで音を切りマイクで
『この街のブラザーを紹介するぜ』と
肩を掴まれ
『MCのメロだ』と紹介してくれた
MAMIDORI流の挨拶なんだろう
会場からはウェルカムな声が聞こえてきた
陽気なPRESSURの三人のおかげで
メロはいつもの調子を取り戻した
時刻は間も無く19:00を回ろうとしていた