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MELODY&NUTS #27 REVEALING

メロはあまりの驚きに
自分の目を疑った

『これを使いなさい』

スッと差し出された
サックス
困惑しながらも
それを受け取る

使い古され
年季の入ったサックスには
たくさん練習をして来た中で
付いたであろう小さな傷が
無数に付いていた

持った瞬間にメロにはわかった
これが自分の使っていたサックスだと

『あなたの音楽は
 お父さんの物じゃないの
 あなたの人生は
 お父さんの人生じゃないの』

『言わないように
 我慢していたんだけど
 さっき
 あなたが今日ここにいること
 真一郎さんに話しちゃった』

『奏
 お父さんがびっくりするくらい
 思いっきり吹きなさい』

久しぶりに会う母は
何だか口調が変わって
パワーアップしていた

いつもは父を立て
三歩後ろに下がっているような
物静かな人だった

会わない間に何があったのだろうと
メロは母の話を聞きながら
考えていた

『メロどうするんだ
 そのサックス使うのか?』

ディーが現実へと引き戻す

MELODYのライブは
最後の曲を残すだけとなっていた

会場はまだざわついている

そんな中
会場の最前列で変化が起きた

横に一列に並ぶDoAの仲間達と
メロとディーを知る者たちが
声と拳を上げて
観客を煽り出したのだ

その勢いは見事に伝染し
観客は息を吹き返していく

その光景を目の当たりし
メロはサックスのストラップを
肩にかけた

今の俺は一人じゃない
仲間がいる
ここで投げ出したら
漢じゃない
ナッツとの約束も果たせない

一音
試しに吹いてみる

ブランクはあるが
さすがは英才教育の賜物
体が覚えているようだった

メロは声を振り絞り

『借りるよ』と
母に声を掛けた

ディーは一部始終に
耳を傾けながら
持って来たレコード箱の中から
一枚のレコードを取り出した

盤面をメロに見せ
『最後はこれでいくぞ』と
ターンテーブルに
針を落とし
観客には聴こえないように
ヘッドフォンでメロに
イントロを聴かせた

これならわかると
親指を立てるメロ
状況にあった曲を瞬時に選び出す
ディーのセンスは抜群だった

MAIN STAGEでは最後の演奏が終わり
東堂真一郎が
フェスに集まった観客に
マイクを使って挨拶を始めていた

『この度は
 このような素晴らしいフェスに
 お呼びいただきまして
 誠にありがとうございます』

拍手が起こる

『今回のバンドセットでは
 バイオリンを息子の慶が
 そしてピアノを娘の花が
 一緒に演奏してくれました』

慶と花が立ち上がり一礼をする

『私がサックスを始めた頃
 このような日が来るとは
 想像もしていませんでした』

『立派に成長し
 同じ舞台に立てることを
 心から誇りに思います』

また大きな拍手が起こる
神妙な面持ちで様子を見つめ
ゆっくりと拍手が止むのを待つ

スーツの襟を正し
あらためて話を続ける

『しかしながら
 私もまだ叶えられていない
 夢があります』

『この年になり
 人生が有限であることに
 今更ながら気が付きました』

普段は決して見せることがない
人間としての東堂真一郎がそこには居た

『音楽を追求し
 夢のような時間を過ごさせて
 いただいたことには
 とても感謝しています
 感謝という言葉では
 言い表せられないくらいです』

『夢はいつか覚めてしまうものです
 私は夢を見ているあいだに
 たくさんの大事なものを
 見過ごして来てしまいました』

本来
話そうと考えていたことではなかったのか
真一郎が言葉に詰まる
次の言葉を静かに待つ会場

そこに遥か後方から
地響きのような大喝采が届いた
何かとんでもない事が起きていると
皆が感じた

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