アーカイブ3 渡邉格さんのお話 3 経済の話(2016年11月19日)
・水を求めて鳥取へ
うちではHP作成から経理とか、大工、水の確保などを全部自分たちでやってきました。
千葉時代は水道業者を引退したおじいちゃんに水道工事を教えてもらって、ひととおり出来るようになりました。すっげえ面白かったですね、この工事は。
それから独立した電気屋さんにも教えてもらって電気工事をやらせてもらって。
せっかく水を求めて岡山に行ったので、井戸を掘りたいですよね。
実際にスコップで5メートル掘ってみたら、水出たんですね、土の中からじわーっと。びっくりしました。で、やっと水が出たってことで楽しくなって、その場で酒盛りが始まっちゃって、ほっとしていたら、次の日全部砂が入って埋もれてて。
それからはいくら掘っても砂が流れてくるんで、結局どうしようもないから埋め戻しました。
で、埋め戻した敷地がもったいないから、建物を建てて倉庫をつくったりしました。これも色々大変でしたけどね、丸鋸一本でやったので建物が少し曲がっちゃって、これは残念でしたね。次回作るときはちゃんとした工具を買おうって思っていたら引っ越して、また店舗をDIYで改装することになっちゃって。
岡山から鳥取に引っ越したんですが、このときは自分で引っ越ししようということで、フォークリフトとクレーンの免許をとって。
そうすると2トンぐらいのものだったら自分で運べるようになるので。
ヤフオクで必要な機械を買い集めて、2トン級のものを自分で運んで引っ越しました。でもユニックをいじってたら、慣れないもので、すごく怖かったんです。
そしたら近所の人が来て「へったくそだなあ」ってガガガ―っと積み込んでくれて。
で、今度は鳥取に着いたら、林業の町なんでね、向こうでユニックを使える人たちが3人ぐらい待ってて、その人たちが全部おろしてくれたので、結局フォークリフトも使わず。
免許取ってもなんの意味もなかったかなと思うけど、このユニックを借りることができたんで。これ、1日18000円で借りられるんで、いいですよ。
もし皆さんも引っ越されるときは、私に相談してくださいね(笑)。
こんなことばっかりやってました。
それから、せっかく水を求めてきたんだから、もっと大きな視点で自然環境をとらえて動かなければと。
石窯を作って、林業家たちから薪を買いあげて、森を守って綺麗な水をつくってもらって、結局はうちの井戸の水が良くなるという、大きな循環が必要だと思いました。
・石窯作り
だったら石窯を作ろうというプランを立てました。
それで、屋根に煙突の穴をあけた石窯用の小屋も建てました。その際は前回の反省を生かし、角材を直角に切れる丸鋸を買いました。
ついでにトイレの個室なんかも全部自分でつくって、楽しいときを過ごしました。結局6か月ぐらいかけてDIYやってたんですが、近所の人たちに「6か月間あったら大工さんにお金払ってパンつくったほうがいいんじゃないの?」っていわれて、ほんとだと思いました(笑)
そうですよね、なんでこんなことやったんだろうって思うわけです。
でもこの自分でつくった石窯を見ると、めちゃめちゃ感動するわけですよ。
で、ピザ焼いてみようということで、初めて焼いてみたら、これが美味しくないんですよ、びっくりしました。13分とかかかっちゃって、ピザは1分で焼かなかったら美味しくないんですけど。
なぜかというと、熱がもれてるんですね、この石窯ではいいピザが焼けませんでした。だから、解体しました。(笑)
非常に残念なことをやってしまいました。
この他にもね、話すとたぶん2時間ぐらいしゃべれるんですけど、でっかい木を屋根材にしようとして、落として怪我したりとか、そんな失敗がいっぱいあったんでね、自分で大工仕事をすることに意味は感じているけれども、やっぱりプロにお金を支払う方の意味も大きいことが分かった。
その道のプロの技術を支えることに繋がるから・・・。そのためのお金なんだって、やっとわかりました。
36歳になってやっとわかるというのもおかしな話ですけど。
・分断社会の問題点
最初にもお話したように、私は東京生まれ東京育ちで、大体お金で解決する世界で生きてきたので、結局周りが何をやってるのかよくわからなかった。
他人が何してるのか見えない、他人に敬意を払えないという人生を送ってきてしまった、まあ乏しい人間なんですね。
もっと言うとね、私だけが悪いというのでもなくて、やっぱりシステムもおかしいと思うんですよね。
この、他人に敬意を払えないシステムみたいなものが資本主義社会のなかで出来上がってる気がして、これをなんとかしていかないといけないんじゃないかということで、まためんどくさい話に戻っていくわけです。
何が言いたいのかというと、分断社会が問題なんじゃないかと。
それをこれから話していきたいなと思います。
結局お金は悪くないぞ、経緯がわからない、他人が何をやっているかわからないという社会システムに問題があるんだぞ、ということでね。
だったらこれを直すために、人間は学問とか教育とか宗教とか、人間を良くしていこうと思って一生懸命やってきた時代があると思うんですが、それはもう仏教始まって2500年経ってますから、良くなっていく人たちもいたと思います。
だけれど、悪い人間もいるわけですね。
で、なかなか分断や、他人に敬意を持てない、そういうところは治っていかないぞと。このシステムやあり方を一から考え直してみましょうよと。
で、発酵から見直してみたいと思うのです。また元に戻ってきましたね。
うちの麹の作り方ですね。
結局、悪い奴が悪いものを消していってくれるということで、世の中に不必要なものはないんだぞという話をしたわけなんですけれども、次です。
・菩提酛づくり
うちで酒種を作るときには、まず米麹を作るんですね。
そして「菩提酛づくり」と呼ばれる方法で酒を造っていきます。
最初に乳酸菌を採取するんですが、このときJAS有機のお米を使ったたことがあるんですね。
このとき、ものすごく臭くなったんです。あれ、なんでこんなに腐敗臭がするのかなと思いながらも、いつものように次に酵母菌を採取しようとしたら、酵母が降りてこないんですね。
でも馬鹿だからね私、一週間ずつ仕込んで、次々にどんどん作っちゃうんですよ。で、200キロぐらい酒種を仕込んだときに、全部酵母が降りてこなくて、あれ?と思って、そこから結局は3か月間パンが出来なかったんですけど。
全然意味がわからなくて、素材が悪いのかなと、原因を考えてみました。
で結局のところ、ナチュラルハーモニーさんがやっている腐敗実験の中に答えがありました。
腐敗実験というのは、農法の違う素材を常温において、その変化を見る実験方法なんですね。
同じ瓶、同じ条件、同じ場所に、例えばきゅうりなら、有機肥料で栽培したきゅうり、無肥料で栽培したきゅうり、化学肥料で栽培したきゅうり、この三つを並べておくと、結局は有機肥料のきゅうりが腐っちゃうんですね。
ぐちゃぐちゃになってすごい悪臭がする。
化学肥料は有機よりは腐りにくい。無肥料は腐らずに発酵する。
だからといって、「無肥料栽培、万歳!」で終えたくないんですね。
無肥料だけじゃなくて、有機農家だって頑張ってるんだからいいじゃないか、ということでいろいろ調べていくと面白い文献をみつけました。
・菌の言い分
まるみ味噌さんという岡山の味噌屋さんが書いていたんですが、昭和30年から40年代に機械化とか近代農法で米が作られるようになったら、麹がうまく作れなくなって、すごく悩んだそうなんです。
これを読んで私の中でつながったのは、肥料をやり過ぎなんだな、ということですね。
その時代は化学肥料を使って同じ面積当たりでどれだけ米が採れるか、採れただけ自分の利益になっていくのでどんどん肥料入れちゃったんでしょうね。
で、この本の中で書いてあったのは、それまで品質の良かった海側の米の質が悪くなって使えなくなったから、質が落ちると思ってた山間地の農家の米で麹を作るとうまくいったと書いてあるんですね。
この頃は山の上はまだ化学肥料も使ってなかったんでしょうね。
でもそれも近代化の波にやられて、どこの米も同じように質が悪くなったと書いてありました。肥料を入れ過ぎということではないでしょうか。
そして現代では有機野菜が高く売れるので、単収上げたいからどんどん肥料入れるんですね。だから腐敗しやすくなるということです。たぶん科学的には、窒素分の入れ過ぎで農産物の中のたんぱく質が増えて腐敗しやすくなるということだと思っています。
これをもうちょっとわかりやすいイメージにすると、人間の欲望が腐敗をもたらしているんじゃないかということです。
人間がより儲けたい、より豊かな暮らしをしたいという気持ちを、菌は汲んでくれないんですね。
菌は何をしているかというと、「土からちょっと持ち出し過ぎじゃねえか?」ということで、すぐに腐敗菌がついてその場で腐らせて土に還そうとする。
それが多分、菌の在り方です。
持続に繋がらない方法で生産されたモノは、すぐに循環のゼロ地点に持っていってしまう。
つまり菌は「この土を千年とか長く守り続けたいだろう、お前は…」というメッセージを出してくれているんですね。
しかし人間は「いやいや、利益上げたいからもっと採りたいよ」ということで、肥料をたくさん入れてしまう。この問いかけに着目したいなと、私は思うんですよね。
しかし私だけでなく、意外にも農家さんの中にはこの事に気付いている人も多くいます。
土を守るために、単位当たりの収穫量を減らしてもいいという農家もいるんです。
しかし大量に安く農産物を扱いたい発酵業者は、収量は減らしたくない。
だから多く安く作ってくれと頼み、しかし腐敗すると困るんで、科学技術に頼るんですね。
・再生産費と給料の関係
腐敗しないようなもっといい発酵菌はないのか?ということで、菌の中から凄い仕事ができるやつだけを集めた、これが純粋培養技術です。
純粋培養菌とは、優秀なやつらを集めているので、ほぼ失敗しないんです。
だから肥料をガンガンいれて栽培された腐りやすいお米を使っても失敗せずに発酵させるというのが純粋培養菌じゃないかと思うんです。
この技術に関して批判する気はありません。
これは間違いなく素晴らしい技術だと思います。が、そこに企業の論理、資本の論理が乗ってくるとどうなるかってことなんですよね。
資本の論理が、あるいは株主が、現場を知らない人が、もうちょっと利益を上げろよっていうことになると、材料の質を下げるという方向に進んでいっちゃうんですね。経費を落とせということになる。
安い材料を使う方向にいくと良くないと思うんですね。
中国産の安いニンニクがあると、近くの農家さんの高いニンニクより、生活のために安い方を買うと。そうすると、富は中国に流れていくわけですね。せっかく地域にある富がなくなっていっちゃう、というのが多々あると思います。
卵だってそうですね。いま中国産の卵よく出ていますが、とても安いので卸す業者さんがあるわけですね。そうすると日本の卵屋さんとか疲弊していく。
安い原材料を求めて海外産を求めていってしまうと、せっかくある地域の富が廃れていってしまう。するとどうなっていくか。特に田舎では富がどんどん外に流れていってしまって、言い方は悪いですが、田舎が安くなっていってしまう。
仕事がないから、人件費も安くなる、生活費も安くなる。結果、農産物も安くなる。
で、田舎が安くなっても都会的にはいいじゃないかという話になるんですね。安い食料ってお財布に優しいと思われる方が多いと思います。
ところが、ここが本の中で私が一番言いたかったことですが、給料っていうのは再生産費で決まると言われています。
再生産費を簡単に説明すると、家に帰ってごはんを食べて、お風呂に入ってゆっくり休んで、次の日に元気よく仕事に行ける費用ということで、その中でも大きな費用というのが食費です。
だから、食費を安くできると給料も安くできるということで、だから田舎の給料は安いと。田舎の給料が安くなって食も安くなって、そして都会の食も安くなれば都会の給料も安くなるじゃないかということ。それがマルクスが教えてくれたからくりです。
・賃金格差問題の根
そして資本論ではもうひとつ言ってますね。産業の利益、資本の論理です。
金を儲けたいという欲求、食料をできるだけ安くしようという圧力をかける、これ別に日本の政府が圧力かけてるかどうか知らないです。
ただそういう傾向にありますよ、ということをマルクスは言っています。
本当かなと思って色々調べてみると、2014年度の産業別の平均年収ですね、電気ガスの人たちはこんなに高いのに、飲食サービス業は相当低いです。
これ標本調査なので、全員の給料を抽出しているわけではないですが、大体こんなところが妥当だと思いますね。
飲食235万、農業が300万ぐらいでしたね、食料品を扱う人の給料は安いんです。たしかに私も修業中、給料安かったですね。
食料品にかけるお金のことをエンゲル係数という言い方をしますが、これが家計の25%をしめるわけです。
「エンゲル係数が上がりすぎだよ、下げろ下げろ」なんていうのをネットニュースでも見ますけれど、どうなんでしょう。
食料を下げると給料も下がると、そういう負のスパイラルに陥ってるんじゃないかなと思っています。
その結果、誰が得をするのかなと調べていたんですが、調査不足でわかりません。誰が得をするか、見えないんですね。面白いですね。
ただ調べてみると年収1億円以上の人が17348人いますね、2014年。
それで派遣の人たちは170万人とかそんな感じ。こんな風に格差は広がっているのかなと思います。
ついでにいうと、2014年100億稼ぐ人が12人いましたね。すごいですね。
100億円てどんなものか全然わからないですよね。なので時給に直してみました。時給510万円です、面白いですね。
平均年収を見てみると、2014年のサラリーマン平均年収が415万円ですね。
この方々も同じ条件で時給に直すと2100円です。そんなものなんだなあと。
こういう大きな格差というのは、意外とみなさん喜ばしく捉えたりしますか?
「すげー!あの人頑張ったんだな」みたいな。
ところが逆に、庶民同士って争うんですね。
例えば派遣の人たちと、正規の人たちの年収の格差っていうのは、正規が477.7万円、非正規が169.7万円で、308万ぐらいの開きがあるらしいんですね。
これも2014年調べです。
そうすると、同じ仕事をして同じ時間働いてるのに、どうして私たちはこんなに給料低いの?とか言って、争っちゃうわけです。
もちろん悔しい気持ちはわかるけど、それより大きな格差の方にこそ、下々の格差問題の根があると思うわけです。そういう意味で格差っていうのは、私はなくすべきと思ってるんですが・・・。
渡邉格さんのお話 4 循環型経済の話に続く
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