
もとのくらし
核の乱発と、電磁パルスの永続的発生で、車、電子機器、はすべて壊れ、多くの都市も、人々の命も壊された。
生き残った人々の心も壊れ、缶詰ひとつを奪い合う殺し合いが続いた。
僕は、怖くて、一人、逃げた。
それから人に会っていない。
あらゆる場所を転々とし、食べれそうな保存食や草を食べ、海で釣りをして、魚を焼いて食べて糞をして寝るだけ。
そんなことをもう何年も続けている。
山奥のキャンプ場。
雑草が繁り放題。
もしかしたら何か食べ物があるかもしれない、キャンプ場の小屋を探る。戸棚を開ける。引き出しを開ける。バーベキュー用の炭があるだけ。
がさっ
外で物音がした。
僕は身を潜める。
あたりは夕暮れ。
大きな鼻息。
動物?
僕は窓から外を覗く。
茶色の軽自動車くらいのかたまり。
熊。
茶色・・・・・・・
ツキノワグマじゃない。
ヒグマ。
人がいなくなり、ヒグマは本州へ降りてきた。
僕が人々と暮らしていたときも、何人か、ヒグマに喰われた。あの大きさだと、もう何人も人を喰っているかもしれない。大きな鼻息が聞こえる。腹が減っているのか。冗談じゃねぇよまじで。僕はゆっくりと山小屋の入り口の鍵を閉める。
がちやり!
意外にも大きな音がして、唇を噛む。
顔をしかめながら、僕は窓のそとをゆっくり覗く。
何もいない。
どうやら、ヒグマは去ったようだ。
ため息をつく。
ぶあがたんっ!
突然小屋が揺れるような大きな音が響き、小屋のなかの食器が台から落ちて大きな音をたてる。僕は声にならない声を出す。窓のそとを見ると、山小屋の入り口にヒグマがたっている。目があった。山小屋の入り口は、鍵をかけた入り口だけ。あとは、この小さな窓だけ逃げられるわけないだろ目があっただろいまなんでこんなとこで熊がでてなんで僕がここでなんで吠えるんだよなんでぼくに威嚇するんだよなにもしてないだろなんか野うさぎとかいるだろ鹿つかまえろよ鹿をよ野性動物同士やれよなかよくこっちは人間だぞころすぞこらなんでおれだんだよなんでだよあっちいけよなにかぶぶきになるものなにかほほ包丁とかっほほほうきとかなんかフォークとかなんかえんぴつななないのかよほら探せよ落ち着けてよおれおちつけよおちつけえ探せよいままでいきてきただろここで死ぬなよわるいことせずにやってきたおれがなんで熊におそわれんだよだから吠えるなよ吠えるな!ややややややめろあっちいけいってくれたのむ考えさせて考えろ考えろやめろ吠えないでやめてこわいからやめてガラス割らないでたすけてだれかだれかだれかたすけてくださいだれかたのみます吠えないで食べないでお願いします
小さな段差につまづいて転んだ。なんだよなんなんだよ、え?取っ手?何かあ?何?え床下倉庫?
僕はその取っ手を摘まんで床下へ続く蓋を開ける。熊が吠える。僕は床下に入る。工具や灯油などが収納されている、一畳ほどの空間。懐中電灯がある。中に入り、蓋を閉める。ここなら、熊も開けられない筈。
熊が扉を壊す音。
10センチ上を、四つ足の動物が歩く音。
どす かちやり
どす かちやり
かちやり かち かつ かつ
爪が、床に当たる音。
息を潜める。暗すぎて怖い。気が狂いそう。懐中電灯を点ける。
何かナイフとか、斧とか、あ、斧があった。僕は斧をゆっくりとつかみ、懐中電灯と一緒に抱き締める。気づくなおれに気づくな気づくなどこか行けどこか行けどこか行けどこか行けどこか行けどこか行けどこかいけどこかいけどこかいけどこ
鈴虫の声。
ん?
熊は?
ん、どうやら少し眠っていたみたい。外の様子を伺う。
物音はしない。
抱き締めていた懐中電灯で、倉庫の中を改めて照らす。工具、灯油、薪。ビニールシート。
あれ、工具箱の上に、何かある。
iPhone?
懐かしい。僕が使っていたのと同じやつ。同じ色。
iPhoneを手に取る。電源ボタンを押してみる。
いや、わかってる。電源が入らないことくらい。
電子機器は全部壊れているから、電源ボタンを押しても、つくわけ、
ついた。
白い画面に、黒い食べかけのリンゴが映る。
え?なんで。
床下だから影響がなかったの?
久しぶりの電子機器の光。
このキャンプ場の人の携帯だろうか。作業中に忘れて置いたままだったのかな。
待ち受け画面は、ひげ面の若い男性と、綺麗な奥さん。そして、小さな女の子。あ、LINEに赤丸。新着メッセージ。
僕は思わずタップしてしまう。
あ、ごめんなさい、あ、無意識に、ほんとごめんなさい。
LINEの送り主は「みゆ」ってなってる。さっきの綺麗な女性に似ているアイコン。
「今日早く帰ってきてね、今日は街もこんなに積もってる。そっちはもっとかな。さとちゃんが絵本読んでほしいって。今日はからあげ。」
そして一枚の写真。
懐かしい。
人だ。
人の言葉。
街の写真。
懐かしい。
涙がでてくる。
マクド食べたい。
居酒屋行きたい。
上司の愚痴言いたい。
ネトゲやりたい。課金したい。
満員電車で舌打ちされたい。舌打ちしたい。
女性高生の髪の匂い嗅ぎたい。
クレーム処理したい。
生意気な後輩が失敗しても、缶コーヒーおごって、笑って許してあげたい。
もとの世界に戻りたい。もとのせかい、もとの暮らし返してください。
ぼくがなにしたっていうんですかもとのせかいに
かさっ
がだっ
どすっ かち
どさっ かつ かち
がさっ
ぎぎっ
ぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ
倉庫の蓋が開く
ヒグマが吠える
歯が全部見える凄い声だなぁ
もとのくらしをかえしてくだ
。。。。。。。。。。。
お世話になり続けているしめじさんが、「この写真つかって僕の暇をなんとかしてください。詩でもエッセイでも小説でも大喜利でもなんでもいいです」ということでしたので、僕は思いきってダジャレに挑戦してみました。しめじさん、気に入ってくれるかなぁ。
なんかしめじさんの記事のアドレス探しにいくときに見えたけど、ぼんやりRADIOさんが、もう投稿してたような気がする!先を越された!
あの人凄いんですっ!みなさん!!
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