見出し画像

学校規模ポジティブ行動支援:「成果」と「実行度」の関係

はじめに

学校で求められる成果は多様です。学業の達成、メンタルヘルスの改善、いじめの撲滅など、さまざまな成果を求めて日々指導が行われています。学業の成果は、日々の授業やテストからつけられた評価によって確認されます。日常生活の成果も、一人一人の気持ちや仲間関係の変化を捉えようとアンケートを実施し、結果を集計しています。こうした取り組みの中で、データに変化が伴うと嬉しいものです。一方、その変化は、本当に取り組みの成果と言ってよいのでしょうか?

実行度の確認

「データから見られた変化は、学校の取り組みによるものである」ということを検証するためには、「実行度」の評価が必要です。実行度(implementation fidelity)とは、実施された取り組みが計画通りに実行されたかどうかを評価するものです。理想的には、児童生徒に及ぼしたい変化がデータから明らかになり、変化を引き起こすための取り組みも一貫して行われたと確認されることが大切です。

SWPBS(School-Wide Positive Behavior Support)では、実行度を検証するためのチェックリストがあります。学校規模での取り組みが一貫して行われているかどうかを詳細にチェックするためには、SWPBSが構築する3層支援構造のそれぞれの階層の実行度の確認が必要です。下記には、3層支援構造のうち、基礎となる第1層支援のチェック内容をより簡単にまとめた一覧を示します。「チーム」の編成や運用に関する内容、「実践」の準備と実行に関する内容、実践の「評価」に関する内容、のそれぞれは、実行度を評価するための大切な視点となります。SWPBSに取り組もうと考えている学校、すでに取り組んでいる学校では、一覧の各項目の赤字の部分が整っているかどうかをぜひ確認してみてください。

SWPBS第1層支援の評価規準
参考:若林・半田・田中・庭山・大対 (2022)「学校全体で取り組む ポジティブ行動支援スタートガイド」より

実行度と成果の関係

成果とともに実行度を評価することで、取り組みの評価やその後の見直しが一層明確になります。

成果と実行度の関係
参考:Bruhn, A., Gorsh, J., Hannan, C., & Hirsch, S. E. (2014). Simple strategies for reflecting on and responding to common criticisms of PBIS. Journal of Special Education Leadership, 27(1), 13-25.

たとえば、理想通りに実行度を伴い手立てが講じられ、成果も出たとします(図の緑の部分につながる流れ)。こうした場合では、計画された手立てを継続したり、手立てを段々と取り除いていくという対応が考えられます。

あるいは、成果はあったが手立てが十分に実行されていなかった場合はどうでしょう(図の青の部分につながる流れ)。こうした場合では、手立て以外の要因によって肯定的な成果が示された可能性があります。だから、どのような環境の変化が起こったのかを分析し、その環境変化を維持するかどうかを検討する必要があります。

成果が生じなかった場合にもいくつかのパタンがあります。例えば、計画された手立てが一貫して実行されていたとしても成果が出ない場合はどうでしょうか(図の黄色の部分につながる流れ)。こうした場合では、単に手立てに問題があったと評価できるでしょう。だから、導入した手立ての見直しを行なったり、導入した手立てに加えて個別化された手立ての導入を検討したりします。

成果もなく、実行度も伴っていなかった場合はどうでしょうか(図の赤の部分につながる流れ)。こうした場合では、教職員間の共通理解に課題が残っていることが考えられます。そのため、取り組みの意義や方法をすり合わせたり、実行可能な手立てを再検討し、共有したりするための研修機会が必要となります。

まとめ

実行度を伴っているかをチェックし、定期的にデータ化することは、成果をデータ化することと同じくらい重要です。定めた計画に沿った取り組みが行われているかどうかは、成果にも大きく影響します。学校規模の取組ですから、実行度のチェックなしに進めると、成果があってもなくても、何が良かったのか悪かったのかの評価が難しくなることに注意が必要です。

SWPBSでは、こうした評価を少なくとも年1回、取り組み開始時には年内に数回実施することが推奨されています。各校の取り組みを進める際には、実行度という視点を持って学校規模の運営を見直し、校内の体制づくりに必要なものは何か、どうしたら実行度が上がるかの意思決定をデータに基づいて行いましょう。

いいなと思ったら応援しよう!