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PBがNBに成り代わる未来

PB(プライベートブランド)が日本に登場して約半世紀。安かろう悪かろうの象徴として、NB(ナショナルブランド)の劣化版コピーキャットと多くの消費者に認知され続けたPBがいま大きく進化している。セブン&アイグループが誇るPB「セブンプレミアム」の年間売上は1兆4500億円に達しており、これはサントリーや日本ハムの年間売上よりも高く、上場している食品企業においても5本の指に入る売上だ。小売業の販売力・調達力・資金力により、PBは徐々に覇権を握りつつあり、そう遠くない将来NBとの逆転現象が起こると予想する。ここでは、その3つ軸からその理由を解説したい。


(1)品質の向上

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PBの顧客イメージとして最も強いのは、いうまでもなく「安さ」である。日本におけるPBが家庭に浸透し始めたのは1970年代、折しも時代はオイルショックの影響により消費者物価が急激に高まっていた。消費者はより安価なものを求め、小売業のPBに飛びついていた。ただし当時のPBは品質が高いものは少なく、低価格の代わりに品質を犠牲にした商品が多かった。また、消費者にとってもPBは、価格の変わりに品質を犠牲にした妥協的な選択手段としての購買傾向があったと思われる。このような購買経験から、PBは「安物買いの銭失い」という低価格低品質のイメージが根付いたのであろう。

しかしながら、ここ数年、急速にPBのイメージは改善されてきており、かつての妥協的な購買から「NBよりもPBが良い」というポジティブな購買へと変化が起こっている。ソフトブレインフィールドによる2017年の調査によると、PBの購入経験は90%以上で、すでに消費者の生活に深く根付いてきていると言っても過言ではない。また、『1年前に比べてPBのイメージがどのように変わったか』という質問に対して「おいしくなった」「品質がよくなった」と回答した割合が58.9%、31.9%とイメージは上昇しており、調査結果からもポジティブなブランドイメージが増えているのがわかる。

これは流通小売大手の「セブンプレミアム」や「トップバリュ」に代表される先進的なPBが、大手NBメーカーと共同で商品開発を進め、NBの品質と遜色のないPB品を開発・発売してきたことが大きい。パッケージやブランド名を隠したブラインドテストではその差はほとんどないことが西友のPB「みなさまのお墨付き」により証明されている。同社は2015年に「横綱チャレンジ」というキャンペーンを実施。これはコカコーラとペプシコーラの飲み比べを実施した「ペプシチャレンジ」のPB版であり、各カテゴリーを代表するNB商品を横綱に見立て、味だけで横綱に同社のPBが挑むという構図である。東京・大阪・名古屋で計600名以上が参加した調査では、雪印のスライスチーズやクノールカップスープなどNB商品と、みなさまのお墨付き商品のパッケージ・ブランド名を隠した状態で食べ比べを実施。その結果、みなさまのお墨付き商品の方が美味しいと判断されたのが3商品、NB商品の方が美味しいと判断されたのが2商品、統計学的な優位差が出ずに引き分けとなったのが3商品であったという。このことからもNBとPBの品質の差は今やほとんどないものであると思われる。


(2)ブランディング

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品質的には差がないのにNB品が支持される理由、それは日本人が世界の中でもトップクラスに「ブランド」を重視する国民性だからである。毎日の日用品だけでなく、生まれてくる子供のための洋服選びから、葬儀場やお墓まで、まさに揺り籠から墓場までの人生でブランドを意識し選択している。モノも情報も供給過多な時代、効率的な選択をするためにブランドは欠かせない。そのため、NBとPBが隣同士に並んでいる場合、消費者は馴染みのあるNBを優先的に手に取るというのはあくまでも自然な行動である。

前述の安かろう悪かろうの時代においてPBは、NBのコピーキャットだった。あえてNBのパッケージに似せたそれにして、ともすれば顧客に間違えてPBを購入させることを狙ったかのような巧妙な類似的パッケージの商品を開発している小売業者が多かった。このような顧客を裏切る行為が、PBのイメージをより低下させていったに違いない。しかしながら大手リテーラーのPBは、品質を高めると共にブランディングも強化していった。2010年代に入ると前述の西友「みなさまのお墨付き」や、品質を重視し価格を妥協しない成城石井の「Decica」など、他社とは異なるブランドコンセプトを持ったPBが登場し始めた。それまでは「バリュー」「セレクト」など、どこかで聞いたことがあるPBのネーミングや、小売の名前をそのまま冠したPBが多かったが、個性的な名前をつけているのも印象的であった。また、パッケージにおいて記憶に新しいところには、2020年の春に全面刷新したローソンのPBは大きな話題となった。Twitterを中心にパッケージとしてわかりにくい機能性を取り座されることも多かったが、女性を中心に「かわいい」という声も多く聞こえ、パケ買い(パッケージ買い)をしたというTweetも散見された。

さらに、PBのイメージを大きく改善させたのは、「セブンプレミアムゴールド」や「トップバリュセレクト」など、素材や製法にこだわり、価格も品質もワンランク上のプレミアムPBが登場したことが大きく寄与しているものと思われる。中でもパラダイムシフトを起こしたのは、セブンゴールドの「金の食パン」だ。低価格を売りにしていたPBにとって、2斤で125円という高価格な厚切り食パンは、これまでの定説からすると売れるはずはなかった。しかしながら発売からわずか4ヶ月足らずで販売個数は1,500万個を突破する大ヒットを記録。昨今の高級食パンブームの火付け役ともなった本商品が、PBの品質イメージだけでなく、ブランドイメージをも大きく転換させた。

このように品質と同時にブランドイメージを高めたPBは、同質性を回避すべくブランディングの強化を図り、独自のブランドビルティングを通じて他者との差別化を図ることが、PB戦略において必須になってきている。


(3)プラットフォーマーのデータ活用

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PBを持つプラットフォーマーとしての小売の利点は、データ活用にある。ID-POSデータを自由に活用できるのはリテーラーの特権であり、NBメーカーがいくら消費調査を繰り返し実施したところで手にできないものである。この顧客の購買データを活用してPBの商品開発へ生かすことにより、より顧客満足度の高いPBを提供することができるのだ。

しかしながら、他業界に比べ特にDXが遅れている小売業においては、データを活用したPB商品開発を実施しているところは少ない。有名なところでは、ZOZOがZOZOSUITを使い10万人以上の身体データを蓄積してPB商品を開発。コンセプトは非常に素晴らしかったが、こちらは生産遅延や品質問題により残念ながらPB商品の販売を中止してしまった。また、Amazonは2020年、出品業者のデータを不正利用してPB商品を開発していたと告発された。これは、Amazonの元従業員が認めたもので、同社のサイトに出店している事業者に関するデータを活用して、その事業者が販売している商品(NB)に対抗するPB商品を開発・販売していると指摘されたのだ。このAmazonの事例は競争法違反に当たるコンプライアンス的には許されない問題ではあるが、逆にここからわかることは大手小売業がデータを本気で活用すれば、いとも容易く市場を支配できてしまうのである。

一部を除けばまだまだ小売業者のデータ活用は遅れているが、今後DXが加速して、ビッグデータの解析・活用が進むにつれて、小売業のPBはさらに進化していくだろう。



以上が、PBがNBを凌駕する未来が近いという理由である。NBメーカーがされどPBと鷹を括っている時代は完全に終わった。PBとは一線を画すブランド戦略や差別化戦略を推進していかないと、10年後に棚スペースをもらうことはできないだろう。





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