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「元の状態に戻りたい」と言われたら

この言葉は,医療・介護の専門職であれば何度も聞きますし,漠然としていて対応に困る言葉だと思います。
そのような発言に対する支援者のあり方の一つを考えてみたいと思います。

まず,ここで言う『元の状態』というのは,病気やケガの発症前の状態を指すことが多いと思います。
しかし,人間が生きている以上は常に細胞分裂が繰り返され,体は老化し続けています。理論上,人間の体が過去に戻ることはありません。

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とは言え,「元に戻りたい」と語る人が聞きたいのは,そのような事実ではないでしょう。
「元に戻りたい」というのは,今が苦しいからこその言葉です。
それは,その人の物語(病い)に関わる言葉なのです。
*疾患と病いの違いについては別項で解説しています。

対象者が物語(病い)として語っているものを,
支援者が科学的根拠(疾患)で捉えて話しを進めてしまうことで,お互いの話しにギャップが生じることになります。

よって,まずは語りを“聞く”ということが大切になります。

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相手は,物語(病い)を語っているので,支援者も相手の物語に焦点を当ててじっくり“聞く”ことから始める必要があると思います。
そして,その漠然とした言葉の正体を探るように,支援者の問いかけもナラティブなものに焦点を当てていきたいのです。

例えば,
「元に戻ったら何がしたいですか?」,
「〇〇さんにとって元に戻るってどんなふうになることですか?」
などはどうでしょうか。
まずは,病いの語りをしっかりと聞き,そこから漠然とした言葉の正体を明らかにしていく。病いの語りが共有できたら,そこからエビデンスを含めた話しの展開が望ましいように思います。
医学的に言えば,人間が過去の状態に戻るというのは有り得ないわけです。しかし,それを本人に伝えても何の解決にもなりませんし,ただ傷つけるだけでしょう。

「元に戻りたい」と言われたら・・・
まずは,じっくりと相手の物語(病い)を“聞く”ことから始めるのが大切に思います。

ほんの少し見方を変えるだけで,相手の捉え方が変わるのも臨床哲学の実践の一つです。

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【参考文献】
・榊原哲也(著):医療ケアを問い直す.ちくま新書
・西原ユミ・榊原哲也(編著):ケアの実践とは何か.ナカニシヤ出版

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