最近読んだもの。 #5
はじめに
2月も半ばでレポート出したり、研究会出てみたりしてるんですけど、論文書こうとしても何からやったら良いのか…手がかりを掴めずどうしたら良いかわからなくなるときがちょくちょく出てきました。
映画音響の本をもっと深めにみると良いのかな〜と思ってたり…すごい試行錯誤中です。
レジ―『夏フェス革命――音楽が変わる、社会が変わる』
音響身体論とメディア化の関係を考えるうえで、音楽フェスティバルのような巨大な音楽ライブ会場での観客の音楽体験についても取り上げる必要があるので読んだもの。フェスが発展する過程での聴衆と運営側の協働性などはこれまでも論じられてきたが、その背景や事例を(今日らしく?)Twitterのツイートやネット記事を引用しつつ論じている。フェスにおける観客の過ごし方の違い、フジロックのYoutubeライブ配信など、一つのフェスであっても音楽体験に違いが見られる点を論じる上で出発点になる本。
宮入恭平・佐藤生実『ライブシーンよ、どこへいく』
こちらも音楽ライブの先行研究の確認で。
終章の「音楽ライブ」概念の変容の部分は、YouTube等の登場でPCを「ハコ」にしてしまえる今日の音楽ライブ空間を論じるうえで重要な指摘。
粟谷佳司「ロックの時代精神からオーディエンスへ――文化研究とポピュラー音楽」
(『ポピュラー音楽研究 Vol.2』p.23-34所収)
ロックの意味性の議論に焦点を置き、特にサイモン・フリスの「時代精神」について検討、さらに聴衆がその意味性の付与とどのように関わるのかを論じたもの。ここでも真正性(オーセンティシティ)の問題が取り上げられている。後半はアドルノの文化産業論からメッセージのコード化/読解モデル、エスノグラフィー手法のモデルまで、各研究モデルにおけるオーディエンス概念の変化とメディア受容の展開と事例がまとめられている。
中村美亜『音楽をひらく――アート・ケア・文化のトリロジー』
よく「音楽の力」「音楽には力がある」的に語られるものごとの観点から、社会的芸術実践として音楽を論じていく本。本書の論はクリストファー・スモールのミュージッキング論をベースになるが、ミュージッキングの議論に欠けていた「音楽的テクストのパフォーマティヴ性」の視点を指摘・補足する2章、音楽による身体への働きかけをピエール・ブルデューの「ハビトゥス」や音の認知科学的プロセス・認知の共有の視点から考察しつつ、音楽体験の意味づけや語り直しによってコミュニティケアや社会の変容が生まれることを論じた4章、音楽のフェティッシュ性と社会的な価値創造を論じた6章が個人的に興味深い。
6章では音楽体験と価値創造の問題が論じられており、フィリップ・オースランダーの「ライブの聴覚的体験がどうであれフェスに行ったこと自体が価値となる」話が引用されている。自分の研究の場合、音楽的体験の違いと価値判断どうこうよりもその音楽体験自体の違いがどう表れているのかという点に着目しているので、その点での先行研究との相違点の説明とかを念入りに行った方がいいな…という感じ。また本書では音楽体験を言語化して「語りなおす」ことでの価値創造に重きが置かれており、現象学的な音楽体験の記述という面からも考えられそう。
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